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第五話 アイツは可愛い年下の男の子



桜の花も舞い散り始めた文久3年4月。


「さぁ~、そろそろ庭掃除でもするかぁ…」


まだ冷たい風が屯所内を吹き抜ける中、私は縁側でう~ん…と伸びをし、ピョンと庭に飛び降りた。


「…由香ちゃん。中々女中の仕事も板についてきたじゃねぇか」


パチリ


「ちっ…!そうだな…少し前まで何もできなかったのが……これでどうだ!」


パチリ


「ぐわっ!!そうきたか!!」

「今じゃ嘘みてぇになんでもできるようになったもんな!」


屯所でよく見られる日中の風景。

今日将棋をさしているのは新八さんと左之さんだ。


私がこの時代に来てから早いもので二週間がたとうとしていた。

相変わらず帰る手立ては見つからないが、私自身の適応能力がMAXで働いたらしく、少しずつではあるがこの時代に慣れてきたというところか。


「おう!由香!!庭掃除とは精がでるな!結構結構!!」


…まぁ、若干慣れない『人』もいるんだけどね。


「芹沢さんは?また島原ですか」

「阿呆!いつもいつもわしが島原に行ってると思うなよ!!」


いや、行ってるじゃん。

昨日も一昨日も行ってたの、私は知ってるんだぜ?


「また入隊希望者が来てるからな!!今から道場で沖田が手合わせするのを見にいくんだ!!」

「総司くんが?」


いやはや総司くんが手合わせなんて珍しい。

最近、屯所には壬生浪士組に入隊したいという人があとをたたない。

入隊希望者は一応剣の腕を見るため、井上さんや山南さんなどが手合わせをする。

それを見て近藤さんなり歳さんなりがその人の入隊を決めているみたいだった。


でも…

今日は総司くんが手合わせするなんて……

相手の人はよほど強いのだろうか。

…だって総司くん、あんなにかわいい顔してめちゃくちゃ強いんだよ!

初めて彼が剣を握ったのを見た時。と言っても道場で竹刀だったけど。

一瞬にして場の雰囲気が変わったのがこの私でもわかった。


殺気。

というものはああいうことをいうのだろう。

少しでも動けば殺られる―…


それから私は極力総司くんを怒らせないようにしてます、はい。


「お前も見に行くか!?」

「…行きます!」


私は怖いもの見たさで、一度握った箒をほっぽりだし芹沢さんのあとをついて道場へと向かったのだった。



***



「やぁーー!!」


道場に近付いていくと、中から甲高い声が聞こえてくる。

この声は総司くんだ。


「お邪魔しまぁす…」


芹沢さんのあとからこっそり道場に入る。

中央には面と胴をつけた二人が間合いをとっていた。

凛とした姿勢で、中段の構えをとっているのが総司くん。

そしてもう一人は…


「っ……!!」


…な…なんなのこの人……


ビリビリとした空気が私の全身を包む。

殺気、は…総司くんに向けられているはず…なのに……

動けない……

総司くんとはまた違った殺気……

まるで全身の毛穴から冷や汗が吹き出してしまうような……

面の奥に見えた凍りつくような冷たい瞳は……

紛れも無い。



血に飢えた獣の眼――…



「…あれまぁ…総司が手合わせするっつうからどんな奴かと思って来てみりゃあ……」

「ありゃあ、ただもんじゃねぇな……」

「し、新八さん!左之さん!」


あとから入ってきた二人に正直ホッとした。

だってこのまま張り詰めた殺気の中にいたら、私きっと……


「おう、お前らも来たか」

「土方さん、あいつはいったい何者なんだい?」

「明石浪士だとよ。それしか聞いてねぇが……」


歳さんが竹刀を交える二人を見てふっと不敵な笑みを浮かべ、再び口を開いた。


「ありゃあ…、人殺しの味を知ってることは確かだろうな」

「へぇ~…人殺しの……」


……

………ちょ、待て!

人殺しの味ってなんだよ!!

思わずへぇ~と頷いちゃったじゃないか!!


「そこまで!!よし!合格だ!!」


近藤さんの一言にそいつはピタッと竹刀を止め、ゆっくりと面をとった。

どんな極悪顔をしているのかとその男を食い入るように見ていれば…


!!!


