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第二十話 堂々たる壬生浪の頭



屯所を出て、御所までの道程を士気を高めなが歩いていく。

幹部をはじめ、平隊士からも緊張感がひしひしと伝わってきやがる。

あたりめぇか…

壬生浪士組……

また、武士としての初めてのでけぇ出陣だ。


歩きながらのぼりはじめた朝日に目をこらす。


…なんとしてでも……

今回の出陣で今まで重ねてきちまった悪名を取っ払わなきゃなんねぇ。

この朝日のように…

俺らも世間にこの名を知らしめ、のぼりつめてやるんだ!


俺は今一度鉢金をきつく締め直し、御所へと向かうその足どりを早めたのであった。



***



最近の長州藩の尊王攘夷急進派の動きには目にあまるものがあるらしい。

一説によると、幕府を通り越して天子様の実権で攘夷を行おうなんてたいそれた考えの人も出てきたみたいだ。

でも、会津をはじめ、薩摩やらの公武合体派はそれをよく思ってなくて。

今回、…えぇと、誰だっけ……?

中川宮朝彦親王…だっけ?

その人の力を借りて天子様に長州排除の同意を得たとかで……

今日は僕達も長州藩"締め出し"のお手伝いをしに、御所の蛤御門を目指しているわけだけど……


…正直。

僕には攘夷だの公武合体だの、全然興味がないんだよね。

近藤さんやら歳三さんからは、もっと勉強しろって言われるんだけど。

そんなことを勉強するより、歳三さんと由香さんの微妙な恋の行方を見守ってる方がすごく楽しいんだけどね?

……って言ったら歳三さんはどんな顔をするかなぁ?


真っ赤になって目を吊り上げる歳三さんの顔を思い浮かべ、思わずフフッと笑みを零す。


「おい、総司。もうすぐ蛤御門が見えてくる。気を引き締めろよ」

「承知」


ま、なんにせよ僕は近藤さんのために。歳三さんのために。

この身を捧げて剣を振るうだけだ。





そして…

俺達の視界に蛤御門が見えてきた。

門の前には甲冑を身に纏った奴らがうじゃうじゃといやがる。

一歩一歩近付くたび、周囲のざわめきやピリピリとした緊張感がこの壬生浪士組にも伝わってきた。


その雰囲気に、自然とこちらの背筋もシャンとするんだから不思議なもんだぜ…


どうやら俺達の到着が遅かったようで、すでに蛤御門はどこかの藩にしっかりと警備されているようだ。


「トシ。いいか。これが壬生浪士組にとって初めての名誉ある出陣だ。武士としての誇りをしっかりと持てよ」

「ああ」


一行がやっと蛤御門の前にさしかかった時。

先頭にいる近藤さんに向かって四方から何本もの槍が突き出された。


「!!」

「貴様らっ!!何者じゃっ!!」

「名を名乗れぃ!!」

「ッ…!ま、待て…!!」


辺りには怒声が響き渡り、先頭にいた俺達は、ついその雰囲気に飲み込まれてしまう。

すると……


「静まれ、静まれ!!」


居丈高な声が背後から近付いてくる。


「やぁやぁ、甲冑厳めしい皆さん」

「芹沢先生…!」


御門固めの槍先についたじろいだ近藤さんの前に、いつもと変わらず、平然とした態度の芹沢さんがズイッと踊り出た。


「貴様らは何者だ!」

「拙者どもは会津侯お預かりの壬生浪士組なり。無礼して後悔あるな」

「壬生…浪士組…!」

「公用方よりの急達により、お花畑までまかり通る!引かれよ!!」


芹沢さんはそう言って、鼻先のそばまで突き出ている槍の穂先を見て鼻で笑うと、腰に差してあったあの鉄扇を出し、ぱっと開いてこれを扇ぎ立てた。


こ、の人は…!

御門固めの藩士達だけじゃねぇ…

近藤さんも…

総司も……

そしてこの俺までもが…

芹沢さんのこの剣幕に飲み込まれちまってる……


はっ…!

さすがは水戸天狗党以来の場数を踏んだ、勇気凛々たる立派な有様ってわけか…!


俺は胸中に、嫉妬にも似た武者震いが生じたのを感じた。


「これはこれは!芹沢先生!!拙者の落ち度でご無礼つかまつりました!どうぞ、お通りくだされ!」


この男は確か野村という…


騒ぎを嗅ぎ付けて飛んできたのか、御門の中から公用方の野村という男がひょこりと顔をだした。


「野村殿。では案内頼み申す」


周りの自分に一目置く雰囲気に気をよくしたのか、芹沢さんはフンと鼻を鳴らすと、堂々とした態度で蛤御門をくぐり抜けた。


そうして俺達、壬生浪士組はお花畑を固めることとなったのだが…

事態は長引くかとも思われたが、あっさりと、封鎖された御所内の朝議で尊攘急進派公家の参内と、長州藩の御所警備の解任が決定される。

長州は意外にも頭のいい奴が揃っているようだ。

御所、という場所柄もあったのだろう。

不平連も手を出してくることはなく、一度は陰の実権を握ったであろう長州藩の面々は、夕刻には静かに妙法院へと引き揚げていったのであった。


「なんだ!長州は口ほどでもなかったな!!」


真っ赤に染まり始めた景色の中。

唇を噛み締めながら引き揚げていく長州藩士達に向かって吐いた芹沢さんの暴言とも取れる言葉が…

妙に俺の心に焼き付いた。





かの有名な八月十八日の大政変。


これからしばらく長州の暗黒時代が続きます。


この時に、三条実美、三条西季知、四条隆謌、東久世通禧、壬生基修、錦小路頼徳、沢宣嘉の七卿も長州藩と行動を共にし、妙法院に入り、更に雨の降る中を京を落ち延びて大和の十津川に入ったのは有名な話。


七卿を守って歩いた長州の久坂玄瑞。

彼の胸中は何を思ったか。


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