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オープンユニバース  作者: ペタ
第5章 緑の星
18/43

5-5

森の中にぽっかりと開けた空間の周りには高い木々が連なり、その空間を隠すようにドーム状になっていた。森の上の方に懐中電灯を当ててみたが、木の枝葉を照らすだけで星空はほとんど見えなかった。

 空間の真ん中にその建物は立っていた。高さは五階建のビルくらいあるだろうか。尖塔が左右に二本伸び、その周りには傾斜角が大きい屋根があり、高い位置には縦に長い窓があった。

通常のビルとはだいぶ異なる印象で、離れた所からみると石造りのように見えたが、近くで見てみると、実際には強化セラミックでできているようだ。光を当てるとわずかに表面が反射した。建物の周りは石の床が正方形に広がっていたが、その上には枯れた葉や枝が深く積っていた。

「何なんだろう、この建物。どうしてこんなところに」メルルが言った。

「何かの宗教的なもののように見えるな」ファブリスは思ったままのことを言った。

 老人は引き寄せられるように建物に近づいて行った。

 先程からファブリスは建物の周囲を見ているが、入口らしきものが見当たらないことに気がついた。表面にはあまり凹凸がなく、かなりシンプルな作りである。ケネスも建物の周りを一周してきたが、反対側にもないらしい。背の届く範囲には窓もなく、中の様子をうかがうこともできない。

「どうやって入るんだ」ケネスが老人に聞いた。

老人はケネスの問いかけには答えず、建物の周囲を歩きながら、外壁を手でなぞっていた。そして、あるところに来ると歩みをとめた。

「思いだしてきたぞ。確かここらへんじゃ」

老人が外壁に両手を触れた。するとそれまで何もなかった壁に変化が発生した。老人の触った辺りが四角くくぼみ、そして左右に分かれ、壁には人が通れる大きさの四角い穴ができた。中から光が漏れてきている。老人は吸い込まれるようにその中に入って行った。

「どうするよ」ケネスはファブリスに聞いた。

「ここまで来たんだから、行ってみるしかないと思う」

 四人はファブリスを先頭に、穴から中に入って行った。

 建物の中には電気がついていた。構造としてはかなり簡素な造りであった。

まずカウンターと思われる場所が入って左側にあった。正面には通路が少し伸び、その先に部屋があるようだが、半透明な壁で仕切られていて、中の様子はよく分からない。右側にも通路が伸びていて、そちらには通路に沿ってドアがいくつか並んでいた。外観とは異なり、中は普通のビルとさほど変わらない印象だった。どこにも人影は見当たらなかった。

 老人は正面にある半透明の壁の前に立っていた。ファブリスが老人に話しかけようと近づいて行ったが、何気なく左手のカウンターの中を覗いてみた。カウンターの中の壁際には棚があり、書類らしきものが並べてあった。そして、それらよりも床に無造作に置かれている紙の束の山が気になった。もしかしてと、よく見てみるとそれは紙幣だった。

「お金だ。こんなにたくさん」

ファブリスが叫んだ。近くで見てみるとほとんどが高額紙幣であり、百枚ごとに束になったものが山と積まれていた。

「すげえな。いくらあるんだ」ケネスもうなった。メルルとニナも驚いている。

「じいさん。宝ってこれのことかよ」

先程から半透明の壁の前で何かやっている老人は、振り返らずに答えた。

「それは信者どもの寄付だな。そんなものこの先にあるものに比べたらゴミじゃ。ほしければ好きなだけ持っていくがよい」

「本当か、じいさん」そう言うとケネスはカウンターの中に入った。

「すげえぞこれ。億はあるんじゃねえか。俺たち億万長者だぜ」

ケネスは用意周到に持ってきていた布の袋にお金を詰め出した。

「あとで返せといっても返さねえぞ」

 ファブリスたちはケネスがお金を詰めるのを黙って見ていたが、その様子にケネスは言った。

「お前たちは持っていかないのかよ」

「でも、信者の寄付って、要はお布施だよね。そんなの持っていっていいのかな」ファブリスは言った。

「確かにあまり気が進まないな」ニナも同意見のようだ。

「そんなの関係ねえよ。持っていっていいって言っているんだから、持っていけばいいんだよ。金は金だ」

ケネスは話しながらも手は止めず、やがて布袋いっぱいに紙幣を詰め終わった。布袋はぱんぱんに膨らみ、かなりの量のようだが、床に置かれてあったお金はもともとの量がかなりのものであるようで、札束の山はまだ半分以上残っていた。

 そのとき、正面を塞いでいた半透明の壁が左右上下に開いた。老人が何かやったらしい。老人はその先へと進んで行った。

「おい、じいさん、勝手に先に行くなよ」

ケネスが膨らんだ布袋を抱えて慌てて追いかける。ファブリスとニナもそれに続いた。

メルルも追いかけようとしたが、歩みを止めた。そして、カウンター越しにまだたくさん残っているお金の山に視線を送った。ファブリスたちが先に行ったのを確認すると、そっとカウンターの中に入った。