「……ありがとうございます」


め…

め……

めちゃくちゃイケメンやんけ/////!!!

な、なんだよその綺麗な顔は!!犯罪だ犯罪!!!


「…おいおめぇ、口元緩んでんぞ」

「べ、別に緩んでなんか…////!!」


うん、緩んでるぜ私!!

どうしてここにはイケメンが集まってくるのだろうか。この前入隊してきた山崎くんもイケメンだったしなぁ…


そんなことを考えていると、歳さんから盛大なため息が聞こえてきたが、それは気付かなかったことにしておこう。




「して…君の名前はなんと言ったかな」

「…斎藤……斎藤一です」


…――この時。

俺は山口の名を捨てた。その慣れ親しんだ名に、最早未練などない。


もともと俺は江戸の生まれだ。

父は明石の足軽だったが江戸へ出、金の力で御家人の名を買った。

そんな父を俺は心底毛嫌いしていた。


俺は次男だ。

もともと期待もされず奔放に育った俺は、独学で剣の腕を磨き、それなりに汚いこともしながらここまで生きてきた。

…もちろん人を殺めたことも。


俺はこの腕と剣だけで生きていく。

自分の武士道を極めるために。

そして自分の存在意義を世にしらしめるために。

そう決めた矢先、この壬生浪士組の存在を知った。


ここなら…

この壬生浪士組ならきっと俺の……




***



「すごいですね、斎藤くん」

「いや…」

「すごいよ!だって総司くんってめちゃくちゃ強いんだよ!」

「由香さんってば、そんなことないよ////」

「いやいやいや、そんなことあるから!!」

「うるせぇ!とりあえずお前は黙ってろ」


歳さんはそう言って私のおでこに軽くデコピンした。


「った!」

「痛ぇわけねぇだろうが」


ふっと笑う歳さん。

…この笑顔がなぜか私は好きだ。

まぁ、歳さんだけに限らず私はイケメンが好きです。

人間素直に生きなきゃね!えへ。


「ところで斎…はじめくんは何歳なの?」


がっついた私は肉食系丸出しで、隣で左之さんが苦笑いしてたけどそんなこと気にしてられるか。

だってこの時代の楽しみと言ったら酒とイケメンしかないんだもの。


「俺は数えで20だ」

「………」


その場にいた者すべてが驚愕のあまり閉口した。

あの芹沢さんでさえ、だ。


「に…、20だと!!?」


と同時に皆がどよめきにも似た驚きの声をあげる。


「20っつったら平助と一緒じゃねぇかよ!」

「な、なんなんだこの違いは…!!」

「へぇ~…あ、そう…20ね……」


立ち上がりかけたフラグが折れたよ、えぇ、根元からポッキリとな。

年上好きの私。いくら2歳しか変わらないとは言え、年下はお断りだわ。


あからさまにガックリした私の背中に芹沢さんが「だから俺にしておけ!!」と戯れ事を投げ掛けてきた。うるさい、うるさいよ。

私、年上好きだが親父には興味ありませんから!残念!!


そんな私に視線を流したはじめくんと目が合う。

何を考えてるかわからない冷たい瞳に思わずドキリとした。


あぁ…と、年下でもいいかな…/////

お姉さん、ドキドキしちゃうよ…/////


「さ、次の入隊希望者は誰だ!!」

「大垣脱藩、島田魁です!よろしくお願いします!!」

「……でけぇ図体だな。新八、おめぇ手合わせしろ」

「はぁー!?なんで俺!?」


また新たに浪士組に仲間が増えた。


そっと汗を拭ったはじめくんに思わず抱き着きたくなった桜舞い散る文久3年4月の出来事でした。


この後も続々と隊士が増え続けます。


島田魁は塀の上から永倉新八を片腕だけで引き上げた怪力の持ち主。

というのは有名な話。

斎藤一については出自に不明点が多いらしいです。

試衛館に出入りしてたという話もあるみたいです←永倉翁談


ちなみに斎藤一だといってよく出回ってる写真は息子さんらしいですよ。

本物の斎藤一の写真は西南戦争時の集合写真の物が本物らしいです。


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