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オープンユニバース  作者: ペタ
第1章 煌きの残滓
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「警備主任。アルヴァ・ガイナス。君は本日付で解雇とする。本社と寮にある君の荷物については搬送するから、近日中に搬送先を伝えること。制服、身分証は本日中に返却するように。以上」


 事務所の部長は、ほとんど一気にそのセリフを読み上げた。

「了解しました」

 ガイナスは短く答えた。確かにコンサートがあれだけの大混乱になったのだから、誰かが責任を取らざるを得なく、警備主任の自分がそうなることは容易に予想できていた。


 コンサートの後は警察も来て、現場の調査が行われ、警備主任のガイナスも立ち会った。調査は深夜まで続けられた。結局、犯行は単独に行われ、複数発生した爆発音については、男が会場に入ろうとする女性が持っていた紙袋に、火薬性の爆発物を入れたのが原因とのことだった。スーツの男たちのことも話し、警察も関心を持ったが、今回の事件とは直接関係はないらしい。その翌日、ガイナスは部長に呼び出され、告げられたことが解雇だった。


 何の反論もしないガイナスのことを多少気の毒に思ったのか、部長はさらに言葉を続けた。

「まあ、今回のことは災難だったが、君なら、別の就職先もすぐに見つかるだろう。今までお疲れ様だね」

「恐縮です」

 部長の言葉に何の感慨もわかなかったが、とりあえず言葉は返した。この芸能事務所には高い給料で雇われて三年程勤めていた。普段は第二宙域の主星オルテアにいて、外で事務所の歌手がコンサートなどを行うときに、随行する。ガイナスはあまり浪費する方ではないため、貯金もあり、また、部長の言葉通り別の警備の仕事を見つけることもそんなに大変ではないと思った。


 ガイナスが部屋の外に出ると、外の廊下には、部下の警備員が三人立っていた。そのうち、一番若い二十代半ばの男が言った。

「主任。解雇されるって本当ですか」

「まあな」

「そんな……。あの場合、どうやっても防ぎようがないじゃないですか。それを主任のせいになるなんて」

「仕方ないだろう。結果的にコンサートが中止になってしまったのだから」

「主任がいなくなるとさびしく思います」

「まあ、あとは頼んだ」

 そういうと、ガイナスは部下の肩を軽くたたくとその場を後にした。




 ガイナスの所属する芸能事務所は宇宙のあちこちに事務所を持っていて、今いる場所もそうした場所の一つだった。

「さて、これからどうするか」

 ガイナスは荷物を詰めたカバンを手にして、事務所の近くの公園のベンチに座っていた。突然無職になってしまった自分の境遇を嘆くこともなく、ただ、これからどうするかを考えていた。近くを幼い子供が走り回っているが、ガイナスの巨体を見ると、おびえた様子で慌てて逃げ去る。


 ふと少し離れたところに若い四人組が歩いているのを見つけた。自分の方を見ている。何しろ巨体なため、人々の視線を感じることはよくあるが、今はそれとは少し違う感じだ。やがて、その一行が近づいてきた。男女二人ずつの四人。そのうちの赤毛の男と金髪の女には見覚えがあった。

「昨日の二人か」


 偶然。なんてことはありえない。事務所を調べて、近くで待っていたか……、とガイナスは思考を巡らせた。

 そんなことを思っていると、二人はガイナスの近くまで来た。

「昨日、コンサートホールで僕たちを助けてくれた人ですよね」

 赤毛の男が話しかけてきた。

「ああ、そんなこともあったな」

「僕はファブリス=ノマーク、こっちは妹のメルルです」

「ありがとうございました」

 二人は声をそろえて言った。ガイナスはその名に少し引っかかるものを感じた。

「別に礼など必要ない。こちらも仕事でやったことだ」

「例え仕事だったとしても、助けていただいたのは確かです」

「まあ、いい。それよりも昨日の連中は何なんだ。素人には見えなかったが、なぜ、追われている」

 ファブリスはケネスの方を見た。ケネスは軽くうなずいた。

「あの人たちは保安局です。少し前から追われていまして」

「保安局か。それはやっかいだな」


 捜査などを行うについては、法律で定められたルールがある。警察などは比較的それを守っているが、保安局については、公安秩序の維持を目的に法など無視して行動することがある。もちろんそれは違法であり、許されることではないが、元老院の後ろ盾のある保安局は、そうしたことを意に介さない組織であった。

「それで何で保安局なんかに追われているんだ」

「それは、すみません。言えません」

「別にかまわない。こちらもそんなに知りたいわけではないからな」


 ガイナスは四人を改めて見た。大柄の男は壮年だが、あとは明らかに十代の若者。保安局に追われている理由など思い浮かばなかった。

「それで、要件はそれだけか」

 ガイナスは言った。

「いえ」

 ファブリスは首を振った。

「もしよろしければお礼にお食事でもいかがかと思いまして」

「食事? 俺とか」

「はい。もしよろしければ」

 メルルはにっこりと笑った。

「まあ、別にかまわないが。暇だしな」

「お仕事は大丈夫なんでしょうか」

「仕事か。それなら問題ない。たった今クビになったところだからな」

 その言葉にファブリスたちは驚いた。

「クビって、それってもしかして保安局とのことが原因で?」

「いや、それは関係ない。コンサートがあんな結果になってしまったのが原因だ。保安局との一件は関係ない」

「そうですか」

「それでは今日の夜、近くのレストランでいいでしょうか」

「ああ。問題ない」

「ところで名前を伺ってもいいですか」

「ああ。そう言えばまだ名乗っていなかったな。俺はアルヴァ=ガイナスだ」

 ファブリスはガイナスと連絡先を交換すると、いったん別れた。

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