初日
ルナは、カータス国の王宮前に着いた。何度か入ったこともあるが今回は、今までとは全く違う気分である。なぜなら、侍女のキャシーと二人きりで、これからはここが自分の家となるのだから。
門番のような人に案内されながら、煌びやかな王宮を横目に、全く見たことのない景色を進んでいく。今までは、行った事のなかった(行くはずもなかった)後宮へと向かっているのであろう。
花の香りがただよってきて、噴水なども見えて来た。いよいよ後宮なのだ。ルナは少し、キャシーの方を見た。
キャシーは姉のようにずっと慕ってきた大切な存在だ。今回、カータス国に嫁ぐと決めた時も迷うことなくついていくと言ってくれた。
キャシーはルナを見て頬笑みかけてくれた。ルナは気を引き締め直し後宮を見据えた。すると、後宮の前にはスマートなおじ様が立っていた。
「始めまして、ルナ様。後宮で執事を務めさせて頂いております、カロル・ミルフォードでございます。どうか、中にお入り下さいませ」
扉を開けると多くの使用人の人々が、迎えてくれた。そのなかに、アルフレッドの姿も見えた。
「ルゥ!!本当に、よく来てくれた。はやく君と話をしたい。部屋へ向かおう。」
この間のアルフレッドの態度との変化に驚いていると、手を取られ、後宮内を進んでいった。
「ここが僕達の部屋だよ。さあ、入ろう。」
中に入った瞬間、こないだと同じようにアルフレッドの顔から笑顔が消えた。
「お前が、結婚を選んでくれて良かった。ありがとう。」
「いえ、それより、さきほどのルゥというのは?」
「ああ、俺は国民には人気があるからな、俺の寵愛なら反逆心も生まれにくくなるだろう。この間のパーティで、俺が一目惚れし、お互いに思い合っているという設定だ。これから俺たちは仲むつまじい婚約者を演じる。人前では俺の事は、アルとでも呼べ。」
「わかりました。」
「今は婚約状態だが、お前が落ち着いた頃にでも正式に籍を入れよう。その時、国民にお披露目の場を設けて仲の良さをアピールする予定だ。」
自分の身の安全のためにそんな事をしてくれるとは思ってもみなかったので、ルナは少し嬉しくなった。
「ところで、他に男つくりたいとか思うなよ、お前が遊んでると知れば反対派の感情を煽ることになる。」
「他の人となんて考えておりません!」
口は悪いけど優しい方なのかと思っていたのに、急に無礼なことを言われルナは語尾が強くなってしまった。
「それは良かった。だが、その欲求を俺ではらそうとしないでくれ。困ったら、それ用に男を用意するから言ってくれ。」
「なんてことを!!」
ルナは今度こそ、声を荒げてしまった。この人は、国交改善へ努力する素晴らしい王子かもしれないが、本当に失礼極まりないデリカシーゼロ男だわ!
「そうか?人間の本能だろ。俺は、今から仕事に言ってくるから、執事にお前の教育係を任せてある、家のことでも聞いておいてくれ。」
ルナは、キャシーに大丈夫ですかと話しかけられるまで、ぼーっと立ちつくしてしまっていた。
「政略があっての婚約だし、そんなロマンを求めていたわけではないけど、まさか初日に、他の男をあてがうなんて言われるとは思ってもみなかったわ!」
「あんな言い方はあんまりです!!今すぐにレイルン国に帰りましょう!!」
「あっいいえ、少し腹がたったのは本当だけど、この婚約を無しにする気はないわ。何も出来ずに関係が悪化するのをみているだけより、あの人の話にのってみたいと思ったの」
「ルナ様がそう言われるのでしたら…ですが、」
キャシーが少しうなだれたが、すぐに顔をあげ拳を強く握った。
「辛くなったらすぐにお伝え下さい!!なにがあっても、ルナ様をレイルン国まで連れて帰ります!!」
「キャシー…貴方が一緒にきてくれて本当に嬉しいわ…ありがとう!でも、そうならないように頑張るわね!!」