「お金はお金、だよね」

大きな袋などは持ってきていなかったが、いつも持ち歩いている小さなポーチに札束を三つ詰め込んだ。そして、ファブリスたちが入って行った部屋に向かった。


 次の部屋はかなり広く、吹き抜けになっていて、建物を縦に貫いていた。空間は地上だけでなく、地下にも広がっており、かなり深くまで続いていた。地上五階、地下は四階くらいまであるだろうか。フロアすべてに所狭しと本棚が並べられていて、すべての本棚には本がぎっしりと詰まっていた。

「図書館かここは?」ファブリスが言った。テルビナにも図書館はあったが、そことは比べ物にならないほどの規模であった。

「すごいなこれは」本棚を見ていたケネスは言った。「宇宙時代以前の本もあるぜ、ここには」ケネスがある棚を指さした。そこには何百年もの前の本が並べてあり、貴重すぎてとても手にとって見る気にはなれない。他にも博物館にでも展示されていそうな貴重な本が多数並べてあった。


 老人は入口から少し入った所で立ちつくしていた。雷にでも打たれたかのように一点のみを見つめていた。

老人の頭の中には、ある情景が浮かんでいた。それは図書館が火に覆われる情景であった。

多くの者たちが、貴重な本を少しでも運び出すために炎の中で悪戦苦闘するが、そんな努力もむなしく、貴重な知の財産が焼き尽くされるのを何もできずにただ見ているという光景であった。

老人には記憶がなかった。自分の名前も、両親の顔も、かつて自分がどこで何をしていたのかも分からなかった。しかし、この建物を見た瞬間から、少しずつ老人の頭の中で変化が起こっていた。建物を見たことによって、消えていたいくつかの記憶が頭の中によみがえってきた。さらに建物の中に入ると記憶の修復は加速された。しかし、いずれも断片的なものであり、記憶の断片をつなぎ合わせようとしても、それはつながらず、もどかしい思いでいっぱいだった。


「おい、じいさん大丈夫か」老人は呼び掛けられる声で我に返った。

「大丈夫だ。決まっておろう」そう言うと、老人は部屋の奥に向かってまた歩き出した。

「この部屋、っていうか、この建物は一体何なんだ」

ケネスの問いかけに老人は何も答えなかった。


 老人は図書館の奥にある半透明の壁に向かって歩いていた。しかし、何かを思い出したかのように立ち止まると右に進路を変えた。そこには別の半透明の壁があった。老人が壁に手を触れると、またしても壁が開いた。

「どうやら指紋認証のようだな」ケネスが言った。他にもある半透明の壁にケネスが触れてみたが何の反応もなかった。

「おそらく登録された人の指紋なり掌紋を読み取って壁が開くという仕組みだろう」

 老人が入って行った部屋にファブリスたちも続いた。そこは図書館に比べると小さかったが、それでもテニスコートくらいの広さがある部屋だった。そこには壁際に棚が並べてあり、部屋の真ん中には透明のショーケースが一列に並んでいた。そして棚とショーケースには自動小銃やレーザー砲、手榴弾など多量の武器が並べられていた。

「すげえな。戦争でも始めるつもりか」ケネスはそう言って、手近な棚から自動小銃を取りだした。本物のようだ。

ファブリスはショーケースに注目した。そこにはペン型の銃やピンポン玉くらいの大きさの小型爆弾など、あまりまともな活動には使われないような様々な武器がおかれていた。

老人はまたしても一点を見つめたまま立ちつくしていた。

老人の頭の中にはまた新たな情景が浮かんでいた。それは多くの者たちが銃をもって、残虐な迫害者たちと戦う姿であった。皆、死を恐れず、立ち向かっていったが、迫害者たちは装甲車や戦闘艇を使い、圧倒的な火力で、一人一人と味方は力尽きていった。


「おじいさん。大丈夫?」

近くで呼び掛ける声が聞こえた。声の方を見ると、確かメルルという名前で呼ばれている娘が心配そうに見つめていた。

「大丈夫じゃ。ここではなかった。別の部屋じゃ」そう言うと、老人は入ってきたところから出ようとした。

「おい、じいさん。いい加減に教えろよ。この部屋明らかに普通じゃねえ。何でこんなに物騒なものを隠し持っているんだ」

ケネスは老人の進路を塞ぐように立ちはだかった。

「確かにこんな無粋なものはこの神聖な場所にはふさわしくないものだ。いずれ処分しよう。ほしいものがあったら、何でも勝手に持っていくがよい」老人はそう言うと、ケネスを避けて部屋の出入り口から出ていった。

「何なんだよ。一体」ケネスは言いながら老人を追う。


 ファブリスは先程からショーケースの中身が気になっていた。特に目の前にある腕時計型のレーザー銃に。一見すると普通の腕時計だが、文字盤を開くとレーザーの発射口がついていて、ボタンを押すとレーザー光線が放たれるというものだった。何かに使えるかもしれない、そう思うとファブリスは時計を手に取り、腕にはめてみた。


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