気の強い後輩
「えー…明日からは二連休だ。まだ休みぼけしているやつはちゃんと勉強をして、充実した休日になるように。以上!」
担任の先生が帰りのSHRでありがたいお言葉をくださった。そして生徒たちは日直の号令のもと解散することとなった。
今日の俺は掃除が無いためすぐに帰ることが出来る。
俺は鞄を持ち教室を出て、靴箱へ向かうため西館と北館の間にある階段を通ろうとした。すると…
「ふぅ…ふぅ……んしょっ…重っ……。」
とても重そうな段ボール箱を三つも持っている金髪の女子がいた。
俺は重そうだな……と同情しながら階段を降りようとした……が、やはりここで無視してしまうのは良心が痛むことになるので手伝おうと決心した。
「あ、あの!手伝いましょう……っっ!?」
俺はその金髪の女子に手伝おうかと声をかけた。かけたのだが……彼女はすでに階段の最上段にいる。俺はまだ一段たりとも登っていない。この位置的に俺が彼女を見上げてしまうと……彼女のスカートの中が見えてしまうのだ。
「!…はい?」
彼女は重そうながらも振り返って返事をした。俺はというと…とてつもなくセクシーな黒色のパンティーを見てしまい、言葉を失っていた。
「??…どうかしたデスか?」
「!!あっ…い、いや…あの…」
フッと我に返った俺はキョドりつつも返事をしようとした。しかし、俺の視線の先には黒のセクシーなパンティーだ。
「??……」
彼女は不思議そうにした後、俺の視線がどこに向いているか気付いたのか、下をみる。すると……彼女は顔を赤くして、キッと俺を睨み付けた。
「っっ……変態……。」
「ぐっはぁぁぁぁ!!?」
その言葉は今の俺にとっては大ダメージだった。早く誤解を解かねば!!
「ち、違うんだ!俺はただ……」
そう言いながら階段を数段登った。そうすると彼女は口を開いた。
「近づかないでください。この変態。」
彼女はあとずさりする。これは不味い。なんとかしないと……。
「ちょっ、ちょっと待って!」
俺は更に数段階段を登った。
「ち、近づかないで!」
すると彼女は後ろに大きくバランスを崩した。
彼女はなんとか持ちこたえようと前に重心をかけ、なんとかバランスをとった。……と思いきや、今度は前に倒れてくる。
荷物を持っている為、体勢を持ち直すのは不可能だ。
「危ない!!」
俺はとっさに階段を全力で登った。彼女は荷物を落とした。荷物の中身が外へ出る。それに構わず俺は彼女に手を伸ばした。
痛ッッ……。何か手のひらに痛みを感じた。だが、そんなことに構ってる暇はない。
ガシッ!
彼女の肩を支えた。そのまま抱き抱えるような状態になった。
「はぁ…はぁ…。大丈夫か?」
「あ……ありがとごさいます……。」
ふぅ……良かった…。無事みたいだ。
右手がじんじんと痛む。見てみると、血がついていた。階段の下に散らばっている荷物の中身を見ると、血のついたハサミが落ちてあった。恐らくあれが刺さったのだろう。
「……あの…そろそろ放してもらってもよろしいデスか?…」
「ん…?あ!ごめ!…。」
慌てて彼女から離れた。彼女はジト目でこちらを見ている。
「助けてくれたのはありがとデス。でもパンツの事、まだ許してないデスから。」
うっ…さいやくや…。
彼女は散らばっている荷物を段ボール箱に集めた。俺は彼女を手伝った。
「何デス?手伝っても許しませんよ?」
「うっ……いや、俺はただ単に手伝いたくてだな…。」
またもや彼女はジト目で俺を見ている。恐らく信じてもらえていないのだろう。
荷物を集め終えると彼女は三つとも持ち運ぼうとした。
「持つよ。」
「…これくらい…変態先輩と手を借りるまでもないデス……あっ!っとと…。」
「ほら!フラフラじゃないか!」
そう言って俺は半ば強引に二個段ボール箱を取った。…うおっ……けっこう重いなこれ…こんなの三つも持ってたなんて…。
俺たちは階段を登っていく。
「どこまで運ぶんだ?」
「……四階の生徒会室デス、変態先輩。」
「なぁ……悪かったって……謝るよ…ごめん。」
「ついに罪を認めましたね?」
「い、いや!そういうわけじゃ……!」
