プロローグ
そこは真っ白で、広くて。
でもどこか私には窮屈な場所。
真四角なその部屋に不必要なものは無い。
むしろ必要なものも無い。
あるのは、トイレと紙と鉛筆と自分のみ。机もイスも無い。
フローリングでも絨毯でもない白いかたい床。床と同じで石膏でできている白い壁。
そして一つの、鉄格子のはめられた小さな窓。
茶色い木でできたドアが二つ。部屋と廊下をつなぐのと、トイレと部屋をつなぐドア。
新居を見に来たみたいな気分になるが、ここは確かに私の部屋だ。
たった一本の鉛筆には父が書いた私の名前。あの茶色いドアの向こうにも、叔母が作った、
「かなで」とかかれたプレートがさげてある。
ドアのカギは外からかけられ、中からは開けられない。まるで留置場だ。
それでもやっぱりここは私の部屋で、ここで暮らし始めてもう8年ほどたつ。
いつになったら私はここから出れる?
いつになったら約束した彼に会える?
いつになったら、どうすれば。