第19話 転生賢者は、ふらっと狩に出たとさ
ユリア姉さんに協力する依頼は、1週間後に行くことに決まった。一週間の準備期間は、俺一人なら不要の時間だが、今回は彩月のデビュー戦でもある。準備は万端にしてやらないとな。買い物リストを作るときには、ユリア姉さんの意見も参考にしてみた。女性視点からって大事だと思うからな。ん、俺も一応肉体的には女だろうって、まぁそうなんだがその辺は、察してくれ。
しかし、困ったな。事情を話したとはいえ、今回の狩り、彩月の目が私を本当に置いて行ってしまうのって言っていた。彩月と一週間暮らしていて思ったんだが、あいつ気を許した奴の前だとものすごく感情が顔っていうかこう身体の全体からあふれ出ている気がしてならない。知らない人とか興味ないい人とかどうでもいいって本人が認識している奴の前では内心を見事に隠して営業仕様のスマイルを浮かべているんだがな。これは、信用されていることを喜べばいいんだか、その無防備さを叱ればいいんだか、正直複雑だ。
ものすごくご機嫌が斜めになっている彩月にとりあえず大量の宿題とご機嫌取りによさそうな生地をいくつかプレゼントしてきた。彩月は、どうやら服を自分で作ったほうが好きなデザインのが着れるっていうことに気づき、俺にミシンとロックミシンもどきを作らせ、暇があるとガタコトと動かし服を製作している。そのせいか、最近彩月の服を真似したミニスカやら、ワンピースやらがルアイアの港町で密かにはやっていたりする。
そんな、彩月考案の上、俺が作成する予定の魔道具の材料を調達に行こうと考えている。丁度代理保護者を任せられそうな人間がいるしな。若干不安があるけど。彩月が変な影響を受けないといいんだけどな。
そんなわけで俺は久しぶりに一人の時間を満喫している。ちなみに、俺は今、Bランク以上の魔物の大群に囲まれつつある。まぁ、自分で招いた結果なんだけどな。
まぁ、Bランク以下でろくに素材にもならないくせに、うじゃうじゃ特殊なフェロモンの影響で群れてくる巨大蟻を爆撃系の魔法で殲滅したので、随分と見晴らしのいい光景に変わった。ちなみにこの魔法、標的以外は無傷というなかなかの優れもの。いやぁ、昔森林破壊とかそういうの気にせずに魔法を放ったら兄弟子に拳骨喰らって、こういう小細工のやり方を伝授してもらった。なにげに、あの人優しいんだよな。めっちゃ、無口なんだけどさ。
「ん、あとお前らだけか」
うぅん、この世界での昆虫型の魔物ってどうしてこう向こうの世界の物をビックライトで当てたように皆でかいのだろうか。雀蜂を前にしながら、そんなことをぼやく。殺気からぶんぶんとは音がうるさいんだが、ユリア姉さんからの頼みがあるからなぁ。俺が、クヴェルの森に行くと知った姉さんからの注文だ。ついでだから、こいつらを狩ってこいとのお達しだ。
雀蜂の毒針は、鋸状の細かい刃が密生した2枚の尖針が刺針の外側を覆うという構造で、この尖針が交互に動くことにより、皮膚のコラーゲン繊維を切断しながら刺さっていくっていう魔物っていうか魔虫だ。こいつの厄介なところは、向こうの世界でい運ミツバチと違い一度刺しても蜂は死なないし、毒液が残っている限り何度でもさしてくるっていう連続性が、面倒な点だ。
あと、毒液は刺して注入するだけでなく、空中から散布することもあるんだよなぁ。散布された毒液のせいで、集団で襲ってくるので初級の冒険者なら遭遇したくない魔虫だろうな。
まぁ、今の彩月なら自分を結界でしっかり守って安全圏から遠距離射撃でもしそうだよな。散布した毒液がフェロモンみたいな役割になっていて仲間を呼び出すことも教えてあるから、遠距離攻撃を選択し、倒したらとっとと逃亡しそうだな。
とりあえず、襲ってくる魔物を強化と魔法付与した体と剣で薙ぎ払いながら目的地である、泉に向かっているが、正直損害を少なくして毒能とか毒針とかいろいろ回収するので、思ったよりも時間がかかってしまっている。広域魔法で殲滅すれば楽なんだが、今回はこいつらの身体が目的なので、自重している。
殴るけるなら、損害が少ないしな。
「おっ、この音は、近いな」
この泉の水を今回、採取しに来たのだ。魔道具を作る時にこういうきれいな水が必要になってくる。見た目に反して中身が大量に入る。一種のアイテムポートみたいな役割を果たす水筒に、じゃぶじゃぶと水をくむ。ユリア姉さんもここの泉の水を扱いたそうだったからいつもより多めに持って帰るか。
ここまでの所要時間はだいたい二時間かそこら。普通の冒険者なら、一日かかるかな。
「さて、次は三つの頭を持つ知能ある魔物だったか? 」
話によると人間より知能が高いらしい。また、面倒な。しかも脳みそが三つだとさ。まったく、こういうのに、戦術やら戦略やら策略は無意味だ。こっちより向こうが頭がいいんだからな。なら、力技で仕留める。
「それとも、東の天邪鬼がさきか? あとは、エントに……こりゃあ、どう考えても歩いてはいけないな。ふむ、あいつに頼むか」
