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第0話 平凡な少女は、気がついたら見知らぬ世界におりましたとさ

 小説に出てくるお話のように、死んだあとの世界があるなんて信じていない。

 死んじゃったら、何も感じることはできないし、何も考えることはできない。

 永遠に生きていられたらいいのに、そう思いもするけれどそれはそれで苦労が多そう。

 だから、人が死ぬのは、その人にとって一番都合のいい終わりを人生という物語に刻む瞬間なのかもしれない。

 それは、悲劇であったり、喜劇であったり……そんな言葉では到底言い表せないほどの何かかもしれない。











 だから、私は目を疑っています。

 余りにも、私の知っている世界と違いすぎるその光景にのまれてしまいました。驚きとショックのあまり、ことば遣いが丁寧になってしまっているのはたぶん気のせいではないでしょう。


 空を飛ぶ鳥以外の存在、甘い匂いを発するプクプクとした気泡を発生させる小さな泉。キラキラとした真珠のようなものが散らばる草原や、大地の下を泳ぐ魚に似た影、どれもいまだかつて目にしたことのない幻想的なものです。



 頬をつねってみると痛みが走るので、これが、現実だというのでしょうか。とてもじゃないですが信じることができそうにありません。痛みやにおいさえも鮮明に感じるユメを見ているのかもしれません。


 それとも、私が夢だと思いたいだけなのかもしれません。こんなにきれいな光景だというのに、見るからに物騒な方々に囲まれています。年端もいかないうら若き少女を取り囲むなんて全く大人げない大人たちでね。え? うら若き何て詐欺だって? 失礼な奴ですね。まだ、ぎりぎり十代です。若いんです。


「(こいつは、いったいなんだ。見たこともない瞳の色をしてるぞ。それに、けったいな格好してやがる)」


 う、もっとまじめに外国語の勉強をしておけばよかったかもしれません。何を言っているのか全く分からないのは恐怖です。意思の疎通が不可能なのがこうも怖いものだとは、思いもよりませんでした。それにしても、少し小太りなおっさん? さっきから人をいやらしい目で見ないでくれませんか? それから、その隣のターバンを巻いたオジサマ? 人を人だとは思わないものを見る目で観察するのはやめてくださいません? ぞっとして鳥肌がさっきから止まらないんです。まじでやめてください。涙目になったではありませんか。



「(ほぉほぉ、これはなかなか高く売れそうですね。きめ細やかな肌に、光環を描く美しい髪。髪が短いのがなんですが、けっこうの上ものですねェ。しかしまぁ、胸の方は、まだまだな感じがしますが)」


 むかっ。いま、失礼なことを言われた気がします。言葉はわかりませんけどね。それにしても英語やフランス語ではないみたい。もちろん日本語でもなさそうです。中国語でも韓国語でもなさそうですし……どうしましょう、困ってしまいますわ。まぁ、地球にこんな摩訶不思議な空間があるのならテーマ―パークか、ゲームの中の世界か、夢の中の世界、小説とかの世界の中だけでしょうしね。



「あの、すみませんが、ここはどちらでしょうか」



 おずおずとしゃべってみたものの、翻訳されるみたいな魔法な出来事は起こらないようなので、向こうも首をかしげている。こまったなぁ、それになんかさっきからやばい気がするのよね。鳥肌が、立って止まらないし、背中に冷や汗が流れだしている気がします。


「(言葉が通じていないのか? 異国人か? それにしてもかわってるな。まぁ、こういうゲテ物を好むやつもいるからな。見るからに、加護を受けてはいないようだしな。いまどき、珍しい。見目もそう悪くないからとりあえず高値で売るとしよう)」

「(それにしても、幸運でしたな。まさか、このようなところで新たな商品を入荷できるとは)」






 さてさて、あれから数時間後。なぜだか、私は檻の中に手足にカセを付けられて入れられています。私、猛獣じゃないですよ? 危険じゃないですよ。お化けじゃないんですけどね。……まぁ、冗談は、ほどほどにして現実を見なくてはなりませんね。どうやら、私商品にされてしまったようです。えぇ、売られているんです。人身売買です。立派な犯罪ですよ、お兄さん。


 何やら怪しげな男たちに囲まれ、逃げようとも考えたんですけど起こしに物騒極まりないものを下げていらしたので、断念いたしました。だって、剣で切り殺されるとか、槍に串刺しにされるとかそういう非現実的でものすごくいたそうな死に方はごめんです。


 それに、人数的にも逃げられる気がしませんもの仕方がありません。自分の力量をわきまえることが、長生きの秘訣です、たぶん。


 さすがに、周りを見渡せば私がどういうたぐいの売り物なのか見当がつきます。私の周囲にはしなを作って通りかかる男たちの目をくぎ付けにして、自分の価値をアピールする娘や、きらびやかに着飾って魅惑的な眼流しをする女性が多いですから。私のいる場所は少し、見晴らしの良い場所ですが、下の方にはみずほらしい格好といっては失礼かもしれませんが、栄養が体にいきわたっているとはとてもではないけれど思えない子や、戦闘用なのでしょうか傷だらけの体に不健康的に鍛えられた体つきの子がいます。ほかにも、変わった耳の子やしっぽのある子などがいます。う~ん、動いてる。つけ耳、つけしっぽじゃないみたい。本物のようです。私もほかの子たちもたぶん、奴隷として売られているのですね。そして私は、労働力とかではないほうで……、最悪です。これなら、切り殺された方がましかもしれません。屈辱極まりません。あぁ、今からでも舌をかめるでしょうか。


 目の前に広がるのは土煙が舞う町の角。日の当たる場所とはとても言い難いですが、この見世物を見に来る人は幾人かいらっしゃいます。ちなみに私は、変わった服をしているせいかお着替えなしでそのままこの場所に入れられています。持っていたカバンは持って行かれてしまいました。残念です。



「(おい、にっこり笑うなり、何か芸をするなりして見せろ。そんなんじゃ、飯は抜きだ)」


 小太りで恰幅のいい叔父様が、何か言っているようですが理解できません。小首をかわいらしく? 傾げてみたのですが、伝わったのでしょうか。


 私をゆびさしたあとに、周りのおねいさん方をさします。どうやら、私にああいうことをしろというお達しのようです。残念ながら、恋愛経験はあまり豊富じゃありません。男性を意識的に落とすとか高度なテクニックを持ち合わせてなんかいません。


 はぁ、他のお姉様方のように巧みな言葉と魅惑的な肢体で誘惑することはできそうにありません。言葉が通じないので、私が何を話したところで無駄なんですけどね。


 言葉が通じないけど人を引き付けられるもので、今できるものとはいったいなんでしょう。







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