市川連の日常
キーンコーンカーンコーン―――四時間目終了のチャイムが鳴った。四時間目が終わると昼食をとったり、授業での疲れを癒したりする40分ほどの時間が設けられる。
この学校の昼食は学食か弁当かのどちらかだ。全学年殆どが学食な為、弁当を持ってくる者は少ないのだ。
かくいう俺は我が妹瑠美が毎朝作ってくれる弁当を持参してありがたく食べさせて貰っている。瑠美はそこら辺のレストランが出す飯より断然旨いものを作ることができるほど料理が上手だ。
やー…やっぱ持つべきものは妹だなぁー…
そんなことを改めて思いながらもいつも昼食をとっている屋上へと向かう。
屋上へは北館にある階段を通らなければならない。
「おーい!市川くーーん!」
教室を出ようとしたときに、姫城が俺に声をかけてきた。
「一緒にごはん食べよっ!」
「わかった。じゃあいつもの場所に行こうか。」
俺たちは屋上へと向かった。
「ねぇねぇ。市川君の妹ちゃんって今日入学したんじゃない?」
姫城が質問をしてきた。俺は「そうだよ」と答えると、
「なんかあれらしいよー、妹ちゃんめちゃくちゃ人気あるらしいよ。」
「そーなのか?」
「うん。さっき中庭で生徒たちに囲まれているのみたんだ。」
へぇー。まぁ瑠美は美人だとは思うし、予想は出来たことだ。俺は特別驚きもしなかった。
「ほんと、自分の妹とは思えないくらい出来た妹だよ。」
「なんで?」
「え?」
「なんでそう思うの?」
「なんでって…そりゃあ…自分と比べて成績もいいし、人気があるし、しっかりした性格をしてるし…」
姫城の唐突な質問に少したじろぎながらも答えた。
「………市川君はちょっと自分のことを悪く言いすぎだと思う。」
そう姫城が言った。
「そんなことないよ。」
俺は姫城の発言を否定した。
「そんなことある。」
姫城は真剣な顔で俺を見つめ、俺の否定を否定した。
そして言葉を続けた。
「人は成績ですべてが決まる訳じゃない。人は人気ですべてが決まる訳じゃない。市川君は成績は良いでしょ?だって一年生の学年末のテスト、215人中13位だったじゃん。市川君はけっこう人気あるよ?市川君のこと好きっていう娘いっぱいいるんだからね。」
確かに、瑠美と比べなければ成績は良いかもしれない。
人気については知らなかったが今まで男友達が出来ていないのでないと思っていたし、女子からの人気もそこまで顔がかっこいいという訳でもなければ、スポーツができるというわけでもない。俺のどこにそんなモテ要素が……(因みに彼女いない歴=年齢だ。恥ずかしいから心の声で。)
「それに…」
姫城は更に言葉を続けた。
「市川君、しっかりとした人じゃん。」
彼女は少し微笑みながらそう言った。
「なんで……そう思うんだ?」
そう俺は質問をした。
「うーん……私は市川君のしっかりとした一面を知ってるから?」
少し首をかしげ微笑む彼女を見て、俺は少しドキッとしてしまった。
「た、例えば?」
たじろぎながら俺は質問をする。
「……内緒っ!さ、屋上に着いたよ!食べよー!」
「お、おい!教えろよー!」
そんなこんなで俺たちは昼食を済ました。
食後の休憩をしていると、姫城がふと思い出したように俺に言ってきた。
「あ!そうそう!良い忘れてたんだけど、市川君の妹ちゃんの他にもう一人超美少女がいたんだー!」
「そうなのか?」
「うん!なんかねー、金髪のロングヘアーだったから多分外人さんだと思うんだ!その娘も生徒たちに囲まれていたんだよ!いやぁーなんだか今年の新入生はレベルが高いですなぁー!」
そんなことを言いながら興奮気味の姫城。あ、百合ではないからな。多分……うん。
「そんなに美少女なんだな。一度見てみたいよ。」
会って話がしてみたいな。そんな思いを込めて俺が言うと姫城が
「ねぇ、市川君ってやっぱりかわいい娘が好きなの?」
そんなことを聞いてきた。この質問に対してこう答えた
「うーん…まぁかわいい娘に対しての憧れは多少は持つかもしれないけど、好きかどうかと言われると……やっぱり中身を見るかな……」
そしたら「そっか…」と返事をしてきた。
「なんでそんなことを聞いたんだ?」
俺がそう聞くと姫城は一瞬ビクッとしてこう答えた。
「あ!えっと…ホラ!やっぱり女の子としては男の子の意見も聞いときたいじゃない?私はなんとなく男勝りだって思われがちだからさ…外見で勝負出来ないし。」
「そうか?姫城は充分かわいいと思うが…」
姫城の返事にたいして俺は率直に思ったことをそのまま言葉に出した。
「えっあっ!そ、そうかなぁー!」
すると姫城は顔を赤くしながらそう言った。
なんだ?外見のことを褒められて嬉しかったのか?
