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第十三話 溢れ始めた気持ち


道場への道のりをとてとて歩く。

左之さん、いるかなぁ…なんて思いながらふと空を見上げる。


…さっき歳さんに掴まれた肩がなんだか熱い。

歳さん…いろんな女をあぁやって押し倒したりしてんのかな…

そう思ったらなんだか胸まで痛くなってくる。

……くそぉ。


私は胸底で溢れ出る気持ちに気付かないふりをし、頭をブンブンと振った。



「由香?何やってんだ?」


そんな私に突然、背後からかけられる聞き覚えのある声。

この声は…と、思わず動きを止める。


「左之さん!遊ぼ!!」


満面の笑みで後ろを振り返ると、そこにはやはり左之さんの姿。と、想定外の平隊士の姿。

あ、やべ…平隊士が……


左之さんは引き攣る私を見て、苦笑いをこぼした。


「どうした?暇なのか?」

「あ…はい……ちょっとだけ」


へへ…と笑ってごまかすと、平隊士と目が合った。

……あれ?この人、どこかで……

思わず首を傾げる。

するとその人はフワリと優しく笑い…


「こんにちは、由香さん」

「あ……楠、くん?」


私がそう問い掛けると、またフワリと笑った。


「…なんだ?お前ら知り合いか?」

「あ…この前の角屋の時にちょっとだけ……」

「あぁ。お前と土方さんが逢引きしてた時な」

「違うっつの////!!」


私が土方さんのことを好きだと思いこんでる左之さんと新八さんは、こうして私のことをよくからかうようになった。

こういう言動が私の気持ちを後押ししてるんだからたまったもんじゃない。


「左之さんは…楠くんと知り合いなんですか?」

「知り合いっていうか…まぁ、こいつが入隊した時に手合わせしたのが俺だしな。その流れで毎日稽古つけてやってんだ。な!」

「はい!」


楠くんの頭をわしゃわしゃと撫でる左之さんは、まるでお兄ちゃんのようで、楠くんを弟のように思ってるのかもしれないなぁ…なんてことが容易に想像できた。


「んじゃ、休憩もかねて皆で縁側で茶でも飲むか?」

「はい!!」

「あの…じゃあ、僕はこれで…」


そう言いながら踵を返そうとした楠くんに左之さんは笑いかける。


「ばーか。お前も一緒に、だ」


左之さんのその一言に、楠くんは一瞬、驚いたような顔を見せたが、すぐ嬉しそうに「はい!」と返事をした。


さすが左之さん!なんだかやることなすことカッコイイぜ!

そう思いながら私は「お茶の用意してきます!」と勝手場へと走りだしたのだった。


「転ぶなよ~」


優しい気遣いが背中を追い掛けてきた。

……もしかしなくても、左之さんが壬生浪士組一番のPーBOYなのかもしれない。





いそいそとお茶の準備を済ませ、縁側へと急ぐ。

角を曲がると、左之さんと楠くんは庭に下り立ち、槍を振っていた。


「もっと脇を閉めて…」


指導している左之さんの声が聞こえる。

左之さんは正直、刀では総司くんやはじめくんからはだいぶ引けをとる。

だけど槍に至っては浪士組随一の腕前と言われ、皆からは一目置かれていた。

そんな左之さんから槍の指導を受け、楠くんもなんだか生き生きしているようだ。


「お待たせしました!大福もあったので持ってきましたよ」


私は縁側に腰を下ろし、コポコポとお茶を煎れたはじめた。


「おぉ。悪いな」

「僕、大福大好きなんです!」


フワリとした笑顔を見せる楠くん。

こ…こいつ…

角屋の時も思ったけど、めっちゃかわいいわ…/////


「く、楠くん////お姉さんの大福もあげようか?」


なんて赤い顔でボソリと呟くと、ペシッと左之さんにデコピンをくらった。


「った…」

「土方さんに怒られるぞ。あの人、ああ見えてヤキモチ妬きだからな」

「だからなんで歳さん////!!」


そんな私と左之さんを見て、楠くんは大福を頬張りながらフフッと笑った。

…が、しかし。


「…誰がヤキモチ妬きだって?」

「「「!!!」」」


突如、私達のほんわか和やかなムードをぶち壊す冷たい声が私達の背後から聞こえた。

ああ…もしかしなくともこの声は…


「随分と楽しそうだなぁ、おい」

「歳さん!!」


私は驚愕の声をあげ、左之さんは「やべぇ…」と言わんばかりに溜息をつき、楠くんにいたっては、大福を喉に詰まらせかけていた。

なんだなんだ、このすばらしいタイミングは。


「左之。ちょっといいか」


そんな私達にお構いなく、歳さんは神妙な面持ちで左之さんの肩を叩いた。


「どうしたんだ?土方さん。」


その雰囲気を察したのか、左之さんは真剣な顔で歳さんに問い掛ける。


「芹沢さんらが角力取と揉めたらしい」

「角力取と!?」

「あぁ。斬ったのは5人。手負い16人だと。今近藤さんから文が届いた」

「はぁ…あの人はなぁ……」


左之さんは溜息をつくと額に手をかざした。


斬った…って……

この時代は…というか、壬生浪士組ではこんな会話、日常ざらだ。

今日はどこどこの辻で不逞浪士を何人斬ったとか、どこどこの橋で浪士と斬りあいになったとか……

最初はこういう会話にいちいち驚いていたけれど、今は、ふ~ん…と冷静に聞いている自分がいた。

こんなことに慣れてしまっている自分に嫌気がさすことも多々ある。

こんな時代だから仕方ない。

仕方ないことだけど…

はたしてその一言で済ませていいのだろうか。


私は二人の会話をボーッとしながら聞いていたのだった。



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