内職
カロルの講義が早く終わったある日の午前、キャシーや若い侍女さん達が集まっているのを見かけた。
この時間は休憩のはずなのに何か作業している彼女達が気になり、ルナは声をかけてみることにした。
「休憩中なのに何してるの?」
ルナの問いかけにキャシーが振り返り答えた。
「内職ですわ。この国の若い女性は花嫁修業も兼ねて刺繍をするそうです。」
「お金がもらえるの?それに面白そう、私も混ぜて!」
「まさか、ルナ様にさせるわけには…」
そう反応してくれたのは、キャシーより少し若く、最年少の侍女リリィであった。
「良いの!だって、花嫁修業なのでしょう。私も修業しなくっちゃ!」
そう言って笑いかけると、侍女さん達の空気が少し緩んだ。
「それに、侍女さん達とお話してみたいと思っていたの。今日はここで一緒にやらせてもらえないかしら?」
侍女たちは、キャシーの方を向き反応を伺っている。
「こうなったルナ様は頑固ですから、何を言っても無駄です。」
「ちょっとキャシー失礼よーまあ、その通りですけど…」
ルナは一つ空いている席に座り、刺繍の仕方を聞いてどんどん手を動かしていった。
「ルナ様お上手ですね。」
リリィが驚いたように声をかけてくれた。
「手先が器用なのが自慢なの!」
褒められたことが嬉しく、ルナは笑顔になった。
---調度品の選定やリメイクもほぼ終わりかけていたところだったし、これからは、午後を刺繍の時間にあてて内職代を稼ぐわ!!
そこまで考えて、ルナは自分のことしか考えてないことに気が付いた。後宮全体をよくしていくのも正室(予定)の役目だ。
そこで、良い機会なので侍女さん達に質問をしてみる事にした。
「何か、困っていることとかないかしら?」
「そうですねーあっ後宮内の花を依頼していた業者さんがお辞めになるらしく、新しい所を探しているのですが、前の業者さんより高い所しかないのですよね。でも、後宮内に入るのですから、信頼出来る業者さんじゃなきゃいけませんし。」
その話を聞きルナは、初日に庭師のダリウスが摘んだ花を捨てている話を思い出した。
「じゃあ、私が、朝花を摘んで、各箇所に飾るのはどうかしら。」
「設置箇所はたくさんありますし、まさかルナ様にそんなことさせられません!」
「朝の散歩感覚よ。この間、ダリウスさんも本当は摘んで後宮で飾って欲しいって言ってたし!」
また侍女たちは、キャシーの方を見た。キャシーは諦めたような表情でお手上げというポーズをとった。
「こうなったルナ様は止められません。」
「ちょっと、午後にでもダリウスさんに聞いてくるわね!」
昼食後ルナは宣言通り庭に向かった。花の手入れをしているダリウスを発見し、ルナは話しかけた。
「ダリウスさん、後宮に花を飾りたいの。摘む花の見分け方を教えて頂けないかしら。」
「それは、かまいませんが、ルナ様が花を摘まれるのですか?」
「はい!朝の日課にすることにしました。」
とても、楽しそうに語るルナの姿を見て、止めるのも野暮だなと考えたダリウスは出来るだけ、負担がかからない方法を考えた。
「では、摘む花の選定は実際に見て頂いた方が分かりやすいので、一緒に来て下さい。また、後宮に飾るのでしたら、量が多くなりますので、後でリアカーなどの場所もお伝えしますね。」
「なにからなにまでありがとうございます!」
ルナは礼を言って、ダリウスの後をついていく。すると、さら地が目についた。
「ダリウスさん、あそこは何か植えたりはされないのですか?」
「あそこは、元農園だったのです。でも、出来た野菜の処理も人手も必要という事でやめてしまったのです。」
「とれたての野菜が食べられるなんて素敵なのに…」
「そうですね、いつかまたつくったら食べて頂けますか。」
「もちろん!おいしく頂くわ!!」
そんな話し合いをしながら、花の摘み方や、リヤカーの場所を教えてもらった。