第三章 砂漠のお嬢様⑤
レオナルド達はメイン通りの噴水近くにあるオープンカフェに入った。洗練されたウェイターが給仕してくれる、観光客向けの店だ。注文を待っている間、慣れない場所のせいかそわそわしていたマリオリだが、レオナルドがカグヤを渡してやるとニコニコしながら撫でまわし始めた。エメラルドグリーンの麗しい鳥は迷惑そうに一声鳴いたが、マリオリのされるがままになっている。
レオナルドは注文が来るまでに、カグヤから回収したメディア媒体を携帯用メディアボードに差し込み、収録されていた動画を再生させた。その動画は本来は3Dホログラムのフォーマットなのだが、あいにく、再生機はバイクに付けたままになっている。しかし、携帯ボードには3Dを2D変換するアプリをインストールしてあるから、多少歪みはあるものの問題なく再生された。
『おはよう、それとも、こんにちは、こんばんは、かしら? レオナルド、お仕事の調子はどう?』
動画メールはニーナからのものだった。小型ディスプレイに表示されたニーナは、雨雲から伸びたワイヤーに吊られたマリオネットのように、危なっかしい動きで太陽光が照りつける砂漠を一人で歩いていた。風が強いようで、黄緑と水色のドレスの裾と傘がハタハタと揺れている。
『この前はお手紙ありがとう。このところ本当に暑いわね。わたしもオーバーヒートには気を付けるわ。いまのところは無事にグレイ・ディールにも雨を届けられたし、大丈夫。これからファナティークに向かうの。行商人たちの補給拠点の一つね。ワン親分たらひどいのよ。「奴らの組合は貧乏で儲からんから、雨はちょっとだけ降らしてやればそれでいい」なんて。まあ、そんな指示は守らないけれど。それじゃあ、またね。お手紙待っているわ。怪我には気を付けてね』
黄緑色と水色の妖精は、話し終わると微笑みながら画面の黒色の中に消えた。
「恋人からのメッセージですの? 隅に置けませんわね」
さすがにメディアボードを覗いたり、盗み聞きしたりはしなかったが、ケイトはゴシップ記者の娘の勘から何かを察したのか、レオナルドの顔を興味深げに窺う。
「違うよ。ルームメイトが働きに出ていて、出先からメッセージをくれただけ」
「そうですの? 本当に?」
身を乗り出すケイトから、少し困ったような表情で目を逸したレオナルドは赤茶色の髪を掻く。そして、焦げ茶色のジャケットの内側から紙とペンを取り出すと、右手にペンを持って文字を書き始めた。
「返信はお手紙ですの? うちの会社を棚に上げた話ですけれど、いまどき珍しいですわね」
「ルームメイトは自筆の手紙が好きなんだ」
「あちらは電子メッセージですのに?」
「あの子は体を換装してから自分の筆跡が変わってしまったみたいで。好きじゃないんだって。今の自分の書く文字が」
「まあ。失礼なことを聞いてしまいましたかしら。申し訳ありません」
「いいよ。別にあの子もそこまで気にしてないみたいだし」
ケイトはテーブルの上で頬杖をつきながらレオナルドが手紙を書く様子を見つめた。
「ふふふ。懐かしいわ。アリシアもセイン・テラー氏とドキドキしながらメッセージ交換をしておりましたのよ。電子メッセージだけではなくて、手書きの手紙でのやりとりもしていましたわ」
「へえ……」
「アリシアのお家にお邪魔した時に見かけましたけれど、セイン・テラー氏からもらった手紙を大事そうに綺麗な箱にしまっていましたのよ。可愛らしい乙女でしょう?」
「ふうん……」
レオナルドは紙にペンを走らせながらも、どこか困ったような表情をしていた。
「あら。女の子の恋愛話は本当に苦手ですのね?」
「そんなことはないけど……」
「そうですの?」
ケイトの灰色がかった青い瞳が、好奇心旺盛な子供のようにキラキラ光りながらレオナルドを見つめる。レオナルドは一つ咳払いをした。
「とにかく。そろそろ本題に入ろうか」
