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第5話  異世界で言語を共有できましたとさ。

 一瞬で姿を変えてしまう魔法使いさん―――レイフォードさんにお腹が鳴ったのを聞かれてしまい気遣かわれてしまいました。はずかしいです。穴があったら潜って石でふさいでしまいたくなります。どうやら、ご飯をおごってくれるそうです。名目は、さっき騒ぎを大きくしてしまったお詫びだそうです。


「あ、若女将! オーダー頼むわ」

「(はぁ~い。あれ、もしかしてレイさん? あんた、また姿替えた? 何か、悪いことしたの?? レイさん、外出する度に厄介ごとに巻き込まれていなぁい? )」

「あぁ、それにしても毎度のことながらよくわかるよな。」

「(あはは。だって、レイさんっていつも薬草と機械油の匂いがするもの。あれ、お連れさんがいるなんて珍しいじゃない)」

「そんなに臭うのか? こいつは、これから助手兼弟子だ」


 別にレイさんから、変なにおいはしませんよ?



 自己紹介をしながら、言葉が通じる仕組みを教えてもらい、ようやくさっきのものすごい光ってバタバタズッタンってなった原因がわかりました。あれが、魔道具なのですね。すさまじい威力です。これは、私なんかモヤシが、生きていける世界なのでしょうか……ますます、不安になりました。

 あれ? 今、聞き逃してはいけない言葉がレイフォードさんの口からびよよんって飛び出してきたような気がするのは私の気のせいでしょうか? なんか、さっき私のことを指しながら「助手兼弟子」って言っていた気がします。私は、一体いつ助手兼弟子になったのでしょうか? 覚えがないのですが、まぁ、私に拒否権はなんてありませんけどね、一体レイフォードさんって何者なのかしらん。


 ただ者じゃないのは、さっきの鞄を取り返してくれたので、十分身に染みて理解しました。とりあえずレイフォードさんの敵になるのが、かなりやばいってことは、把握しました。それにしても、ここの女の人綺麗な人だなぁ。おっぱいでかいし、おへそとかすっごい出してるいるし、大胆だなぁって同性の私でも思っちゃいます。ところで、、お姉さまその頭についている二つの三角形のふわふわと、お尻のあたりから延びてきょろきょろっと動く物体はいったい何なのでしょうか? あのですね、私の眼にはそれらがしっぽと耳に見えてしょうがないのですよ。異世界だから、これは本物のケモ耳としっぽなのででしょうか! あぁ、そのちょろちょろと動く尻尾をむぎゅと捕まえてみたくなっちゃいます。


 それにしてもレイフォードさんと、仲よさそうですね……どうやら、このお店の常連さんみたいです。二人が何しゃべっているか、よくわかんないので、一人置いてけぼりです。少し、寂しく感じてしまうのは気のせいでしょうか。

 なんか、私鞄取り返してもらったせいで随分とほだされている気がします。やばいですよね、もっと気を引き締めないといけません。このままじゃあ、狼にぺろりとされてしまうかもしれないっていうのに、危機感を持たなきゃ。


「(へぇ、ずいぶん若い子じゃない。ふふふ、助手だからと言って手を出しちゃだめよん? レイさんくらいの美男子で経済力のある男なら女の方から寄ってくるでしょうに。同意のない相手を無理やり襲ったら女神様に罰せられちゃうから、くれぐれも用心しなさいよね)」

「そんなことしねぇよ。こいつはそういうのじゃないしな。それより、仕事しろ。仕事。俺は、いつもので、こいつには、そうだな……この街の特産の海の幸をふんだんに使った海鮮丼を頼むよ」

「(オッケー、まかせて。腕によりをかけて作るわよ!……お父さんがね。新規のお客さんは、大歓迎だわ)」

「なぁ、彩月は魚喰えるよな」


 びくん。

 心臓が口から、飛び出ちゃうかと思いました。危なかったです。お、男の方に、下の名前を呼ばれることはおろか、呼び捨てにされるなんて小学生以来じゃないでしょうか? 

