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第四十五話 世の中は理解し難いことばかり



……ん

…おも、い……


……もしかして…金、縛り?


息苦しさを覚え、徐々に意識がはっきりしてくる。


ど、どうしようどうしよう

お岩さんが『いちま~い、にま~い』って皿割ってたらどうしよう。

落武者が髪の毛振り回してたらどうしよう。

……こぇぇぇ!!!

あああ、でも目を開けなきゃ!いつまでもこのままでいるわけにはいかない!


意を決して恐る恐る目を開ける。


目の前にいたのは……

……

………

…………


「…ぎゃあぁぁぁ!!!」

「おまっ、もっと可愛いげのある声で叫んだらどうだ!?」

「た、高杉さんんんんん!?」


なんで!?なんで!?なんで高杉さんが私の上に乗ってるの!?夕べ一緒に寝たっけ!?

つうか裸じゃないよね!?入ってないよね!?穴無事だよね!?


高杉さんを押し退け着物を確認すれば、当の高杉さんはニヤリと笑った。


「残念だが抱いてないぞ!!」

「何が残念なんですか!!もう!」

「ハハハッ!そう怒るな!!ま、いい感じのはだけ具合に少し勃ちかかったけどな!!」

「いや、そこは全部勃ってくださいよ!」


そう言えば高杉さんは声を出して笑った。

いや、笑い事じゃないですからマジで!

もうなんなんだこの人は!言動がまったく読めねぇぞおい。


「んで、どうしたんですか。朝から可憐な乙女の上なんかに乗って」

「可憐?くくっ、お前がか!?」

「ええと、刀借りていいですか」

「悪かった悪かった!!」


全然そんなこと思ってねーでしょ。

だって楽しそうに笑ってるもんね!コラ!


