『友達』
「おはようお兄ちゃん。」
朝起きて一階のリビングに降りて我が妹、瑠美に顔を見せた。
「おはよ。」
今日も学校がある。明日は土曜日なので学校は休みだ。
学生というのは慣れてくると段々"サボりぐせ"がつきがちだ。仮病を使って休んだり、授業をボイコットしたり…まぁそのサボりぐせをつけないように俺は頑張っているのだが。
学校へ着くと基本的に俺は静かだ。特に仲の良い友達もいないし……いや、一人いる。
「おはよー市川君!」
そう、姫城舞である。彼女は俺の数少ない友達の一人だ。
この言い方だと他にも居るように聞こえるだろう。まぁ向こうが友達と思っているかは分からないが俺は友達と思っている人物がもう一人いる。
(そういえば今日は行かなきゃいけなかったな…)
俺は学校では基本静かだ。それ故に読書等もよくする。学校生活の大半はボーッとするか読書か。移動教室の時に姫城と話したりとか。
こんな学校生活を送っているため、大体六日~七日程度で本を読み終えてしまう。その為、大体一週間に一回の頻度で『図書室』へ行くのだ。
―――キーンコーンカーンコーン
そんなこんなで四時間目終了のチャイムが鳴った。
昼食をとろうと弁当を持ち、屋上へ向かおうとしたとき、姫城が俺の前に来た。
「市川君!ごめんね、今日はカナたちと一緒に食べるんだ。」
カナとは姫城の女友達である。
「ああ、大丈夫だよ。」
ニコッと笑いながらそう答えた。
―――昼食を済ました俺は借りていた本を返しに図書室へと向かう。
図書室は北館の四階にあり、屋上からは割りと近いのだ。
図書室に着いた俺はカウンターに向かい、図書委員の人に本を渡した。そしてまた新しい本を探しに本棚へと向かう。
ここの図書館は夏には冷房が、冬には暖房が効いていてとても静かで俺にとっては過ごしやすい環境である。……まぁ周りが騒がしくても大丈夫なんだがな。
本の種類も幅広く取り扱っている。俺は特にこだわらず様々なジャンルを読んでいる。
そうして本を選ぶ……前に、"友達"に会いに行く。
本棚を通りすぎると椅子とテーブルがいくつかある。そこでは本を読んだり、勉強をしている人がいる。
俺は窓際の机の所で本を読んでいる一人の女子のもとへ足を進める。
「よ。汐里」
「…こんにちは、連…。」
本田汐里。若干銀色の混ざっている肩に触れるか触れないかぐらいの長さのショートカット。彼女曰く母親の母親、つまり祖母が外国人とのハーフらしい。だから少しだけその外国人の遺伝子を受け継いでいるため、髪の色が少し銀色がかっているのだ。
身長は低めで大体155センチぐらいだろう。胸も控えめで全体的に小振りな体型だ。ルックスは確実に美少女の部類に入るだろう。
彼女とは一年前に知り合った。この図書室で。最初はミステリアスであまりしゃべることがなく、俺も喋るのが得意でもないのでどことなくぎこちかった。けど"あること"がきっかけでこうして下の名前で呼び会う仲になったのだが……実はその"あること"を俺自身覚えていないのだ。
なんだっけなぁ……
「今はどんな本を読んでるんだ?」
「これ。」
汐里はそう言いながら俺に本の表紙を見せた。
『あの日見たタケシの秘密』
……うわぁ…。
「それ…おもしろい…?」
「ん…なかなか…。」
「そ、そっか…なら良いんだけど。ははは…。」
汐里はなかなかマニアックな本を読んでいることが多い。その大半は聞いたこともない作者が書いた聞いたこともないような題名の謎な本である。
「連、今日は本を返しに来た…?」
「ん?ああ、そうだよ。」
そう返事しながら俺は汐里の横に座った。
「今日はどんな本…借りる?」
「んー…そうだなぁ、推理ものとかも良いかもしれないな!」
推理ものと言ったら犯人を突き止めた時の爽快感!くぅー…ああいうのって痺れるよね…。
そんなことを考えながらふと汐里の本を見ると、残りページ数があと数ページだった。
「もうすぐその本読み終わるな。」
「うん…。」
しばらくの沈黙。俺は窓の外をボーッと眺めていた。外のグラウンドで活発に運動をしている生徒たちがたくさんいた。
パタン。本の閉じる音がしたので汐里の方を見た。
「どうだった?」
俺は本の感想を聞いた。
「うん…坂ノ上の卑劣さがひしひしと伝わった。」
誰だよ!心のなかでツッこんだ。
「そ、そうか。次の本、どうするんだ?」
「……どうしよ。連、なにか良いの…ない?」
うーん……俺はあんまりこだわって読んだりとかしてないからなぁ…。
「連、恋に興味ある…?」
汐里がいきなりそんなことを聞いてきた。
「ないわけじゃないけど…。」
「……好きな人…いる…?」
どことなく恐る恐る聞いているように見えた。
「今はいないかな。」
「…ほっ…。」
何故か安心したように息を吐く汐里。なんだ?何故に安心する?