レオナルドは手紙を小さく折り畳む。マリオリからカグヤを奪還すると、その脚に手紙を括り付けて空を放った。マリオリは少しの間、残念そうに口を尖らせたが、砂漠の真っ青な空へ向かって飛び立つカグヤに笑顔で手を振った。
「カグヤ、バイバイ! またねー!」
無邪気な笑顔を浮かべるマリオリを見ながら、ケイトは眉を顰めてレオナルドに意見する。
「まさかこんな素直な子が私のお財布を取るだなんてそんなこと信じられませんわ」
「そうだよ! オイラそんな悪いことしないよ!」
マリオリは椅子から立ち上がり、真剣な表情でレオナルドに訴えた。だが、レオナルドは薄く唇の端に笑みを浮かべて言う。
「マリオリ、君、連日ケイトちゃんに自分の商品を買えとしつこく言っていたみたいだね」
「そ、そりゃあ商売だもの。オイラ商売熱心なんだ。だってウチは貧乏だし……。あ、もしかして、オイラが貧乏だからって疑ってるの? ひっどいなー!」
「そうですわ。そんなことは何の根拠にもなりませんわ」
「僕はそんな理由で人を疑ったりはしないよ」
二人に責められてもレオナルドは薄い笑みを崩さなかった。
「じゃあ、証拠はありますの?」
「証拠は――というか、戦利品であるケイトちゃんの財布、まだ君が持っているんじゃないのかい、マリオリ。そのリュックの中か、服の中に隠しているか」
「ま、まさか! そんなワケないだろ!」
マリオリは無実だというように、両腕を上げて見せた。
「どんな理由でオイラが持ってるだなんて決めつけるんだよ」
「君の今日の行動がおかしいからだよ、マリオリ」
「おかしい……?」
困惑の顔になったマリオリを、レオナルドはじっと見つめる。
「バイク屋を出てから会った君は、ケイトちゃんに対して商品の売り込みをしなかったね。あくまで、ケイトちゃんが『また売りに来たのか?』って聞いてただけ。君はケイトちゃんの後を追いながら、ただ芸を見せているだけだった。おかしいじゃないか。商売熱心なはずの君が」
「そ、それは。二人が話しているのを聞いて……財布がないってわかったから」
「途中からはそうだろう。でも、バイク屋を出た直後に会った時も、君はケイトちゃんに何かを売ろうとする素振りを見せなかったじゃないか。その時にはもう、彼女が財布を持っていないのを知っていたんじゃないかい?」
「た、たまたまだよ……商品の話をしないこともたまにはあるさ」
「この五日間、ケイトちゃんが呆れるくらい売り込みをしていた君が?」
「いつもいつでも売り込みしないといけないってワケじゃないだろ!」
マリオリは必死な表情で叫び、ケイトがそれを心配そうな表情で見つめる。レオナルドは薄く笑った表情のまま言葉を続けた。
「ふうん。でも、途中でケイトちゃんに財布がないことがわかったなら、普段の君なら、わざわざ彼女のまわりをウロウロしないで、他の客を見つけに行くんじゃないの? なのに、何のために彼女のまわりを離れずに追ってきたのかな?」
「え……そ、それは……」
「ケイトちゃんが自警団に行かないよう見張っていた、自警団に行きそうになったらそれを阻止しようとしたってところかな?」
マリオリの日に焼けた顔がみるみる表情を失い、青くなる。
「僕が最初に指摘したとおり、噴水のところで花火で驚かせて、ケイトちゃんの財布を盗ったんだね?」
レオナルドが優しい声音で問いかけるが、マリオリは青くなった顔を俯けて言葉を発しなかった。
「で、でも、籠の鍵はどうしますの? ずっと私の腕についていましたのよ? マリオリが隙を作ったとしても籠から取りようがありませんわ」
黙ってやりとりを見ていたケイトが、マリオリに気遣わしげな視線を向けながらレオナルドに問う。
「共犯者がいるんだろう。マリオリにスペアキーを渡した奴がいるんだ」
「まさか、あのバイク屋の方が……」