召喚魔法で、ヒポグリフを呼び出す。なんのためかって、もちろん移動手段として活用するために決まっている。あぁ、ヒポグリフっていうのは、見た目的にはグリフォンの《獅子部分》がそのまま馬になったような生き物だ。上半身が鷲、下半身が馬の組み合わせだな。
「ひさしぶりだな。元気にしていたか? あまり呼び出してやれなくてごめんな」
撫でながらそう語りかけると、人語を理解したというよりこっちの意思をくみ取って、気にするなといったように体を揺らし、再会を喜ぶかのように身を寄せる。
「今日は、西南にある空中迷宮にいってくれ」
これで、空の旅っていうわけだ。こいつは、グリフォンと同じく、すげぇ力あるし、敵にまわすとめっちゃ恐ろしい相手だって、有名だから空の旅をしててもよほどの身の程知らずか、こいつと同等以上の力を持つやつしか襲ってこない。
飼いならすのが面倒だったがこれに乗って、飛べるので重宝している。信じられないほどの長距離移動ができるからな。
こいつもともといい素体だし、それに魔道具とか魔法で魔改造を加えたら、速度も格段に上がったので恋いう言う短期間でいろんな場所で採取するときとかに向いている。今度、時間ができたら彩月と空の旅でも楽しもうか。
風を受けながら、地上を見下ろすと空を流れる川、そのさらに下に人のたてた建物が見える、高度があがっている証拠だろう。この世界には空中都市だって海底都市だって存在する。
この世界の美しいところ、醜いところそういうものを少しづつあいつに知ってもらいたい。そして、この世界を好きになって、この国を気に入ってもらいたい。俺が前世で召喚されて勇者を無理やりにやらされて必死に守った場所を、おなじ世界の人間に気に入ってもらえたらいいなと思う。
のんびりと風景を眺めながら、過去の回想なんかをしていると次の目的にたどり着いた。結局近い場所からに決めた。
さて、まずは異様に知能が高い獣、サルの顔に、シルバータイガーの毛並を持ち、二本足で立ち二本の手、龍の目をもつこいつが、今回のターゲットだ。名前は確か、モンバールゴンだったか。誰も立ち寄らないような森の奥深くに単体で生活する獣だ。
魔物だとか神獣だとか、国とか地域で結構違うこの生き物、戦闘能力はあまり高くはないが、頭脳戦では人は決して勝てないといわれているの生き物だ。そんな生き物相手に俺は、頭脳戦とか策略とか、謀略とかめぐらしはしない。だって、先読みされてあいつのひ弱な腕力と微弱な魔力によって阻まれるのが落ちだしな。
なので、完全に力づくでとらえる。
「よぉ、サル公、おまえの脳みそをちぃとばかしくれよ」
なんて、ふざけた口調で言うのと同時に、この森全体を囲む勢いで結界を張る。頭つかって逃げられる前に周囲の空間を巨大な檻にしてしまえばいい。そして、徐々に結界を縮めて、その周囲にさらに幾重にも魔法で結界をほどごす。一つ目の結界が破れても、次って感じにな。
「んで、右側面の内側にビリビリ、左に炎を追加っと」
ちなみに結界を縮める時にいちいち結界を解いては張り巡らせたんて面倒なことはしない。木とか石とかそういうものは透過して、魔物とかそういう生き物だけ閉じ込める。目的のもの以外は邪魔なのでひょいひょいと結界から出してやる。だが、サル公、おまえは逃がさん。
いくらか間引いたといっても狭くなっていく空間、(そう壁が押し迫ってくる感じだね)の中で、蠱毒みたいな現象が起き始めた。仲間内だ。まぁ、互いに仲間だなんてこれっポッチも思ってないかもしれねぇがな。
「そろそろか? しかし、あいつが頭がいいのって噂だけじゃないんだな」
どうしたら自分に被害がなく他人同士が殺しあってくれるかうまい具合に計算して立ち回っているな。さっき、魔法を内側の壁に張ったせいで、さらに魔物の生存率が低くなり、しまいには目的のサル公だけになった。うん、地力は弱いくせにこいつやるよな。
なるべく、脳みそを傷つけたくないのでここは薬品投与と行きますか。どこからともなく、パチンコを取り出すと、少し大きめの丸薬をサル公めがけて、さく裂させる。一つだけじゃ心配なので、続けざまに混ぜるな危険を繰り出す。
ユリア姉さんが調合した奴だから効果は折り紙付きだ。完全にサル公のやつが、気を失ったのを確認すると、結界を維持したまま魔法《鎖縛》サル公を縛りあげる。この鎖は少々特殊な品なので、魔力や体力を軒並み奪ってくれる。結界内の洗浄を澄ますと、サル公を解体しにかかる。メスやら何やら持ち歩くやつはいないって? ふふふ、新鮮が一番なんだよ。
こんな感じで、天邪鬼なんかも、心が読める距離とか、どれくらいの意識まで読み取れるとかは先行研究が豊富なのでそれを生かしながら狩らせてもらった。だれだって、許容オーバーっていうもんがあるだろ? それを故意に引き起こしてダウンさせた。
異世界なんだけど、異界って感じの変わった空間に閉じこもっていたから、余計に答えたのかもしれない。王都の住民全員分の心ってやつをね。
今日のところは、ここまでかな。あとは、近くの町まで行って宿でもとって、ゆっくりと魔道具作成に取り掛かりますか。
口元に笑みで歪ませて、瞳を好奇心で輝かせながらこれからの予定に心弾ませた。
いつも読んでくださってありがとうございます。




