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第4話 平凡な彼女の名は、眞仲 彩月だとさ。

 レイチェルとしてこの世に生を受けた俺は、戸惑いを隠せなかった。種族が違うため、寿命が違う妻たちに見送られ、それでも魔力量が多いせいか向こうでの平均寿命の80前後を大きく超え120歳で死亡した俺。それも、別によぼよぼのお爺さんだったわけじゃないぞ。年を経て、貫録は増したが、鍛えれ荒れたカラダだったと断言できる。俺より短命な妻もいたのだが、長命な種族の妻も多くいたのだ。あぁ、泣かないでくれ。笑っている姿で最後は見送られていよ。そうつぶやいてこの世界を後にした俺はふっと気がついたら赤ん坊になっていた。前世で好き放題やって満足した俺に、第二の人生だ。しかも、今度は女になってだ。転生した当初は、眠くて堪らなかった。そりゃあ、赤ん坊だから仕方がない。中身は、とっくに80過ぎの老人だったが、この未知な体験のせいで精神年齢が10代後半から20代くらいに若返って気がする。体に、精神年齢ってつられるものなのか、若返った。周囲の言葉を赤ん坊の柔軟な脳で記憶していき、普通のこどもより早く話し、立ち、本を読むようになった。才女と周りはもてはやされたな。


 それまではよかった。だが、ある程度の年齢に達すると礼儀作法や女性としてのマナー作法などをやるはめになった。これがとてつもなくめんどくさかった。しかも、教師はおっかないしな。

 そんなわけで、男として、生きていた俺には、女性としての教育をほど後したがる周りの人間とどうも折り合いがつかなかった。それに、これ以上肉体的に精神的に成長したらもしかしたら閨での礼儀作法をとか言われたら俺もうどうすればいいんだ。俺は男だって言い張っても、体は立派に女の物だから頭がおかしな子扱いを最悪されちまうじゃないか。


 幸いなことに、俺が転生した世界は、前世で死んだ異世界で、俺の死後100年後だったからいろいろと勝手がわかっていたのは助かった。もしかしたら、長命な妻だったものは生きているかもしれない。だが、今の俺が合いに行ったってなんになる。転生なんて信じてくれるだろうか。それに、今は女の体だ。前のように妻を抱くことはかなわないだろう。それに、今の生活を壊したくはなかった。要領のいいあいつのことだ、何とかやっているだろう。


 女の体は何かと不便なことがあると知ったのは、十数歳を過ぎたころだったか。女は、こんな思いを毎月しているのかと思うと、強いのだなと思う。そんなこともあって、男に戻る方法を探る中、姿を変える魔道具についての研究資料を実家の屋上にある秘密の隠し扉から発掘。魔法を使って、扉を隠していたようだが、俺には簡単に見つけられ破ることができた。前世ほどではないが、平均以上の魔力量を保持しているし、前世で培った感が頼りになるのだ。見つけてからというものおしとやかにふるまいながら、地道に魔道具を作り、ついに完成させた。姿を変える魔道具だ。残念ながら、今の俺じゃあ、性別転換をかなえる事が出来なかった。いつかは、いつか絶対に、完成させるぞ。


 前世の俺の姿をそのままとるのもいいかと思ったがそれでは面白みがない。美少女レイチェルの男版レイフォード姿になった、俺は二重生活をいそしむことにした。マナーレッスンやダンスレッスンでやさぐれた心を直すには手っ取り早い息抜きだった。


 しばしば、レイフォードの姿になって家から抜け出し、賢者のお師匠様から魔道具制作の腕を認められ、そして賢者の弟子になった。


 そして、レイフォードとしてある程度生活ができる稼ぎが得られたある日、レイチェルは家出しますと書置きを残し出奔。


 家族が、レイチェルを探しているようだがそんなもん知ったもんか。俺は、今世はゆっくりのんびりスローライフにいそしむと決めたんだ。決して、王様やら貴族やら内政やら、戦争やらにかかわるもんか。


 まぁ、そうはいっても、この世界に俺を生んだことには感謝している。おかげで、命の危険もなくすこやかに成長できたしな。その、なんだ、実家に危機が陥ったら匿名で少し暗い手助けしてやるのもやぶさかではない。



 ふむ、さてどうしようか。勢いでたぶん同郷の女の子を買ってしまい、いきなり家に連れて帰ったら、それはそれで別の不安と恐怖の種をこの子に植え付けちまいそうだしな、とりあえず飯を近くで出来るだけうまそうなのを食べさして上げようか。





「とりあえず、坐れ」


 近くの行きつけの食堂にとりあえず入って、いつもの席に座る。うぅ~ん、この食堂は向こう風に言うと冒険者行きつけの店って感じがありありとする木造のテーブルとイスが並べられえているところかな。まったく、昼間だというのに酒を飲んだくれているおやっさんもいるし、すでに人稼ぎしたのか上機嫌で酒と飯を頼むやつらもいる。


