第八話 男のロマン
「隊での決まり事…いわゆる局中法度を作ったんだが」
ある朝。
毎日隊士全員で行われる朝礼のようなものの中で近藤さんが声を張り上げた。
日に日に増えていく隊士達の中には、腕に自信があるジャイアン的な乱暴者も少なくない。
その人達をまとめあげるにはやはり決まりがないと…と、先日からずっと歳さんが考えているようだった。
「では今から読み上げる!!
一つ、士道に背き間敷事。
一つ、局を脱するを不許。
一つ、勝手に金策致不可。
一つ、勝手に訴訟取扱不可。
一つ、私の闘争を不許。
右条々相背候者切腹申付べく候也。
以上だ!」
近藤さんが読み終えると、辺りがザワザワと騒ぎはじめた。
えっと…そんな驚くことなのだろうか。
ぶっちゃけ私には意味がよくわからない。いい加減、この時代の文章というか文字というか、覚えたほうがいいかもな…
「…あの…新八さんは近藤さんが言ってた意味、わかります?」
隣に座っている、夕べ島原で飲み過ぎたのであろう、グッタリとしている新八さんに些細な疑問をぶつける。
「…おい、由香ちゃんよ、それはただ純粋に聞いてんのか?それとも俺は理解してねぇとでも思ってんのか?」
そりゃあ後者に決まっ…なんて思わず口走りそうになったが、グッとこらえヘラリと笑ってみせる。
「…まぁいい。んじゃ由香ちゃんのために簡単に説明してやるよ、いいか…?
てめぇら、武士らしい振る舞いをしろ!
壬生浪士組を抜けることは許さねぇ!
勝手に借金するんじゃねぇ!
勝手に裁判するんじゃねぇ!
私闘はするんじゃねぇ!
それが守れねぇ奴らは切腹だァ!!
…ってとこか。それより今の土方さんに似てただろう!」
「はぁ…」
満面の笑みでにじり寄ってくる新八さんに愛想笑いをこぼす。
切腹…
切腹って…自分で腹斬るあれだよなぁ……
随分と怖い規則を作るもんだ、歳さんてば。
ざわめく隊士の中で、凛としたオーラを放っている歳さん。
最近、随分と遅くまで起きてたみたいだったけど…
体調は大丈夫かな。
歳さんが書いた局中法度は額に飾られ、広間の上座にでかでかと掲げられたのだった。
***
「…歳さん、いますか?」
「あぁ。どうした」
部屋の中から歳さんの声がしたのを確認すると、私はお茶とお団子が乗ったおぼんを持ち、スッと襖を開けた。
「お茶にしません?お団子もありますよ」
「……なんだ急に」
「別に」
ちょこんと畳に座り、コポコポとお茶を煎れる。
「…はい、どうぞ」
「悪ぃな」
ぶっきらぼうに答えた歳さんはなんだか痩せた気がした。
うん。痩せて締まって、また一段と男前になった気がする…じゃなくて!
どうしたのかな?
疲れてるだけなのかな?
「…歳さん、悩みあります?相談に乗りますよ」
「はぁ!?なんだ、急に…」
「私、こうみえても未来では友達に相談とか結構されてたんです。だから少しだけど歳さんの力にもなれるかなって」
「……そうだな。この前、どっかの馬鹿が酔っ払って絡んできてな。そん時に蹴られたスネがまだ痛ぇことくれぇか」
「ぶっ…/////!それ、私じゃないですか!!まだ痛いんですか!?」
「ばーか、嘘に決まってんだろ」
そう言ってフッと笑った歳さんの顔に思わずドキリとする。
うーんと…/////なんだこれは////
もしかしてアレでアレな展開かい////?なんて。
惚れやすい私が歳さんに惚れるのはもはや時間の問題かもしれねぇ。
なんて歳さん口調で考えながら、う~ん…と顎に手をあてる。
「…今度はなんだ」
「あ、いや、えぇと…////」
いろいろ鋭い歳さん。私の俯いてる顔が赤いのなんてとっくに気付いてるんだろう。
でも…
「なんだ?俺に惚れたか」
……なんですと?
バッと顔を上げると、不敵の笑みを浮かべた歳さんが。
なに?この自意識過剰。
なに?このナルシスト。
惚れるかも、なんてどうやら私の思い違いだったようだ。
「歳さん、結構自意識過剰な馬鹿なんですね」
「はあぁ!?てめぇ、どういうことだ!?…あっ!それ、俺の団子だろうが!!」
なんだか悔しかったから、私は歳さんのお団子を一気に口に詰め込んだのであった。
*
「しかしあれですね。局中法度、随分と怖い決め事ですね」
「怖い?どこがだよ」
「切腹、とか…」
「あぁ?切腹なんて武士として光栄なことだろうよ」
切腹なんてギター侍とかいうお笑い芸人のネタくらいでしか馴染みがない私にとって、未知の世界のものだし、見たくもない、もちろん経験なんてしたくもないことだ。怖い以外の何物でもない。
この時代の武士の人は、何かと言えば切腹切腹で、切腹は美徳とかいう言葉を聞いた。到底私には理解できない。
そういえば左之さんも一度切腹経験があるらしい。「死にそこねたけどな」と、あの爽やかな笑顔で笑っていた。
「俺達ぁ武士だ。武士の名を傷つけるような行動をしたとあっちゃあ、それは士道不覚悟とみなされる。ま、女のお前にゃあわからねぇこったがな」
そう言って歳さんはゆっくりとお茶を啜る。
――少し前。
芹沢さんとお酒を飲んでる時に聞いた。
歳さんとか近藤さんは元々武士じゃなかったって。
武士への憧れが強い分、武士よりも武士らしくありたいと思ってるんだろうって。
その時の芹沢さんは嘲笑を含めた言い方をしたけど、それが男のロマンってやつなのだろうか。
「ふ~ん…」
私は切腹に納得したのか、男のロマンに納得したのか、自分でもわからない曖昧な返事をすると、残りの団子を口にほうり込んだ。
「……結局俺には団子無しかよ」
そうボソリと不機嫌そうに呟いた歳さんは、武士でもなく男でもなく。
ただ拗ねているかわいい少年のように見えた。
局中法度は作家、子母澤寛の創作とも言われています。
本当にあったとしたら、彼らの武士の誇りは相当なもんだったのだろうと思います。
ちなみに新撰組の死因No.1は切腹らしいです。
そしてその切腹に至った理由No.1は士道不覚悟、とのこと。
切腹を言い渡した近藤、土方はどんな思いだったのかが気になるところです。