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第9話 加護と祝福の講義だとさ①

 

 出来たてほやほやの家を案内した後、家の中にある簡単な魔道具の扱い方を説明した。一度聞いただけでは覚えられないので、メモさせてくださいと瞳を潤ませて頼まれたので、なるべくわかりやすくまとめて使い方を教えてやった。この様子だと、口頭での教授法よりも教科書とか必要かもな。あとで、用意してやろう。


 アイテムポーチから、買ってきたものをリビングで広げるように俺は言うと、「下着も?」と珍しく敬語とか丁寧口調なしで、言われた。さすがにそれは、出さなくていいといった。少し気になりはするも、もしそんなことを口走りでもしたら間違いなく、二度と心を開いてくれそうにないだろう。それじゃあ、和やかに向こうの世界の話なんて夢のまた夢じゃないか。


 空間を拡張し、時間を停止させるこの魔道具は、入口の大きささえも無視して入る便利道具だ。使用期限とか、重量とか、入口の大きさとかに制限がかかるものが、多少市場に出回っているくらいで、ここまでの品は王侯貴族かかなりの高レベルの冒険者しか持っていないだろうことは間違いなしの超一級品である。ちなみに、ポーチの入り口を無視するのは軽い《吸引》と《縮小化》とかをいろいろいじくった末に克服したものである。どんな大きさのものであれ、四隅のちょっとでもぽちに入れば、あら不思議ってわけだ。


「えっと、台所用品はこっちで、衣服は部屋にしまうからこっち? あとは……」


 手早くアイテムポートから荷物を取り出すと、収納場所別に手際よく分別し始めた。見事に、必要最低限の日用品のみ買ってきたようだ。お菓子とかアクセサリーとかそういうのも買ってきていいっていえばよかったな。待ちの市場には彼女がいまだ見たことも聞いたこともない品々が、彼女を誘惑しただろうに自身の金ではないからといって律儀に必要最低限の物のみを購入する姿が目に浮かぶ。そして、そんな彼女の隣でこれも買っちゃえばいいのに、怒られないってとかセネットにはっぱかけられていそうだ。


「あ、あの購入物とその個数、値段を記入したものです。この世界ではレシートがないみたいなので」


 彼女は、鞄を俺に預ける時に回収していたメモ帳に購入したものの名称と個数、値段を記入していたのだ。懐かしい日本の文字だ。指先で、そっとその文字をなぞる。機密の高いものは、日本語で書く癖をつけているので、文字を忘れることはなかったが、自分以外の誰かの文字を見るのなんて久しぶりだった。


「確かにな。この辺じゃあそういうものは見ないな。王侯貴族とかが利用したりするところだと領収書みたいのは発行されているそうだがな」

「そうなのですか。この世界には、王様や貴族がいるのですね。あの、レイさん、一つ質問していいですか?」


 そうか、王様や貴族が国を治めるのが普通の世界にすっかり慣れてしまっていたが、向こうでは選挙で選ばれた首相とか国会議員とかが国を動かしていたもんな。俺が、彼女に教えなければならない一般常識はどうやらたくさんありそうだ。できれば、無理なく自然に知識をなじませてやりたい。


「ん、なんだ。俺にこたえられることなら答えよう」

「レイさん、加護と祝福の違いってなんですか?」


 食器類を棚にしまうのを手伝いながら、どうしたらこちらの世界になじみのない彼女にわかりやすく伝わるのかを考えて、ふと手を止める。なぜ、そんなことが気になったのだろう。

 だが、その疑問は彼女が加護をもらいに教会に行ったということを思い出す。


「何かあったのか」


 何かあったという確証はない。だが、なんとなくそんな感じがした。そうこの雰囲気は、前世で見覚えがあった。伊原もよく、こんな表情をしていたな。悪戯で試した魔術が、変な作用を生み出して戸惑って後処理を手伝ってって頼む時に、たしかこんな表情を見た気がした。何か作業をいそがしくしながら、目をそらしながらこっちを見る姿に遠い日の記憶が重なる。