 それにしても、驚いた様子でおずおずと周囲を見渡す姿は、なんか小さな動物を髣髴させるものがあるな。こいつ、いくつなんだ? 見た目的には、十代後半から二十代前半ってところか。


「はい。……あの、私は、眞仲 彩月といいます。ご察しの通り、日本人です」


 まなか さつき……いったいどんな字を書くのだろうか? まなかは、眞仲なのか真仲なのか……さつきは五月なのか皐月とか颯希なのか。はたまた、こっちを英語圏みたいなものだと思って苗字と名前をわざわざひっくり返してくれたのか。どっちでも、ありえそうな名前だな。五月女 愛華とかいわれても違和感なさそうだしな。まぁ、前者のまなか さつき の順番の方がたぶんあっているだろうな。


「俺は、帝国人だ。名前は、レイフォード・フィロソファー。転生人っていってわかるか?」

「てんせいじん? その漢字で書くとどうなります」

「転じるに生きる、そんで人だ。輪廻転生で、前世の記憶を持ちながら次の肉体に宿ったって事さえわかれば、まぁ問題ない。俺の前世は、おまえと同じ日本人だ。まぁ、信じるか信じないかはお前次第だ。なぁ、おまえの名前は漢字でどう書くんだ?」


 そんなことが実際に起こるといったことを信じられないといった様子と、でもここは自分の知らない世界だからそんなことがもしかしたら当たり前なのかもしれないといった思考が今頃、彼女の頭の中にぐるぐるとしていることだろう。


「あ、えっと、苗字が本当とか真実とかの意味を持つ難しい方の眞に、仲間の仲で、眞仲。彩る月で、彩月です。そ、それと、信じないことには話が進みそうにないので、信じます。それに、もし本当にそうなら、私があなたの言葉を理解できることにも納得ですし」


若女将が、話を邪魔しないようにお冷を置いて行った。氷の入ったその水をテーブルの上にそっと、一滴垂らし指先を濡らし、眞仲 彩月とかいた。なるほど、こういう字を書くのか。綺麗な名だ。



 それにしてもなにか、勘違いしているのか。意思の疎通というか言葉が通じているにはわけがある。魔道具と呼ばれる代物が、俺の言葉をこいつに届けて、こいつの言葉を俺が理解できるという仕組みになっているのだが、さて魔法のない世界の住人になんて説明したものか。なんかこういう摩訶不思議道具がある生活に慣れ始めているからな、まぁ向こうで暮らしていた時よりこっちで暮らした年月の方が圧倒的に長いのが原因なのかもしれない。


「いや、それは俺が日本語と帝国語を自動で翻訳する機会を身に着けていたからだ。正確に言えば、この世界に存在する既存の言語をすべて翻訳する機能を持っているが正しいな。日本語の部分は俺のオリジナルだ。そうだな、電子辞書みたいな役割っていえば想像しやすいか?」


「そうですか。この世界には、魔道具という未知なるものがあるのですね」

「あぁ。まぁ、電化製品みたいなものって思ってたらいいんじゃないか? 行き過ぎた科学は、魔法と区別がつかないとか向こうで聞いたことなかったか?」


 少なくとも俺は、普段そんな感じで使っている。便利だし、使い慣れているしな。


「あ、あるかもしれません。電子レンジや冷蔵庫みたいな?」

「そうそう。あと、物によっては、銃みたいな役割を果たすのもあるし、戦車みたいのもあるぞ」


 まぁ、大きさの割には戦車何台分の威力を持つブレスレットとか平気で存在するし、炎を吹きだしたり、絶対に標的に命中させる弓矢とかいろいろ存在する。伝説級の魔道具、神具とか呼ばれるのになると、むこうだったら下手したら自然災害くらいの威力が平気であるしな。俺も、神具と呼ばれるランクの品をいくつか製作して秘蔵しているし、師匠からもらったやつも倉庫にしまっておいたような。


「この世界にも、戦争があるのですか」

「あぁ、もちろんある。どこの世界も一緒だな。まったく、嫌になっちまうよな。俺は自分の作った道具を、そういうのに使ってほしくはないから、田舎でのんびりと自分と自分の周りにいる人の分くらいの魔道具を作っているって感じだな。まぁ、小遣い稼ぎに売ったりはするけどこの世界の均衡を壊さない程度に気をつけてはいるよ」


 うぬぼれじゃないが、俺一人の力で文明を挙げられても、それが後々まで続くとは限らないし、むしろ逆にマイナスに働いて文明の衰退になることがある。これは、前世で学んだことだ。転生して驚かされたことというか、かなり衝撃を受けて凹んだのが、そのこと。もう二度とするもんか。


 あれは、調子に乗りすぎた黒歴史だ。若気の至りってやつだな。






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