 それに、レイフォードさんの声、すごく……ずどんって来て……耳元で名前呼びは、反則です。


「あ……はい。魚は食べれますよ。でも、辛いものと脂っこいものは苦手です」

「ん、わかった。配慮しておくよ。あ、しまった。つい癖で、下の名前で呼び捨てにしちまったが大丈夫か?」


 うぅ、私が一人恥ずかしがってバカみたいではないですか。だって、しょうがないじゃないですか。女子大だったので、教授や家族以外の人から名前を呼ばれる機会なんて全くと言っていいほどなかったんですもの。うにぁあああ!! 


「私は、かまいませんよ。私も、レイフォードさんとお呼びしていいですか?」


 咄嗟の切り替えしは、半年間だけ居た演劇部での経験でしょうか。まさか即興劇(エチュード)がこんなところで、役に立つとは思いませんでした。人生何があるか本当にわからないものです。えぇ、平凡な女子大生が異世界に来る羽目になるんですもの、ふふふ。こうなったらもうやけです。


「あ~、レイで構わねぇぞ。なげぇだろ?」

「はい。それでは、そう呼ばせていただきます」


 レイフォードさん改めレイさんは、こっちの内心を知らずに先ほど作り上げたばかりの素敵な仕上がりのお顔でにやっと笑いかけてくれます。あの、人を売り払った性根の腐ったようにしか見えない商人さんの笑みと比べては、いけない気がします。そう感じさせるほど、こっちの警戒心を吹き飛ばしてしまいそうなほど好感のもてる笑みです。


「そんじゃあ、許可ももらったことだし、彩月。そのままの名前だと、こっちでは浮くかもしれないからとりあえず偽名を名乗る気はないか。もちろん、二人きりの時とかは眞仲 彩月のままで構わないぜ。親からもらった大事名だろう? ただ、こっちの世界で書類を作る時にはそれっぽい名前のほうが、悪目立ちしなくても済むし、普通になじめるだろう?」

「そういうものなのですか。私はこちらの世界に詳しくないので、レイさんに従います」


 郷に入れば郷に従えってやつです。彩月って名前は、結構気に入っているんですけどね。私、九月生まれなので、母が色取り月っていうのが9月の異名だから、彩月なのよって口にしていたけど、実はその話には裏があって、私はもっとこうキラキラしていなさそうな名前になる予定だったらしい。曰く、「だってねぇ、あの人が貴女があぁ生まれるって思っときね、月が雲の衣を彩ってとってもきれいな夜だったっていうんですもの。そんな詩的な表現で、彩月ってどうだいって聞かれたら、えぇって頷いちゃうじゃない? 」とか、のろけ話があったりします。私にとってこの名前は、生まれたことを祝福された大事な名前です。だから、捨てることは当然できませんが、名前のせいで浮いてしまうのはこれからこの世界に滞在するためにはよくないことくらい判断できます。それにレイさんが、あの素敵な声で呼んでくれるのなら、普段偽名で呼ばれるくらい構わないさえと思えた。名前を偽ったって、私が私でなくなるわけではないもの。

 なんか、私このヒトに着々と異存させらせられている気がします。


「(おまたせしました。店主一押しの新鮮魚介をふんだんに盛り付けた海鮮丼と、若女将特製サンドイッチよ)」

「おう、サンキューな。彩月、続きは食後にしよう。食べてていいぞ」

「ご、ごちそうになります。いただきます」


 幸いなことに、箸で料理を食べる文化圏のようです。助かりました、ナイフやフォークの使い方なんて知らないのです。異世界の料理ってどんなんだろうって結構気にしてましたが、見た目は結構普通に海鮮丼なので安心してます。ただ、見たことのない白身魚や赤みの魚、それから青魚が気になります。まぁ、毒はないでしょうし、きっとなんかあったらレイさんが助けてくれるはず! 


