第11話 なにやら、平凡な私がイレギュラーだとさ
慌てて部屋を片付けた様子がありありと伝わってくる不思議な道具がいっぱいの部屋に案内され、レイさんの指示通りに丸い水晶やら黒い鉱石やら、金属みたいなものに触ったり、振り回したり、ちょぴっと血を抜かれたりしました。
それから、レイさんは、記録を取った紙を机の上に広げなにやら考えているようです。レイさんの書いた資料を試しにのぞいてみたのですが、見たことのない記号の羅列にしか見えませんでした。本を読むのは結構好きだったのだけど、この世界ではかなり頑張って語学の勉強をしないと本を読むことがかないそうにありません。残念です。
真剣な様子で分析しては、新しい魔道具を取り出し、私にああしろこうしろいって指示を出します。何をさせられているかよくわからないのですが、仕方がありません。さっき、いきなり抱き寄せられたのはさすがに驚いたけど、なんかこの人悪い人の気がしないのです。だから、ついつい気が緩んでしまいます。
「ど、どうでしたか? 結果は?」
診査台から、ゆっくりと身を起き上がらせて、レイさんに尋ねます。さっきから私、質問ばかりしているのですが、いやな顔一つせずに噛み砕いて説明してくれるので正直かなり助かっています。私、この人に本当に恩返しとかできるのか不安になってきました。
「彩月、この世界の人間は、大なり小なりみな魔力を体内に宿しているんだ。だが、異世界から来た彩月には、魔力はなかった」
「そう、ですか……私は、異世界で魔法使い業は営めないんですね」
うぅん、ショックだなぁ~。やっぱり異世界で、レイさんが魔法みたいなの使っているのを見ちゃったせいか、私も小さなころ本気で慣れると信じていた魔法使いに成れる可能性があるのかもって心の中で期待しちゃっていたようです。そんな自分への失望を隠すように、肩をすくめてそれはそうですよねといった表情を浮かべる。
そんな私の様子にレイさんは苦笑しながら、まだあきらめるのは早いのだと教えてくれました。
「魔法使い業か……やっぱり一度は魔法使いにあこがれるよな。彩月が魔力を持っていないのは、おそらく地球での肉体情報に何も書き換えがないまま異世界に渡ったからだろうな。地球人の進化の過程には魔力だの魔法だのはあまりかかわってこなかったから、当然かもしれないな」
私と、異世界の人間は姿かたちが同じように見えても、実際はかなり異なる種族ということですね。世界が違えば、進化の過程も文化もきっと違います。少し考えればわかることです。私はこの世界では、新たな種族あるいは、異端な存在なのだ。
「肉体情報―――情報ですか。私たちの体や心を形成するものが、ただの情報の固まりなのでしょうか?」
「ん、あぁ。それは、あくまで俺の持論にすぎないし、イメージしやすいかと思って説明に使っただけだ。それほど深い意味はないし、それが真実であると俺には証明することができないからな。それに、召喚やら転生やらのシステムは、正直俺にも複雑すぎてよくわかっていないんだ」
レイさんが、システムだとか情報だとかまるでこの世界がゲームや小説といったフィクションの中であるかのように淡々と語る姿に、ほんの少しだけうすら寒いものを感じます。
レイさんはこの世界で、「生」きているのでしょうか。
「要するに、異世界にわたる時に私の体がスペックアップしたり、スペックダウンしたりといった様子が見られないということですか」
「あからさまな変化は今のところは見られないよ。安心してもいいかもね。でも、細目に調べたほうがいいかもしれないね。召喚とかは結構何度も使われているから、改良されているけど単身、何の準備もなく異世界にわたってきたんだから、彩月にこの先何があるかわからないからね」
それにしても、この世界の人間には、魔力を練るための機能を持った臓物とか、あるのかしら? ちょっと気になるかも、医学書とかにこの世界の人間の中身の絵みたいなの載っているかしらん?
「それは、ちょっと怖いですね……微妙に余命申告された気分です」
「あはは、言い得て妙だけど、所詮生きてゐる者はいつかは死ぬよ。ずっと気にしてたら、病んじゃうから気楽にいこうよ。一応、俺のできる範囲内で、手を尽くすことは約束するよ」
「頼りにしてます。あぁ~でも、現実は小説より奇なりって本当ですね。まさか、異世界に来る羽目になるなんて思ってもいませんでした。どうせ、異世界に来たんだから、魔法使いになりたかったのになぁ。適正なしかぁ」
魔力ないのは、しょうがないけどなぁ。神様、どうせ異世界に落とすのならチートな能力くださいよ。体力測定結果がいつも柔軟以外平均以下な私に、どうやって見知らぬ世界で生き残れと? それとも、邪魔だから死んでってことなのかな。もし、後者なら絶対に生き残ってやる。そんで、日本の平均寿命より長く生きてやるから、見てなさい。
「ん、いや彩月。自前の魔力がなくても向こうの世界から見たら魔法使いっぽいのでいいならなれるかもしれないぞ」
「えっ」
心の中で、神様に悪態をついてゐたのを知らないレイさんが、あまりにもあっさりと「魔法使いっぽいのでいいならなれるかもしれないぞ」と耳を疑うような言葉を発っしました。
あ、あぶない。聞き流しそうになりました。もしかして、まだ私の夢ってかなう可能性がある? トクトクトクと、心音が高鳴る音がする気がします。
「あぁ。彩月、今俺はこっちの言語でしゃべっているが、俺らは違和感なく会話が成立しているよな?」
「はい」
「それは、なぜだ」
「レイさんが貸してくれた魔道具のおかげです」
あ! そうか。道具の力に頼れば、私でも魔法は使えるのですね。もしかしたら、空飛ぶ箒とか絨毯みたいな魔道具がこちらの世界には実在しているのでしょうか。少し怖いですけど、試してみたいです。
なんかこう希望の光みたいのが、差し込んだ気がします。レイさんに後光が差している気がします。
私が浮上した様が、全身からあふれ出していたのかレイさんがよくできましたとまるでいうように頭の上にポンと手を置きそのまま左右にスライドします。えぇ、俗に言ういい子いい子ですね。




