自己紹介
叔父はギロリとオレをにらみつけ、そして頭のさきからつま先までをまるで品定めするかのように目視した。オレは物扱いか。
「お久しぶりです、洋介叔父さん。これからお世話になります。」
オレが真顔でセリフを棒読みすると、
叔父は、
「入学おめでとう、いろは。」
と全くおめでたくない顔で言った。
「大事な話がある。放課後に理事室に来なさい。」
低くて野太い声。不満そうな顔。断ることが許されないのはもちろんわかっている。彩源高校に入学した今、理事長である叔父さんに反抗することは退学を意味する
だろう。でも………
…行きたくねえ!
どうしよう。マジで行きたくない。行ったら死にそう。でも行かなかったら殺されそう。やばい、断りたい。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
「どうした?来れないのか?」
…………
「…行かせていただきます。」
あーあ。最悪だ。
外は雨がぽつぽつ降っている。入学式だっていうのに。
今は担任があいさつしてくれているのだが、全く頭に入ってこない。ごめんネ先生。
オレのテンションがこんなに下がってるのはもちろん叔父のせいだ。
このホームルームの時間が終わったら理事室に行かないといけない。
しかも、さっき叔父と廊下で話したせいでオレが叔父の親戚だとばれて、なんかクラスメイトにめっちゃにらまれるし。
最悪だ。もうオレの高校生活は終わりだ。
きっとこれからいろんな先生に望みもしないひいきをされて、クラスの皆に嫌われるんだろう。
てゆーかすでに担任がこっち向いてめっちゃ笑顔で話してるし。やめてくれ。
「じゃあ、自己紹介でもしてもらおうかな。」
担任が笑顔で言った。
クラスの反応はさまざま。あからさまに嫌な顔をしている奴や、もう何を言うか決めてそうな奴もいる。
「出席番号順にしようか。相沢から。」
一番端の奴が起立した。
「東第2中から受験しました、相沢はるきです。相沢とか、はるってよばれてました。模写が得意です。よろしく。」
相沢はそういうと静かに席についた。一発目にふさわしいはっきりとした言い方だ。こいつは人気ものになりそうだな。
オレはなんて言おう。なんでもいいか。
ぼーっときいていると、すぐにオレの番がきた。担任がらんらんとした目で見てくる。マジでヤメテー。
オレはゆっくり席を立った。クラスメイトの好奇の視線が突き刺さる。ひそひそ話してる声が聞こえる。
「なぁ、あいつって理事長の息子なんだろ?」
「さっき理事長としゃべってたしな。いいなぁ、ひいきされるんだろうな。」
「もうすでに水谷先生が斉本にたいして笑顔すぎるもんな。」
このクラスの担任、水谷っていうらしい。ひそひそ話はまだ続く。
「なんかこれからのこと考えたらめっちゃムカついてきた。あいつめっちゃえらそうな態度で命令してきそう。」
「あー、それはうざいな。」
お前らそれオレのこと言ってんのか。想像力豊かすぎるだろ。まぁ芸術家には必要ですけど。(オレにはないな)
「あの…斉本?」
担任が心配そうな顔をしてこっちをみていた。
席を立ったまま何も言わずにいたからだ。
「あぁ、すんません。」
一応あやまった。けど何話そうかな。
ちらっとさっきオレの悪口を言ってたやつらの方をみる。
……めっちゃにらんでるーー!
「さっさと言えよ。あとがつかえてんだよ。」
………
「斉本いろは、東第4中から来ました。この学校の理事長の息子ではありません。甥です。ひいきされるつもりもないし(てゆーかされたくもない)、あんたたちに偉そうに命令するつもりもない。そういうことだから、水谷先生、オレにむかって笑顔はやめてください。誤解されるんで。あと、オレは絵がへただ。よろぉしく。」
やばい、勢いあまって舌まわしてもうた。なんだよ「よろぉしく」って。
「……」
オレが席に座ると周囲の時間が止まっていた。ようにオレにはみえた。
先生は口を開けてアホずら。クラスメイトたちもそんな感じ。
オレの悪口を言ってた奴らは目を見開いて「!」の顔。
いい気味だ。
「斉本!斉本いろは!」
「…ん?」
名前を呼ばれて頭をおこす。
寝てしまっていたようだ。ちょっと気が抜けすぎた。
ところで誰がオレを起こしたんだ?
「斉本?起きた?」
そうそう君だよ君。…ってえぇ?
オレの目の前にいたのはイケメンだった。