「汐里はどうなんだ?」
「私?私は……あるよ…。」
へぇ!意外だな!…いや、彼女も年頃。これが普通なのだろう。
「好きな人いるのか?」
「……うん…。」
汐里はそう返事をした。顔はほんのり赤い。彼女の肌は白く透き通っているので赤くなっているのがよく目立っている。
「へぇー!……あ!なら恋愛小説とかにしたら良いんじゃないか?」
「恋愛……小説…。」
「そう。例えば、そうだなー…。」
俺は立ち上がって本棚の方へと向かい、恋愛小説を適当に手に取った。それを汐里に見せてみる。
「これとかはどうだ?」
すると汐里は微妙そうな顔をした。そして席を立ち、本棚の前に立った。しばらく考えてからひとつの本を手に取った。それは…
「恋愛の…すすめ…?」
なんと小説ではなく、恋愛のアドバイス等をする本を手に取ったのだった。
はっはーん…さては汐里、恋愛に奥手なんだな?
察したぞ。
その本を持って汐里はもとの席へと戻る。俺も汐里の隣に座る。
しばらくの沈黙。
またもや俺はボーッとしていた。すると急に汐里が俺の方に顔を向けたのが視界に入った。
「?…どうした?しお……っ!?!?」
なんと、汐里は黙ったまま俺の腕を抱き抱えた。そうすると彼女の控えめな胸が俺の腕を刺激する。決して大きいとは言えないが、程よい大きさの胸がふにょふにょと当たって俺の心臓はボンバー寸前。
「お、おい…し、汐里っ…な、な、何して…っ!」
そのまま顔を俺の顔に近づけてきた。幸か不幸か周りには誰もいない。
「ちょっ……。」
「連。」
「ひゃい!」
耳元で俺の名前を呼んできた。いきなり声を出されたのと、吐息が耳に当たってビックリして変な声が出た。
俺は今耳まで真っ赤だろう。
「な、なんだ…汐里…?」
横目で見つつもそう訪ねると
「呼んでみただけ。」
ボンバーーーーー!!!
汐里は少し微笑んで言った最後の言葉で俺の心臓は破裂した。(あ、わかってると思うけど本当に破裂はしてないよ?)普段無表情でミステリアスな同級生がいきなり大胆な行動をして微笑んで自分の名前を呼んできた。な、なんやこいつ…かわいすぎヤロォーーーー!!
な、なんなんだ一体…。汐里ってこんなキャラだっけ?そう思いながら汐里を見る。
「……………どう…?」
「……へ?」
どう…って…どゆこと…?
汐里は俺から離れて椅子に座り直した。
「これ。」
そう言った汐里はさっき本棚から持ってきていた『恋愛のすすめ』のページを俺に見せてきた。
「これをすれば気になるあの人もイチコロ…?」
……あ!なるほど、さっきのはこれのことか!
つまり汐里は本当に効果があるのかどうかを俺で試した訳だな。
「イチコロ…?」
汐里は俺にそう訪ねる。
「ああ。めちゃくちゃドキドキしたよ。はは。」
「…………ほんと?」
「ほんとほんと。」
「……そっか…ふふ。」
汐里は顔を赤くして笑っていた。そのときの汐里は、天使のようで思わず見とれてしまった。
好きな人との恋、叶うと良いな。
そうして昼休憩終了の予鈴が鳴った。