過去 前編
上手に書きたい…
浅木と別れた後、俺は職員室前の集配ボックスに数学のノートを忘れたことに気付き、急いで取りに行った。職員室は北館の二階にあるため、四階の生徒会室からは階段を降りるだけでたどり着くことができる。
職員室前に着いた俺は集配ボックスにある数学のノートを手に取り、自分の名前が書いてあることを確認してから背に背負っていた鞄の中にいれ。そして靴箱に向かおうと階段に向かうと、
ダム…ダム…
体育館からボールのつく音が聞こえた。現在時刻は六時九分。まだ部活動はしている時間だ。おそらくバスケットボール部だろう。
―――「ぐぁぁぁ!!!」――…
ふと、脳裏にあの時の事が浮かんだ。
俺は靴箱に着き、靴を履き替え校舎を出た。
グラウンドの横の道を通って校門を出る。野球部とサッカー部が熱心に練習をしていた。
「……。部活…か。」
道路の横の歩道を歩いていると、俺の横に大型トラックが横切る。
「……なんでこんなときに通るんだよ…。」
少し俺の過去の話をしよう。俺は中学時代、バスケットボール部でキャプテンをやっていた。学校生活では静かな俺からは考えもつかないかも知れないが本当だったのだ。
当時の俺はチームからや他校の先生から一目置かれる選手として注目されていた。どうやら俺には才能があったらしい。百人に一人の逸材と呼ばれるほどだった。
中学三年の夏、俺は最後の大会を目前にして、気合い十分だった。全国大会も夢じゃない。当時の監督は言ってくれた。
……だが…俺はあることが原因で最後の大会に出ることが出来ず、初戦敗退。誰もが予想だにしていなかった結果となった。
―――中学三年夏 最後の大会の一週間前
俺は最後の大会を一週間前に控え、少なからず緊張感を抱いていた。
朝起きた俺は一階のリビングへと向かった。
「おはよ。瑠美。」
朝食を作っている瑠美に挨拶をした。しかし瑠美は…
「……。」
無視。彼女は現在中学二年生。この時期は誰もが経験する『反抗期』だ。彼女も例外ではなかった。
ある時を境に彼女は唐突に俺への態度を変えた。俺と喋らなくなったり、リビングに来ず自分の部屋に閉じこもったり……今まで仲が良かった分、仕方がないとはいえショックは大きかった。いつまでもお兄ちゃん離れしなくて、俺にベッタリだったのに急に離れてしまうと兄としては寂しいものだった。ちなみに俺は親がいなかったからなのか、反抗期というものになったことがない。
「いただきます。」
俺はそう言って箸を進めた。瑠美の作る飯は美味しい。しかし、二人とも一言も喋らずもくもくと飯を食べる。こんな雰囲気の中で食べる飯はいくら美味しくても気分的に最悪だ。
俺は先に朝食を取り終わった。
「ごちそうさま。今日も美味しかったよ。」
瑠美は俺の言葉に反応しなかった。俺は洗面所へ向かい歯磨きと顔を洗った。そして自室に戻り制服に着替える。鞄を背負って一階に戻った。
「瑠美、俺そろそろ行くよ。」
「……。」
反応なし。
「行ってきます。」
俺はそう言って学校へ出発した。中学校へは徒歩二十分で到着する。朝からあまり良いとは言えない気分で歩いていると
「あ、連じゃん!おはー!」
後ろから男子の声がする。彼は相田圭二。同じバスケットボール部のチームメイトだ。彼は副キャプテンとして俺を手助けしてくれる心強い友だ。
「圭二か。おはよ。」
「今日もいつもどおりテンション低いなー。なんだ?また妹になんか言われたか?」
圭二がそう聞いてきた。
「いや、なにも言われてない。」
「?じゃあ良いじゃん。」
「なにも言われてないから良くないんだよ。」
そんな会話をしながら俺たちは歩く。
「そぅか。でも早いとこ立ち直れよ!そんなんで最後の大会に挑まないでくれよな。しっかりしろよ!キャプテン!」
「おう…わかった。」
学校につくと、クラスの違う俺たちはそれぞれの教室へ行った。成績については特に苦しい思いもしていない俺は苦労することなく授業に集中した。
放課後、俺は掃除を終えると少し早足気味に体育館へと向かった。一階の靴箱に靴を入れ、靴下一枚で二階えとあがった。
「うーっす。」
「「「こんちわーす!!!」」」
俺が挨拶しながら更衣室に入ると後輩たちが元気な声で挨拶をした。俺はそこで着替えを済ませ、練習時間になるまでシュート練習をしていた。台形の外からのセットシュート。ドリブルでフェイクを入れてから横にドリブルチェンジをしてジャンプシュート――と、見せかけて軸足とは反対の左足を中には踏み込み、ゴール下シュート。シュートはスパッというきれいな音をたてて入った。こんな風にシュート練習を時間がくるまでやっている。
「こんちわーす!」
後輩の誰かが大きな挨拶をした。恐らく監督が来たのだろう。みんなも大きな挨拶をした。
「集合だ。」