「うん、確かにバイク屋はスペアキーを持っているだろう。だから容疑者の一人ではあるんだけど……」
俯いたままのマリオリに観察するような視線を向けながら、レオナルドは言葉をつづけた。
「もう一人容疑者がいる。ホテルのベルボーイだよ」
その瞬間、マリオリの肩がピクリと震えた。レオナルドがケイトの表情を覗くと、マリオリの反応に確信を得たらしい記者の娘は悲しそうな顔をしていた。
「一体どうやって……」
「なんてことはないよ。付け替えたんだろう。自転車の籠自体を」
「まあ!」
目を見開くケイトに、レオナルドは穏やかな微笑みを返した。
「あのベルボーイはホテルで君の自転車を保管している間に、元の籠とそっくりの別の籠に付け替えたんだ」
「じゃあ、この鍵は……」
ケイトは気持ち悪そうに自分の手首に巻き付いている籠の鍵を見つめた。
「ケイトちゃん、その腕の鍵はマグネティックシステムで巻き付いたり緩んだりするタイプだろ?」
「ええ。あ! あの時――朝、これを落としてしまったのは……」
「ある種の電磁波を浴びると誤作動する場合があるからね。ベルボーイが何らかの方法で落とさせたんだろう。そして――」
「……あの瞬間に付け替えた籠の方の鍵にすり替えられたんですの?」
「そうだろうね。そして、その鍵のスペアはマリオリに渡してあったんだ。お互いが疑われないように、そういう工作をしたんだろうね。主犯はベルボーイかな」
「でも、バイク屋さんに保管されている鍵と違いますもの。こんな犯行、結局すぐにばれてしまうのでは?」
「当然、バイク屋で車体と籠の確認はするだろう。忘れ物がないか、壊れていないか確かめるために籠を開けるだろうけれど、それは普通、貸し出していた方の鍵を使って確認すると思うよ。彼らが保管している方の鍵をわざわざ出してきたりはしないんじゃないかな。今までも、こういう方法で結構うまく儲けていたのだろうね、このコンビは。どちらにしろ、バイク屋で確認すればわかるよ」
下を向いて肩を震わせているマリオリを、ケイトは悲しげな表情で見つめた。
「マリオリ。どうしてこんなこと。私、あなたのことを少し迷惑とは思ってましたけど、商売をがんばるいい子だとも思ってましたのよ?」
マリオリは俯いたまま、震える声を絞り出すように話した。
「ベルボーイをしている兄ちゃんは僕の近所に住んでいる人で、小さな頃から遊んでくれて面倒見てくれて……」
顔を上げたマリオリの目の縁には、キラキラと光る涙が浮かんでいた。
「でも、友達に騙されて借金をしちゃったって。困ってるんだって言われて、手伝ってくれって言われて。ほ、本当はこんなことしたくなかったけど、どうしても断れなくて! 後悔しています。ごめんなさい!」
マリオリの真っ赤に染まった目、その長い睫毛に彩られた縁から一滴の涙がこぼれた。ケイトはその様子を居たたまれない顔で見つめた。
「マリオリ。もう私に嘘は通じなくてよ」
ケイトの顔はびっくりするほど冷たい表情に変わった。それを見てマリオリの表情が凍りつく。一方のレオナルドはその二人の表情を見比べながら「へえ」と言って、薄く笑った。
「私はあなたが必死に商売に打ち込む姿を好ましいと思っていました。それが先入観となって、ああなたの真意を見抜けませんでした。間抜けですわね。でも、今の私にはわかります。そんな顔をしてお涙頂戴の嘘をついて、本当は反省なんかしていないのでしょう? さすが、卑しい貧乏人は心まで卑しいようですわね」
ケイトの顔は人を嘲るような笑みに変わっていた。マリオりは彼女を呆然と見つめていたが、やがて、その腕が震え始めた。だが、それは恐怖によるものではないらしい。少年は口を一文字に引き結び、見開かれていた眼はケイトを睨み付けるように細められた。
「そうだよ! 反省なんかしてないね。金持ちなんか皆オイラ達のこと見下してるじゃないか! さんざんバカにされて、オイラ達を傷つけてきた。だから、持ち物を拝借してやった! オイラは金持ちが大嫌いなんだ!」
