第25話 誘拐されましたとさ
拝啓 レイフォード・フィロソファーさまへ
私、アザレア・H・フィロソファーは、どうやら誘拐されてしまったようです。
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うにゃああ!!
なんでやねん! 私なんかさらって、何の得があるのよ!
はぁ、そう叫びたいのですが、今の私は叫ぶとちょっとやばそうな状態なので、心の中だけにしておきます。
麦わら帽子は、誘拐されたときに落としてしまったようで、長い三つ編み―――なんかぶっとい注連縄みたいですね、コレ―――が、ベッドに無造作に投げ出されています。えぇ、私は、今ベッドの上に不本意極まりないのですがいるのですよ。手錠足枷付で。いったい何プレイですか! そういう趣味はありませんし、そんな閲覧制限がかかるようなことをこの身に振りかけないで下さいよ。かなり切実にそう願います。まったく、異世界に落とされただけでもハプニングな出来事なのに、まさかその上誘拐されるなんて想像の右斜め上いく人生って、私そんなの望んでません。だれか、代わっていただけませんか? かなり真面目に誰かと人生入れ替わりたいです。今ならもれなく、超美形青年、美幼女獣耳獣尾美少女がもれなくついてきますよ! 先着一名さま限定、異世界ライフいかがです?
えぇ、まぁ女神カーヤ様の加護は絶対です。ですから、私が気を失っている間、汚されたという心配はこの異世界ではありえません。暴力を振るわれたかどうかを起き上がらずに確かめていきます。ベッドのきしむ音とかで目が覚めたことをまだ築かれたくないですもの。
天井にあるのが、魔石を利用した照明道具だということや、このシーツの肌触りからみて私はかなり金銭に余裕のある方に誘拐されたのでしょうね。まぁ、私を誘拐した人たちものすごくて誰って感じでしたしね。
それにしても薬の後遺症か若干思考に乱れが生じます。あの花のにおいがしましたから、効果は半日も持たないはずです。目が覚めたか事から考えて、私半日くらい眠っていたのかもしれません。
毛足の長い絨毯は、専属の魔法使がいるのかダニ一つ潜んでいなさそうです。
一体何の目的なのでしょうか。考えられる可能性、その1は、賢者関係の人質と言う線。身代金誘拐みたいなものでしょうか。これは、かなり有力だと思っています。私が誘拐されたのは地元の人でもめったに通らない等へ続く道です。いくらその終りの方だといっても、そこで待ち伏せしていたからには、賢者を狙ったか、その弟子を狙ったかですね。あぁ、私も一応賢者の弟子になるんですね。全然それっぽいこと何一つしていませんが。
その2は、私だと知って誘拐された可能性です。この場合の目的は、≪祝福≫持ちであることに関わってくるのかもしれません。
その3は、無差別です。
その4としては、異世界人だと知られてゲテモノ扱いでの誘拐です。でも、このことを知っているのはレイさんのみ。かなり低い可能性ですね。
その5は、この間の奴隷商の復讐ですかね。これはまぁ、納得の理由ではありますが、今の私のかっこうを見てそうだと結び付けられるかどうか怪しいです。ですが、髪の色が違う時点で、別人だと思われそうですよね。
少し混乱してきました。
このままでは、行けませんね。ふぅ、ハァ。まずひとまず冷静になりましょうか、私。私はどうやら逃亡が許されていない状態であるだけで、それ以外は低調なおもてなしをされているようです。なぜ、そのように思うかと言いますと、まずこの部屋の温度はとても適温ですし、清潔感があります。そして何より、この部屋にある調度品はどれを見ても素晴らしい品々であることは、素人の私でもわかります。
それに、魔力封じの呪術のかけられた手錠と足枷は不自由ですが、この部屋を歩き回れるくらいの余裕はあります。この部屋には私のほかに誰もいないようですが扉の向こう側にはきっと見張りがいることでしょう。気配を感じるような芸当は魔道具を使わずには私にはまだできません。ですが、私が誰かを閉じ込める側でしたら、そうするでしょう。私が起きたことに気付いてもらうには、音や声をかければいいだけです。しかし、もう少し一人で静かに痛いですね。どうせ、望まずともこの部屋に訪問者はやってくる予感はあります。カーテンに恐る恐る近づきますと、外が暗いため夜であることがわかります。この部屋にはどうやら時計がなさそうなので、時間はおおよそしかわかりませんか、空の暗さと星の位置から考えるのに、8時くらいでしょうか。私が街に出たのが、昼すぎであることと誘拐されたおおよその時刻が、最後に聞いた鐘の音から考えるに、3時過ぎでしょう。私は五時間も無防備な姿で眠っていたようですね。これで、無事なのは女神さまの加護のおかげですね。
残念なことにこっそり隠し持っていた短剣は取り上げられてしまいました。ですが、翻訳のピアスは取り上げられていません。髪の毛が耳にかかっていたのと、こんなに小型な魔道具、しかもアクセサリーであることが幸いしたのでしょう。七つあるうちの三つは、無事に手元にあるようです。あとの二つは、防御と加速です。治癒と電撃と身体強化は、取り上げられてしまいました。これら3つは、牽制の意味も込めて一般に出回っている品を付けていたのが災いしたようです。状態以上回復の魔道具はユリアさんに貸出し中でしたので、今回薬で気絶させられるという失態を犯してしまいました。
まぁ、私がこんなに落ち着いている理由がもっぱら防御の魔道具の御蔭だったりします。加速を身体強化無しで扱うことは普通の魔道具では不可能ですが、レイさんの魔道具はその辺もしっかりと調整されているため、単品でも問題ありません。それに、私の不在に気が付いたユリアさんが探しに来てくれそうですし、レイさんが私に式を張り付けていたのは私も知っていたので、レイさんがすぐに私を白馬の王子様よりもどの国の岸よりもかっこよく解決してくれるはずです。幻想ではないって、信じています。
―――あの人は、私が死ぬことをよしとしないもの。
傲慢でしょうか。そう思ってしまうのは、ですがレイさんの態度を見てゐると期待してしまいます。期待して、裏切られて辛い思いするのは私です。それなのに、私は向こうでもこちらでも期待してしまう。あんなに、裏切られ続けたというのに……全く、呆れられてしまいますね。でも、レイさんは、私を裏切らないと思えるから。
だから、私は余裕です。こんなの怖くなんかありません。強がりなんかでは決してないですよ。ふふふ、それにいざとなれば、塔の中のお姫様ポジションをあきらめて自力でどうにかしてしまえばいいのです。レイさんが、来てくれないのは、私に試練を課しているんです。私なら、自力でどうにかできると! そう思えばどっちに転んでも大丈夫です。へっちゃらです。