「その女神さま―――カーヤ様からどうやら私祝福されてしまったようなのです。これってまずいのですか?」

「加護はいただけたのか?」

「はい。教会の人曰く、かなりしっかりと加護を授けてもらえたそうです。なんか、気に入られたとかなんとか言われました」


 《加護》《祝福》そういったものが、この世界では呼吸するように当たり前にあるのだ。レイチェルとしてこの世界に転生した俺も女神カーヤの加護、戦神の加護、錬金の神、工芸の神などいくつかの神から加護を受けている。それにしても面白いことを聞いた。


「神仏が力を加えて守り助けることを加護、神の恵みが与えられること、神から与えられる恵みを祝福っていうことくらいは、なんとなくわかりますよ?」

「この世界での話だが構わないか」

「はい。私はこの世界のことを知らなくちゃいけないのです」

「加護は、特定条件をクリアしてさえいれば、よほどその神に嫌われていないい限りほぼすべての種族がそれを受けることができる」


 たしか、女神カーヤは、かわいいくて、けなげな子も、少し意地っ張りな子も、美人な子も、地味顔な子も、みんな女であるのならば、愛し、野蛮な男から貞操を守ってあげるわって豪語する男の敵のような神様だな。女の最強な見方だ。ちなみに、幼女神様だ。そのくせ無駄に包容力がありすぎる。伊原が気に入られてたな。


「女神カーヤの特定条件を異世界人である私でも満たしていたから加護が?」

「そうかだな、たぶんそうなのだろう。女の貞操を守る神だ。その加護があればもう奴隷にされて売られる心配は低くなるから安心しな。俺は、これでお前の許可なく性的な行為はできなくなったってわけだ。なんせ、カーヤ様の加護で、≪貞操≫を守護されているから、無理やりに、俺がお前を犯そうとしたら天罰が下るからな」


 そんなにあからさまにほっとする表情はやめてくれ。今は女の体だとは自覚しているがやはり、俺に魅力がないのかと凹むからな。

「神様ってこの世界では本当に存在するとは、いまだに信じられませんが、向こうの常識がこちらで通じると思ったら大間違いですよね」

「あぁ、俺も最初は驚いたちょ。まぁ、キスくらいまではセーフだとか、だれか言っていたけどこういうのはセネットに詳しく聞いてくれ。詳しいだろうからな」


 俺も一応加護をもらっているけど、その威力を試してみたことはない。しかし、実験してみようなんて気は起きない。男が男に襲われるとかどんな拷問だよ、どうせ襲われるならきれいなお姉さんがいいに決まっている。


「でも、その加護の穴を使った悪質な手口も存在しているから、本当に信じている奴にしか体を許さないようにすべきだな。特に、街中でのナンパからベットへINなんて展開には気を付けなきゃならないよ。大概そういう時は、美男子が異様に甘い言葉で一晩の約束とか一生を共にしようとか真剣みたっぷりに言って女をだまして、ヤル。そうすると、一時といえども本気でそいつに恋して体を許しちまったから、加護が消えちまう。で、悪質な奴は気絶させるまで一晩遊んで、気絶しているうちに奴隷商に女を売ってお金をもらうのさ」

「ひどいっ。……騙されるほうが悪いっていうけど、でも酷です。あんまりです。乙女の心を踏みにじるなんて」


 女遊びで金が手に入って一石二鳥ってやつだから、そういう商売に手を染める男は幾人もいるのが現状だ。カーヤは、加護が消えているから、天罰が下せない。彩月……お前が売られていた場所にいた女は、そういう手口に引っかかった哀れなやつなんだ。

 身も心も完全に男だった前世は、胸糞悪い話だとは思ったが騙される方が馬鹿なんだと半分以上本気で思っていた。だが、女の体に精神が引きずられているせいなのか、今はすごく彩月の気持ちに共感できてしまうのだから不思議だ。


「あぁ。だから、気を付けろよな」

「はい。気を付けます。イケメンと甘い言葉がセットの時は、警戒心をMAXにします」


 力強く、うなづいてくれた。





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