噂
アル湖行った日以来アルフレッドは、朝食、夕食の時間以外は執務室で過ごすようになった。
「アルフレッド様、執務室は寝る部屋ではありませんよ。」
従者のクロードは、アルフレッドが一番言われたくない事をやんわりと言った。
「仕事が溜まっているんだ。」
「そうですか、来月で間に合う仕事をされる前に、やることがあると思いますがね。」
やれやれといった雰囲気でクロードにそう言った。アルフレッドは居心地が悪くなり、仕事の手を休め紅茶に手を延ばした。
「やる事ってなんだよ。」
「子作り。」
アルフレッドが口に含んでいた紅茶をふき出した。クロードはすぐに汚れては困る書類を確保した。
「汚いですよ。」
「お前が変な事言うからだろう!!」
アルフレッドは、汚れた服や机を拭いながら言い返した。
「変な事ではありませんよ。仲の良さをアピールするには一番でしょう。」
「まだ、籍も入れていない状態だぞ!!」
「もうすぐ籍を入れるのですから大丈夫ですよ。」
クロードはニコニコと言う。アルフレッドは、何も言う事も出来なくなってしまった。
「変な噂も出て来ていることですし、そろそろ本気でなんとかした方が良いと思うのですがね。」
クロードは笑うのを止め真剣に話したが、アルフレッドの耳には入らなかった。
今日も元気にルナがトマト畑で雑草抜きをしていると、どこからか女性の声が聞こえてきた。
「アルフレッド様のお噂聞いている?」
ルナは、アルフレッドと言う単語に驚き手を止めて立ち上がった。
「あれでしょう。寵姫が出来たって話よね。」
「それこそ、凄い溺愛っぷりのようよ。毎夜抜けだして、通っているって。」
「まあ、婚約者様はこちらに来て日も浅いのに、お可哀そうね。」
ルナは立ち尽くして、噂をしている人たちの後ろ姿を見送った。皆さん、とても奇麗な洋服で華やかな雰囲気が漂っている。
自分の手の中にある雑草を見てルナはなんだか笑いが込み上げてきた。
最近、アルフレッドに会えるのは、朝食と夕食の時だけになっていた。執務室に行くという言葉を聞いていたのでとても忙しいのだと思っていた。
少し考えれば、他の女性のところに通っていると分かる事なのになんで何も考えなかったのだろう。
アルフレッドが、初日に男をあてがうと言っていた事を思い出した。私を抱くという考えもないのだろう。
まだ、雑草を抜き切っていない畑を見て、やらなくてはと屈んだ。雑草を抜いくと、地面に点々と水跡が出来ていく。
目の前が曇りながらも、ルナは黙々と雑草を抜いていく。
---両国関係改善のために頑張らなきゃ…ううん、違う。私は、アルフレッド様の為に頑張りたいんだ…私はアルフレッド様が好きなんだ…
ルナは、自分の気持ちに気がつき余計に涙があふれてきてしまった。それでも、手は止めず雑草を抜いていく。
朝、いつもより少し早く起きたアルフレッドは少しゆっくり歩きながら後宮に向かっていった。
歩いていると、リアカーに花をつんで運んでいるルナの姿が見えた。話しかけようと、少し足を速めたがルナは後宮に入っていってしまった。
朝食の時、ルナが朝なにをしていたのか聞こうと話しかけた。
「ルナ。」
「どうかされましたか?」
久しぶりにルナの声を聞き、しっかりと顔を見たのでドキッとした。クロードの子作りという言葉が急に頭によぎり顔が赤く染まった。
「いや、なんでもない。」
アルフレッドは、すぐさま料理に目をうつし話をやめた。