 いい加減空腹が限界だったので、橋をつけることにしました。

 うぅ~ん、わさびはないようですね。


「彩月、そこの白い花の浮いている瓶が向こうで言うわさびと醤油を混ぜたものだ。つかってみろ」


 言われたとおりに、白句小さな花が無数に浮いた透明な液体の小瓶を取り皿に恐る恐る注ぎます。すると、嗅ぎなれた醤油の匂いが鼻孔をくすぐるので大そう不思議な感覚です。


 恐る恐る口にしてみると、ふわりとワサビの風味と本当に取れたてで新鮮な魚なのか、それともこういう味の魚なのかは、わかりませんが魚由来の甘みがあっておいしいです。どんぶりの下の部分は、残念ながらお米では内容です。酢飯のような甘酸っぱい味のする蒟蒻のような触感のする不思議な食べ物です。でもこれ、結構いけます。味と見た目と触感にちぐはぐ感がそこはかとなく漂っているのは仕方がないのでしょうね。


「美味しいです。ぷりっぷりで、身が引き締まっていて、甘みもあって美味しいです。……でも、味は酢飯なのにお米じゃないのが残念です。いえ、この下にある蒟蒻酢飯もどきも悪くないんですよ。でも、この世界にはお米がないのですか?」

「口にあったようで何よりだ。お米はあるぞ、ただこの地域では主食ではないんだ。家には、常備してあるから、安心していいぞ。それにしても、彩月は本当に美味しそうに飯を食うんだな。連れてきてよかったよ。まだ、お腹に余裕があるんだったらデザートでも頼むか?」

「いえ、デザートまでごちそうになるわけにはいきません。私、ただでさえ何もしていないのにおごってもらっちゃっているのに」


 レイさんと、ひと悶着していると、さっきの猫人間のナイスバディのお姉さんが席に再びやってきました。お仕事は大丈夫なのでしょうか、見るからにウエイトレス役は、お姉さん以外に見受けられないのですが。


「(あら、お連れさん外人さんだったの? いまどき、帝国語離せない人なんて珍しいわね。こういう旅人とか冒険者とか、外部の人が来るのは珍しくないのだけれど、聞いたことのない言語だわ。彼女、どこから来たの? っていうか、何を話しているの。気になるじゃない、ちょっと魔道具(それ)貸してくんない)」

 お姉さんは、レイさんに絡むようにしてレイさんの耳についている紅い石の付いたイアリングを催促しているようです。あれも、魔道具なのでしょうか?

「あぁ、別にかまわないが。そうだな、俺はこれがなくても別にどっちとも話は通じるから、いいぜ」

「(あら、そう。じゃあ借りるわね……って、それよりもこの子に貸してあげた方がいいんじゃない!)」


 お姉さんは、レイさんに許可をもらって受け取り、自分の耳に付けようと一度してそれから、はっと何か重大なことに気が付いたような顔をしてしばしフリーズしてしまいました。お姉さんの話している言葉が理解できないので、レイさんに何が起こっているのか尋ねようとした時、突然お姉さんがひときわ大きな声を出して何か言いました。うぅ~ん、置いてけぼり感リターンズですね。


「その手があったか。どうして、気が付かなかったんだろう、俺。彩月、耳貸せ」


 よくわかりませんが、この人に歯向かって先ほどの承認さんたちと同じ轍を踏みたくないので大人しく従います。髪をかき上げると、レイさんが私の少し長い耳たぶにそぉっとイアリングを付けてくれているようです。チャカチャカとレイさんが、ネジをまわして私には理解できない言葉で何事かつぶやくと、私の世界が一変しました。


「初めまして、どう、あたしの言っていることわかる??」


 さっきまで、雑音にしか聞こえなかった周りの人の話し声が、猫耳お姉さんの言葉が、そしてレイさんの言葉も全部理解できるようになっていました。魔法です。不思議です。これが、魔道具! あぁ、なんて素晴らしいのでしょう。


「き、聞こえています。その、私の言っていることわかりますか?」

「えぇ、ちゃんと伝わっているわよ。レイのお弟子さん」


 どうやら、私は異世界人とコミュニケーションを取れるようになったようです。



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