先生がそう言ったので俺たちは集合した。
「この一週間は大切な一週間だ。気を引き締めて練習に身を打つように。」
ありがたい言葉を聞いて俺たちは練習を始めた。
――――練習が終わり、俺たちは練習道具の片付けを始める。一通り終わると各自帰る準備が整いしだい解散となる。
「今日もしんどかった。」
そう呟いて俺は家へと帰った。
「ただいまー。」
家の電気はついていない。靴を見ても瑠美の分はない。
「今日もか…。」
瑠美は中学二年に入ってから夜遊びをするようになった。誰と遊んでいるかも分からず、一度本気で夜遊びはやめろと言った事があった。しかし瑠美は全く言うことを聞かなかった。俺も瑠美が危ないことをしていないことを信じて敢えて止めていない。夕食は作りおきしてくれているので、それをレンジでチンして食べようとした。すると
プルル…プルル…
俺の携帯がなる。誰だろうか…画面を見てみると、伯父さんだった。
「もしもし、伯父さん?」
「おう連。久しぶりやな、元気しとーか?」
「してるよ。どしたの?」
相変わらずの関西弁。伯父さんと連絡をとるのは久しぶりだった。
「いや、もうすぐ部活最後の大会やろ?その日にち聞こうと思てな。」
「教えてなかったっけ?えっと、今週末の土日。」
「そうか。ほんなら行くわ。応援しとーで。」
「ありがと。」
俺はお礼を言った。
「瑠美は元気しとー?」
「……うん。元気にしてるよ。」
仲が悪いとは言うことが出来ず、伯父さんには元気にしてると言った。
「お前ら二人には苦労させてるからなぁ。俺に出来ることはお金出すこと位しかできひんから、すまんな。」
伯父さんは俺に謝ってきた。
「いや、大丈夫だよ。お金ほんとにありがとう。」
「そうか……。」
会話が詰まった。何となくもう少し話したかったので俺から話を作った。
「今家にいるの?」
「いや、仕事帰りやで。」
「そうなのか、お疲れ様。」
「おう…………ん?」
伯父さんの様子がおかしい。
「どうかした?」
「あれって……瑠美?」
「……え?…」
なんと瑠美がいるらしい。
「おい……なんか変なおっさんと歩いとうぞ。」
「な、なんだって!?」
もしや……援助交際!?
「伯父さん今どこ!?」
たまらず俺は聞いた。
「えっと……○○町のコンビニの前通りすぎたとこや。あ、あかん!見失ってまう。ちょお追いかけてくるわ!」
○○町……すぐちかくだ。
「俺もすぐいく!!」
そう言って電話をきり、家を出た。
俺は全力で走った。車通りの多い大通りで信号待ちしている。時間が過ぎるたびに俺は不安にかられる。危険なことはしていないと信じていた妹が援助交際しているかもしていない、そう考えただけで心臓が張り裂けそうだった。
○○町のコンビニ前に着き、辺りを見回したが伯父さんがいなかったので電話をかけた。
「おう、連か。俺も丁度かけよう思てたとこやったわ。」
「瑠美は!?」
「それが……信号につかまってしまって見失ってもうた。すまん。でも行ってた道は……多分ゲーセンやな。」
ここら辺でゲームセンターというと、一つしかない。
「わかった!!ありがと!」
俺はただただ全力で走った。
「ハァッ……ハァッ……瑠美っっ……!」
ゲームセンターに着いた。すると丁度瑠美が出てきた。
「……!?……なんで……!」
「瑠美っっ!!ハァッ……」
隣におっさん…と女の子がいる。
「あんた……うちの妹になんかしてねぇだろうな!!ハァッ…ハァッ」
「瑠美ちゃんのお兄さん?」
隣の女の子がそう言った。
「すみません、私はこの子の父親です。お兄さんが居たのですか、連絡しておくべきでした。すみません。」
おっさんが言った。どうやら女の子の父親らしい。
「なんでこんなところに?」
「夜道に女の子二人じゃ危ないと思ってどうしてもゲームセンターに行きたいと言う娘たちに保護者としてついていきました。」
「あんたも大人なんだったら親に連絡しようとは思わないのかよ。」
俺は苛立っていた。少し怒り口調で父親を責めた。
「それについては本当にすみませんでした。」
「まって!私が連絡しなくていいって言ったのよ!!」
瑠美が俺に言ってきた。
「瑠美!!人様に迷惑かけてるんじゃない!そろそろこんな遅くまで遊ぶのはやめろ!!」
俺は瑠美に裏切られた気分だった。一方的に責め立ててしまった。
「……っ…あんたには関係ないでしょ!!!!」
あんたには。そんな他人を呼ぶように瑠美は逆ギレしてきた。
パァン!!
俺は思わず瑠美に平手打ちしてしまった。
「…あっ!!…ごめ…っ」
「…………っ……だいっきらい!!!!!」
瑠美は思い切り叫んで走り去って行った。平手打ちまでしなくて良かった。そう後悔して、
「…すみませんでした。」
女の子の親子に謝って、瑠美を追いかけた。