「やっと本心が出ましたのね」
ケイトは薄く笑うと、その灰色がかった青い瞳を伏せて言った。再び瞳を開いたケイトは無表情だった。彼女はレオナルドに紙とペンを所望し、何かを書き付けると、カフェの店員を呼んだ。
「これをカリゴリ砂漠の外へ届けたいのだけれど、できますかしら?」
にこやかな笑顔を張り付けた店員は頷き、店の奥から黒い鳥を連れてきた。レオナルドの愛鳥カグヤよりも一回り小型だが、体中に金属パーツが取り付けられた個体だった。店員はその鳥にケイトの書いた手紙を持たせると、空に放つ。黒い鳥は風に乗り、信じられないスピードで見えなくなっていった。
マリオリが虚勢を張った顔に、僅かに怖がるような表情を浮かる。
「い、一体何をする気なの……?」
「お父様に電報を打ちます。黙ってお待ちなさい」
黒い鳥はカリゴリ砂漠の外、直近の都市にある無線中継所へ飛んだのだろう。ケイトの書いた手紙の内容はオペレーターを介して電子メッセージに変換され、ケイトの指定した宛先に送信されるはずだ。
鳥を見送ったケイトは、カフェの椅子に座り直し、甘い果汁のアイス・ドリンクを楽しんだ。一方のマリオリは勢いを失ってオロオロしている。レオナルドは二人を黙って見守った。
「ケイト様、いらっしゃいますか」
ケイトが飲み干したドリンクの氷が全て解けてしまった頃、レオナルド達のいるオープンカフェに、アタッシュケースを抱えた堅苦しいスーツ姿の男性が訪ねてきた。ケイトが優雅に手を挙げると、男性は彼女に近付き丁寧に礼をした。
「私、アン・グリース銀行の者です。スプリング・アンド・フォール社様よりご送金がございましたので、お届けにあがりました。メッセージもお預かりしております」
「まあ、お父様ったら、会社の経費で落とす気ね。ケチなんだから。あら、メッセージには小言がたくさん。これは後で読みましょう」
ケイトは銀行員から受取ったメッセージの書かれた紙を、ざっと目を通しただけでバッグに押し込んだ。銀行員はアタッシュケースを開き、中から紙幣を一束取り出す。紙幣を束ねる紐を外すと、慣れた手つきで枚数を素早く数えた。金属繊維で編まれたそれはキラキラと砂漠の太陽を反射する。銀行員が確認した紙幣を、ケイトは何の感慨もないような表情で受け取った。
「カリゴリへの送金は大変だと伺っていましたけれど、この程度の金額ならこんなに早く到着しますのね」
「アン・グリース銀行では観光客の皆様のためにサービス向上に務めてございます。この額であればそれほど面倒はございませんので」
マリオリが唾を飲み込みながらケイトの手元の紙幣を見つめている。これだけでマリオリの稼ぎの何年分になるだろうか。
ケイトが銀行員の差し出した受領書にサインすると、銀行員は丁寧に礼をしながら帰っていった。また、彼女はカフェの店員を呼びつけ、三人分のドリンク代と先程のメッセージ送信の礼金、チップを支払った。
「さてと。あとはレンタルサイクルの支払いと、帰りの便のチケット代、予備のお金も少々とっておいて……」
ケイトは呟きながら、必要な紙幣をバッグに入れた。
「あら。かなり余ってしまいましたわね。これ、どうしましょう?」
そう言って、ケイトは片腕に握ったかなり厚みのある紙幣を見ながら、わざとらしく肩を竦めてみせた。ケイトの目的がわからないマリオリは戸惑うような表情を見せる。レオナルドは興味深そうな顔で二人を見つめた。
「ああ、マリオリ、あなたの花飾りを頂戴。籠ごと、あるだけ全部」
ケイトは、今はカフェの床に置かれているマリオリの籠に入った花飾りを指差した。「え?」とマリオリは頭を傾げる。
「だから。あなたに盗られた私の財布の中身とこれで、あなたのそのチンケな花飾りを買ってあげると言っておりますのよ」
