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第三章 砂漠のお嬢様⑥

「マリオリの奴、あのお嬢様の財布を持ってバックれやがった」

「そいつはヤキを入れてやらねえとな」


 砂漠の夜の闇の中、物騒な言葉を話す青年達がいた。


 観光の街アン・グリースは古代都市の城壁を模した外壁に覆われている。その外壁から外へ出て砂漠を少しばかり移動した岩壁の上、街と城壁を見下ろす場所に、小さな明かりが灯っていた。廃棄された小さなオアシス跡らしく、半ば朽ちた小屋が何軒か建っているが、それを覆い尽くすように水無しでもしぶとく生きる砂漠性植物の真っ黒な蔦が我が物顔で這いまわっていた。それに加えて、打ち捨てられた生活雑貨や、余所から運び込まれたらしい産業廃棄物が通りを埋め尽くしている。


 今、その場所には十代から二十代の男達が集まっていた。派手な服を着て、目立つアクセサリーを付け、体中に刺青を入れて、いかにもガラの良くない青年ばかりだった。彼らは持ち込んだ小型ジェネレーターで照明を点け、音楽を大音量で流し、持ち込んだ酒を飲み、騒ぎ、浮かれ、暴れ、怒り、収拾がつかない様子を見せていた。中には錠剤を飲み込んだり、注射を打っている者もいた。


 彼らに連れ込まれたらしい女の子達の姿もあったが、媚びを売って微笑む子もいれば、恐怖で泣き出す少女もいる。


「ナメやがって。俺らを裏切ったらどうなるか、教えてやる」

「他のガキどもが同じようなことしようと思わねえようにきっちり締めねーと」

「見せしめだな」


 男たちは口々に少年を罵り、中には勢いで酒瓶を割る者までいた。


 そんな混沌とした場所に、レオナルドは躊躇なく足を踏み入れた。


「なるほど。不良グループがつるんで、子供に悪いことをさせていたわけだ」


 男達の設置したライトが、暗闇にレオナルドの白い顔を浮かび上がらせる。突然の闖入者に驚いた様子の男たちだったが、すぐに勢いを取り戻し、レオナルドを睨みつけた。


「誰だ、テメーは!」

「なんだ、このチビ?」

「やんのか、コラ!」


 男たちに口々に罵られ、睨み付けられてもレオナルドは薄く笑った表情を変えることはなかった。


「やるよ。君達を潰す。優しいお嬢様と、生き方を変えることを決めた男の子のためにね」

「俺らがアン・グリース連合だって知って言ってんのか?」

「うーん。名前くらいは聞いたことあるけど。でも、正直、パッとしない印象だなあ」

「テメエ、殺すぞ!」


 レオナルドに向かって凄みながらナイフを構えた青年は、昼間の制服姿の印象とは全く違うが、ケイトの泊まったホテルのベルボーイだった。他の青年達もも、ナイフや剣、小銃、レーザー銃など出して構える。


「俺らはどんな奴にも屈しない、根っからのワルだ」

「性質が悪いってんで、アン・グリースの自警団の奴らもなかなか手を出して来ねえんだぜ?」

「俺らは有名なギャング団にも一目置かれてる!」

「あとで後悔しても遅いぜ。俺らは残虐非道ってことで有名だからな!」


 レオナルドはクスリと微笑みながら、ジャケットの左袖を捲り、グローブと左腕の皮膚を脱ぎ捨てた。


「ふうん? 口だけは達者なんだ?」

「テメエ!」


 怒り狂った何人かがナイフや刀を手に突っこんでくる。だが、その時には既に、レオナルドの左腕は歪なシルエットの刀形状に変化していた。


 レオナルドが最初に突っこんできた青年の頭に左腕の刀を叩きつけると、青年は一瞬で昏倒した。舌打ちと共に他の青年が発砲するが、レオナルドは倒れ込んだ青年の胸元を掴んで立たせ、全ての弾丸と斬撃の盾に使った。ボロボロになった青年を投げつけ、近づいてくるを男達を刀で薙ぎ払う。


「なんだよ、アイツ!」


 止まると銃で狙い撃ちされるため、レオナルドはできるだけフットワーク軽く動き続けた。青年達に刀を叩きつけながら、隙を見て左腕を鎖状に変化させる。それをしならせて青年たちの手元を払い、銃器を取り落させた。拾う間を与えないよう素早く距離を詰め、再度刀形状に戻した左腕で鈍い斬撃を見舞う。