な、なんだこの娘…隙がないというかなんというか……見たところ赤い名札を着けているから一年生みたいだ。金髪のロングヘアーで大体腰の辺りまで伸ばしている。スタイルの話だが…なんとあの姫城と張るほどの巨乳だ。顔もかなりの美少女でどことなくハーフっぽい。言葉も若干下手だし……ん?ハーフで金髪のロング?美少女?これってもしかして姫城が言ってた……。
「なぁ…もしかしてお前って最近噂の美少女ハーフ?」
そう言うと彼女は顔を少し赤らめた。
「その言い方はなんだか照れますね。相手が変態先輩なのが残念デスが。」
いちいち毒を吐くなぁ…。でも、当たりだったらしい。
「名前何て言うの?あっ、俺は―――」
自己紹介をしようとしたとき
「言いません。変態先輩の名前なんて知りたくもありません。」
うぐっ…やっぱり毒舌だなぁこの娘。
せっかく知り合えると思ったのだが、あえなく撃沈。そうしている間に生徒会室へとたどり着いた。
「ここへ置いてください。」
俺は指示を受けた場所に段ボール箱を置いた。
「……一応礼は言っておきます。」
「ああ…良いよ…。」
痛ッッ!!右手の痛みが増してきた。血が大量に溢れ出す。
(こりゃさっさと治療しないとな…。)
「?…どうかしました?」
彼女は俺の様子が変だと思ったのだろう。そう聞いてきた。彼女にこれを見せると余計な心配をかけるかもしれない。俺は慌てて右手を自分の体で隠した。
「いや、なんでもないよ。」
そう誤魔化す。
「あれ…この段ボール…血がついてる…。」
し、しまったぁー。
「床にも血が……。」
そう言うと彼女は何かに気付いたような顔をして、段ボール箱の中の血のついたハサミを取り出した。それをひとしきり見たあと、俺を見た。
「先輩。もしかしてどこか怪我をしてますか?」
き、気付かれた!?
「い、いや?してないけど?」
「……。」
俺が誤魔化すと、彼女は疑っているように俺を見る。
「そうデスか。ならいいんデスけど。」
ご、誤魔化せた……?ほっ…良かった…。
「用は済みました。そろそろ出ましょう。」
「そうだな。」
俺たちは生徒会室を出た。
「じゃあ俺行くよ。」
そう言って後ろを振り向き、靴箱に向かおうとしたその時、
ガシッ!
不意に右手を彼女につかまれた。
「……やっぱり怪我してるじゃないデスか。」
彼女はそう言ってポケットからハンカチを取り出して包帯がわりに結んでくれた。
「……なんで隠したデスか?…」
彼女は俺にそう聞いてきた。
「いや、変な心配かけちゃうかなって…」
俺がそう答えると
「別に、変態の心配なんてしません。」
そう毒を吐いてきた。流石にもう慣れたよ…。
「…でも、こうなってしまったのは私の責任デス。ごめんなさい。」
彼女は謝った。
「い、良いよ良いよ。お前が怪我しなかったならそれで。」
それを聞いて彼女は驚いたような顔をした。そして口を開いた。
「ユイナ…」
「え?」
「浅木結奈。私の名前デス。」
彼女は自己紹介をしてくれた。
「俺は市川連。よろしくな。」
「イチカワ?もしかして瑠美さんの兄デスか?」
俺が自己紹介をすると浅木はそう聞いてきた。
「瑠美を知ってるのか?」
「まぁ。一応クラスメートなので…。」
そうだったのか。
「そうか、仲良くしてやってくれな。」
「はい。」
「じゃ、俺そろそろ行くよ。」
そう言って俺は帰ろうとした。階段の前に行き下ろうとした時、
「あの」
浅木が俺を呼び止めた。
「どした?」
俺はそう聞いた。
「私は変態なあなたが嫌いデス。」
グッサァァァ。俺の…俺のハートがぁぁぁ!
「自分の罪を認めず、許してもらおうと必死なあなたが嫌いデス。右手の傷を私に黙って隠していたあなたが嫌いデス。」
グサ、グサァ!!もうやめて!俺のライフはもうゼロよ!!
「でも……自分を傷付けてまで私を助けてくれて、私を心配してくれたあなたに……ほんの、ほんの少しだけ感謝してます。変態市川先輩
。」
彼女はそう俺に笑いかけてきた。
そのあと彼女は東館へと消えていった。俺は階段を下りていた。
「変態市川先輩…か。」
まぁまだマシかな。そんなことを思っていた俺だった。