「そっか…なら私でも市川君の……」
「ん?呼んだ?」
「あ!なんでもないよ!そ、そろそろ教室に戻ろっか!」
そうして俺たちは教室へと向かった。
掃除を終えて、俺は校門前で瑠美を待っていた。
「ごめんねお兄ちゃん!待った?」
「おう、大丈夫だ。行こうか。」
そう言って瑠美と下校をした。
「ねぇお兄ちゃん。夕飯の材料買いたいんだけど…」
「そうか、じゃあ行こうか。」
俺たちは近くのスーパーへと向かった。
ちなみに、俺たちは今二人暮らしだ。生活費はというと、母さんの兄である叔父さんが出してくれている。
「今日のごはん何がいい?」
瑠美がそう訪ねてきた。
「うーん…肉だったらなんでも良いかな。」
「えーと……じゃあハンバーグなんてどう?」
ハンバーグか……良いね。瑠美のハンバーグは肉汁たっぷりでとてもジューシーなんだよなぁー…。
「それが良い。」
そうして買い物を済まして家に帰ろうとした時、
「あれ?市川君?」
部活帰りの姫城がいた。
「おう姫城。部活終わったんだな。」
「そだよ!……あっ!そちらは妹ちゃん?」
「ああ。そういえば名前まだ言ってなかったな。こいつは俺の妹の瑠美だ。」
俺は姫城に瑠美の名前を紹介した。すると姫城は
「瑠美ちゃんかー。えっと……私は姫城舞。市川君のお友達だと私は思ってるけど……そうだよね?」
自己紹介混じりに俺にそんな質問をしてきた。
「もちろん。俺にとって姫城はかけがえのない友達だよ。」
俺は姫城にそう言った。
すると姫城は顔を赤くして黙っている。どうしたんだ?
一方瑠美はというと……
「むぅ…」
なんだか拗ねたように俺と姫城をジト目で交互に見ている。な、なんなんだ一体……
「あ、よろしくね!瑠美ちゃん!」
姫城はそう言いながら握手を求める手を出した。
すると瑠美は
「よろしくお願いします。姫城先輩。」
なんだかムスッとした表情で姫城と握手した。
なんか……大丈夫なんだろうか……
その後、姫城は俺達と別れて解散した。
自宅に帰り、俺は自室に戻ってパジャマに着替えた。
そして一階に戻り、リビングのソファーに座ってテレビを見ていた。
今日は水曜日。現在時刻は6時27分。この時間帯はニュースしかやっていない。
「あ!お風呂沸かそうか?」
キッチンで晩ごはんを作っている瑠美にそう言った。
「うん!助かる。」
俺は風呂を沸かしに行った。
今日から瑠美も高校生だ。部活をどうするかは分からないが恐らく家事があるから部活はしないだろう。
俺が家事を出来ていないから瑠美に負担をかけてしまっている。俺も出来ることぐらいはしないとな。
そんなことを考えながら風呂場を洗い、スイッチを押した。
「洗濯物、たたもうか?」
「え?あ、うん。ありがと。」
俺は洗濯物をたたみ始めた。
たたみ終えるとなんとなく手持ちぶさたになったので
「瑠美、他にやることないか?」
「えっと……じゃあコップとかお箸とかテーブルに並べてくれる?」
「おっけ。」
指示を受けた俺は食器を並べた。
しばらくすると夕食が出来、瑠美が食卓に並べた。
「「いただきます!」」
そう言って俺たちは食事をとった。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「ん?どした?」
「どうして急に家事を手伝ってくれたの?」
「それは……瑠美が俺のせいで負担がかかってるんじゃないかって思って……」
「そーなんだ…ありがとね。でも大丈夫。私のことは心配しないで。」
瑠美はそう言った。きっと俺のことを気遣ってくれているのだろう。でも…
「いや、俺に出来ることがあるならやらせてくれ。瑠美には負担をかけているのは自分でもわかっていたんだ。今更かと思うかもしれないけど兄として妹に迷惑をかけたくないんだ。ただでさえダメな兄なのにこれ以上ダメなとこ見せたくないからな。」
俺がそう言うと瑠美は真剣な顔をしてこう言った。
「お兄ちゃんはダメなんかじゃないよ。」
あれ…なんかデジャヴ。
「そ、そうか?妹に世話してもらってる兄なんて…」
「それはお兄ちゃんがたまたま料理が出来なくて、私がたまたま料理が出来たからこうなっただけ。お兄ちゃんのせいじゃないよ。それに、私が家事を頑張れるのもお兄ちゃんが居てくれたからなんだよ?」
そ、そうなのか?そんなことを言ってくれるなんて…
「ありがとな。」
「ううん。こっちこそありがと。さ、ごはん冷めちゃうから食べよ!」
「ああ。」
それから夕食を終え、風呂に入った後俺は急な眠気に襲われたためいつもよりも早かったがベッドに入り眠りにつこうとした。
「こうして続いてくんだな。俺の日常は。」
そう呟いた後、眠りについた。