 あっという間に、オアシスの廃墟には倒れ込んだ青年達が積みあがっていった。残った青年達と少女達は呆然とそれを見つめる。


 砂漠の冷たい夜風はレオナルドの赤茶色の髪を撫でた。月下に浮かぶレオナルドの白皙の顔には、楽しそうな笑みが浮かんでいた。


「さて。マリオリじゃないけど、そして、ちょっとタイミングが遅れたけど、イッツ・ショータイム!」



「もう少し痛めつけてもいいかな?」

「も……勘弁……してください……」


 レオナルドはリーダー格の男を除くすべての青年を倒した。皆、意識を失うか、呻くことしか出来ず、地面に転がっている。少女達は既に逃げ出していた。残されたリーダー格の男は縛り上げられ、長い時間、レオナルドによって顔や腹などを蹴られ続けた。そのせいで腫れあがった顔は、もはや元の造形がわからない状態だった。


「情けないね。どんな奴にも屈しない、根っからのワルじゃなかったのかい?」


 レオナルドが薄く笑うと、リーダー格は悔しそうに唇を噛んだようだが、あいにく顔が崩れすぎてよくわからない。立派な刺青の入った体は打撲傷だらけで、彼のズボンの股間周りは洩らした小便で濡れていた。


「さて。君と君達の情けない様子はきっちり撮影させてもらったからさ。マリオリに何かしたら、コレがどういう扱いを受けるかは想像に任せるよ。表の顔がある人はそっちに悪事をバラしてもいいし。君達がこれからどういう態度で過ごせばいいかはわかるね?」


 リーダーは力なく頷いた。


「ああ。あと、質問に一つだけ答えてくれるかな?」


 レオナルドは今までの暴行が嘘のように、優しい笑みと優しい声でリーダー格の耳元に囁いた。


「自警団の中に君達の協力者がいるね?」


 腫れあがった顔からも分かるほど、リーダーの顔が青白く変わる。


「子供を使ったこんなチンケな犯罪、バレてこなかった方がおかしいよ。その他にも、君達の連合はたくさん悪さをしていたみたいだし。誰かが揉み消していたんじゃないのかい?」


 リーダーの青年は力なく頭を横に振るが、レオナルドはその腹を思い切り蹴り上げた。


「もう一セット、僕の蹴りを受けてみる?」


 レオナルドがニコリと微笑むと、リーダーはぶるぶると、滑稽な程震えた。


「わかっていると思うけど、早く吐いた方が身のためだよ?」



「レオナルドさん、すみません。我々ではこういう強硬手段は取りにくいので、あなたに頼りきってしまいました」

「構いませんよ」


 レオナルドが青年たちの拠点を出てバイクを停めていた場所に向かうと、その傍に控えていた数人の男性達が出迎えた。二十代から五十代、全身にきっちりとしたアン・グリース自警団の制服を着た面々だった。レオナルドがアン・グリース連合のリーダー格から聞き出した裏切り者の名前を告げると、全員が丁寧に頭を下げた。


「実は頼みにくいのですが――我々自警団の中に裏切り者がいたことは広めないで頂きたい」


 メンバーのうちの最年長、この班の管理者だという男が苦虫を噛み潰すような顔で声を絞り出した。


「我々の組織は街の人達の出資で運営しておりまして、つまりは、住人との信頼関係で成り立っておるのです。にもかかわらず、我々の中に犯罪者の仲間がいたなどと露見すれば、信頼関係は崩れ、ひいてはこの街の治安維持活動が困難になるでしょう。それは避けたい。もちろん、裏切り者に対しては、しかるべき『処置』を致しますし、連合の奴らにもきっちり処罰を受けさせます」


 もともとは流れの盗賊狩りの武装集団に身を置いていたというこの管理者は、『処置』という言葉を発した瞬間、その瞳から鋭い光を放った。それを見て、レオナルドは頷く。


「わかりました。口外はしません――が、その代りにお願いしたいことが三つあります」

「なんでしょうか? あなたには本件でも、例の盗賊の件でも協力して頂いておりますので、我々ができることであれば協力しましょう」


 管理者は真面目な表情で頷いた。


「一つは、先日届けた盗賊の処置と、例の姉弟の保護を万全にしてもらいたい」

「それはもちろんです」

「二つ目は、マリオリの更生を優しく見守ってもらいたい」

「わかりました」

「三つ目は、アリシアという少女のこと」

「アリシア?」

「この街に短期間ですが、滞在していた若い女の子です。その少女の情報を……」



 自警団から別れると、レオナルドはバイクに跨り夜道を走った。ロングジャケットの裾と頭部と顔に巻いた布の端が闇の中で翻る。


 夜の砂漠は寂しい世界だ。ライトが照らすバイク前方の僅かな空間しか存在しないように見える。うるさいエンジンの音は、何もない闇の中に吸い込まれていくばかり。まるで死者の国へと続く道を走っているようだった。


「黒の街、リフリチェか……」


 ケイトにもらった情報から得られた、アリシアがアン・グリースの次に訪れたと思われるオアシス。レオナルドはそのリフリチェへ向かってバイクを加速させる。砂を撒き散らしながら、ライトを灯したバイクは闇を切り裂く光の矢のように、夜の砂漠を疾走した。

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