マリオリは目を見開いた。
「恵んで差し上げますわ。あなた、他人の財布に手を出すほど貧乏なんですものね」
追い打ちをかけるようにケイトはそう言って、口の端を歪めて笑った。さも可笑しそうに。
「な、なな……!」
マリオリはしばらく絶句していたが、拳を握りしめるとケイトを睨みつけた。
「バ、バカにするな! お前なんかにそんな情けを掛けられる程、オイラは落ちぶれてちゃいないよ!」
「ふうん。貧乏人なら喜んで受け入れると思いましたのに」
「オ、オイラにだってプライドがある!」
「どうかしら。このままだと、近所の子供にコソ泥の手伝いをさせるような低レベルな人間に育ちそうですわ」
「オ、オイラはそんな糞野郎にはならないさ!」
「だったら……」
ケイトはすうっと息を整え、冷たい表情のまま言い放つ。
「このお金は、その糞野郎には渡さないで、あなたが立派な大人になるための投資に使ってみたらどうかしら? 学校に行くでも、身入りのいい商売を始めるための原資でも、どちらでもいいけれど」
マリオリのケイトを睨みつけていた瞳が、驚きで見開かれた。
「まあ、あなたみたいな愚か者に、そんな有効な使い方ができるとは思えませんけれど」
「オ、オイラには出来るさ!」
「そう。期待しないで待っているわ」
ケイトは席から立ち上がると、マリオリの傍に紙幣を投げ捨てた。そして、マリオリの籠から花飾りを一輪とり、自分の髪に結わいつけると、残りの花飾りを籠ごと抱えてカフェを後にした。レオナルドもそれに続く。
「見てろよ! オイラ、ちゃ、ちゃんとやってやるからな!」
マリオリは、自転車に跨ろうとするケイトの背中に向かって精一杯叫ぶ。レオナルドがケイトの顔を覗くと、ケイトは少し嬉しそうに、「ふふふ」と優しく微笑んでいた。
※
「お父さんにバレたくなかったんじゃなかったの?」
「もういいのです」
アン・グリース外縁の空港で帰りの飛空艇の便を待ちながら、ケイトはそれでも少し残念そうな表情で溜息をついた。
「マリオリは……近所のお兄さんとかいう人に引っ張られて倫理観がおかしくなっていたのは事実でしょう。でも、商売にかける熱は確かなものだったはず。まだやり直せるはずだと思ったのです」
「だから、あんな高慢チキな態度をとったんだ?」
「下手な演技でした?」
「不器用な女の子だなあとは思った」
レオナルドが苦笑すると、ケイトも少し頬を赤くしながら苦笑した。
「でも、きっとマリオリは賢い子だから君の真意は理解したと思うよ」
「だと嬉しいですわ」
苦笑しながらケイトはハンドバッグから携帯用メディアボードを取り出した。
「お父様にはバレてしまいましたが、レオナルドさんにはみごとお財布の行方を見つけて頂きましたから、アリシアの情報をお渡ししますわ。取材内容はレポートにまとめてありますの」
レオナルドも懐からボードを取り出し、ケイトのボードの上にかざすと、文字情報が転送されてきた。レオナルドはボードを手元に持ってきて、内容にざっと目を通す。
「これはいい情報だね。ありがとう。助かったよ」
空港のアナウンスがケイトの便が出港準備の整ったことを知らせた。ケイトはバッグと花の詰まった籠を持って席から立ち、搭乗ゲートに向かう。ゲートを潜る直前、彼女はレオナルドを振り返った。
「私、またアリシアに会えますかしら?」
「親友なんだから、会えないわけがないだろう」
「ふふふ。そうですわね。レオナルドさん、今日は本当にありがとうございました」
そう言って手を振るケイトは、やがて人混みの向こうに消えていった。
ケイトの飛空艇が離陸する頃、レオナルドが空港の外に出ると、アン・グリースの一番高いショッピングビルの上で、派手な打ち上げ花火が何個も上がるのが見えた。立ち入り禁止のはずのその屋上に立つ、小さな少年の影も。花火は去ってく飛空艇を見送る、祝砲のようにも見えた。