「で?なんすか本当に」

「あれだ、夕べお前に名前聞くの忘れてな!」

「へ…名前?」


そうだ。そういえば私、自己紹介してねーや。言うタイミングがなくてすっかり忘れてたよ。

つか高杉さんも名前も知らない女をよく泊めてくれたなぁ…

そこはだいぶ感謝だ。


「あ、申し遅れました。私、野村由香と言います」

「野村由香、か。顔に似合わずいい名前だな!」

「こら!てか高杉さん。もしかして名前を聞くためだけに夜這いもどきに来たんですか」

「夜這いもどきとは失礼な奴だな!もうすぐ朝餉だからな、一緒に食おうと思って起こしにきてやったんだ!」

「あさ、げ」


高杉さんとの会話に夢中になってて気付かなかったけど、辺りはもうだいぶ明るくなってきていた。

あれだけ色々あったからよく眠れないかなと思ってたけど、そこは人間の性。精神的にも身体的にも疲れが勝ったらしく熟睡しちゃってたみたいだ。


「ほら!さっさと支度しろ!今日はお前に一日付き合ってもらうからな!飯食ったら出掛けるぞ!!」

「出掛ける?ってどこへ…」

「いいから早くしろ!」


ニカッと笑った高杉さん。

……むむむ、八重歯が素敵じゃないか。


「ちょ、着替えるんで出てってもらえます?」

「なにを恥じらうことがある!未来の愛人だぞ俺は!!」


もうね、破天荒さんは話すだけで大変です。

無言で肩パンしたら、高杉さんは「先…行ってるな…」と、部屋を出て行きました、はい。




***



「しかしここ、広いお屋敷の割には人がほとんどいませんね」

「おお!ぼぼばびばぼ…」

「あ、すみません。飲み込んでからでいいです」


口いっぱいに御飯を入れた高杉さんの言葉は理解不能だったので慌てて謝る。


…本当にこのお屋敷は人が少ない。これだけ広いのに、この朝ごはんを食べている広間にたどり着くまでの間、出会った人は片手で数えるほどだった。

今も20畳くらいありそうな広間に私と高杉さんの二人きり。

今までは屯所で若者溢れる中で食べてたからなんだか違和感がある。


「少し前に起きた政変のせいでな、ここの奴らはほとんどが長州に下京させられたんだ」


お茶で御飯を流し込んだ高杉さんが口を開く。


「政変、」


…知ってる。先月、だっただろうか。長州藩の人達が過激すぎるからって無理矢理京都から追い出しちゃったんだよね。

歳さん達皆も、警備に行ったからよく覚えてる。

それに…歳さんと結ばれたのもその日、だったから。


「だから今ここにいるのは京にとどまってもいいと許可が降りている数人だけだ。あ、俺は脱藩だがな」

「そうなんですか…」

「でもな、いずれ幕府は滅びる!!」

「え?」

「俺様率いる長州が必ず潰してやる!!」

「………」

「平らで幸せな世にするためにな!!」

「平らで…幸せ、な…」


……平助が。おんなじこと言ってた。

誰もが笑って、誰もが幸せなそんな世の中にしたいって。だから俺は刀を振るうんだって。


「だから俺は戦う!!」


高杉さんはそう言ってお膳の御飯をかきこむとすくっと立ち上がった。


「さぁ!出掛けるぞ!!」

「え!ちょ、ちょっと待っ…」


私のお膳には最後に食べようと思っていただし巻き卵がまだ残っている。

が、そんなのお構い無しに高杉さんは私の腕を引っ張り立ち上がらせると、そのだし巻き卵をなんと自分の口に放り込み、スタスタと歩き始めた。


……え?え?なに?なんなの?これ、罰ゲームなの?ねぇ?


「ちょっ!たま、たまごぉぉぉ!!」

「卵は俺の大好物だ!!」


知らねーよ!そんなの!!


ちょっと泣きそうになった。



***



「あ~あ…私のたまご…」

「すまんすまん!!てっきり嫌いなんだと思ってな!!」

「私は好きなものは最後にとっておくタイプなんですっ!!」

「たいぷ!?たいぷってなんだ!?」


…はぁぁぁ

高杉さんと話すと疲れる……


藩邸を飛び出した私達は市中に来ていた。

何をするのかと聞けば、ただ店を見ながら市中をぶらつくとのこと。

いわゆるウィンドウショッピングってやつですな。

でも…本当はあんまり市中は歩きたくない。新選組の皆にいつ出くわすかわからないから。

巡察はもちろん、非番の人達に出くわす可能性だってある。羽織を着てなきゃ平隊士なんてわかりゃしないから逃げようもない。

どうしよう。大丈夫、かな…


「ん!?その簪…」

「え?…あぁ、これですか」


無造作にまとめあげられたおだんごにささっているのは、楠くんから貰ったあの水色の簪。

つけようかどうか迷ったけど、これをつけてれば笑顔でいられる気がする。そう思ってつけた。

笑顔を忘れないって…楠くんとの約束だもんね!


「これは大切な友達から貰ったんです」


ニコリと笑えば、高杉さんは少し驚いた顔を見せ、そして笑った。


「そうか!お前によく似合ってる!!綺麗だ!!」


……高杉さんてば。

さっきは話すと疲れるとか思ってごめんね。そんな素直な高杉さん、ちょっとだけ好きだよ////!


「おい!勘違いするな!俺は簪が綺麗だと言ったんだ!!」


少し顔を赤らめれば、すぐさま否定の言葉が飛んできた。

……前言撤回。

だけどこんなノリの高杉さん、嫌いではない。むしろ好きだ。まぁ、男としては見れないけど。しかし高杉さん、頭の回転も速いしなにげイケメンでモテるんだろうけど、これじゃいつまでたっても結婚なんかできないだろう。

そう思って親切心から「高杉さん、もう少し女心をわからないといつまでも結婚出来ませんよ」と言えば、驚く言葉が返ってきた。


「なに言ってるんだ!俺様はもう結婚してるぞ!!」


………え?今なんと?


驚きを隠せない私に、高杉さんはさらに追い討ちの言葉をかけた。


「嫁だけじゃない、妾もいるぞ!!どうだ、お前も俺の妾になるか!?」

「………えぇぇぇぇ!!?」


世の中は理解し難い事ばかりだ。



***



結局、新選組に出くわすこともなく私と高杉さんのデートは無事終わった。

これといって特別なことはしなかったけど、甘味屋でお団子食べたり、小間物屋を覗いてみたり。

すごく気分転換になった。

そういえばこんなに一日中はしゃいだのはすごく久しぶりかもしれない。

ありがとう、高杉さん。


…しかし高杉さんが既婚者だっていうのは心底驚いた。まぁ、この時代は結婚する年齢も早いみたいだし、男がお妾さんを持つのも珍しいことではない。芹沢さんだって水戸に妻子がいるくせにお梅さんがいたし、近藤さんも江戸に妻子がいるのにお妾さんがいっぱいいるらしい。

奥さんは切ねーだろーな…

でも、ま、イケメンを旦那に持つ宿命なのかもな。頑張れ奥さん!超頑張れ!!



…さて。そろそろ寝るとするか!


布団を被り直せば襖が躊躇なくスパン!と開いた。


「おい!由香!!今から晩酌するぞ!!」


…やっぱり破天荒は疲れる。



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