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人殺の姫  作者: バショウ
8/9

第七話―殺人

山崎一成:28才。先駆者の一人、シーク・ギャレイの弟子。能力は“千里眼”、“上書き”、そして“共感”。覚醒してすぐに、他人の精神を乗っ取り、人を殺した感触をフィードバックさせて楽しんでいた。四年前に他の先駆者に捕まり、以来軟禁状態にある。

ざっと銃の使い方を聞きながら(安全装置を押し、引き金を引く。

簡単だった)、五分ほど歩いたところで、建物の影が見えてきた。

 薄汚れたコンクリートの壁面に、無愛想な鉄製の扉。窓はどこにも見当たらない。

「響?」

これからどうするのか、という意味で問い掛けたが無視するように先へ進んでしまう。

扉の前に立ち、スーツから鍵を取出し、開ける。

「……なんで、響が鍵を持ってるんだ?」


「所長から借りてきたので」


「じゃあなんでアリシァが鍵を……」


「彼女の師が、奴……山崎をここに幽閉したからです」

幽閉? つまり以前から危険視されていたわけだろうか? ――まあ当然か。

自分の意志でこんな山中に住む奴もいないだろうし。

 錆付いた音をたてる扉を開き、堂々と中に入って行く響。

何度か来たことがあるのだろうか? 後に続きながら通路を観察するが、数メートル置きにあるドア以外は、内装までも打ちっぱなしのコンクリートで、まさしく刑務所といった雰囲気で落ち着かない。

 何よりも空気が重く、妙な圧迫感を感じる。

窓が無かったのを思い出し、さらに憂欝になる。

「なあ、響?」

……無言。構わず続ける。

「ここにはその、山崎しかいないのか?」


「何故です?」


「いや、そいつ一人の為にこんな所に収容所? 造ったのか疑問が湧いて」


「……ここの壁、何に見えます?」

……コンクリートじゃないのか? 脇の壁を軽く殴ってみるが、それ以外とは思えない固さと冷たさがある。

「コンクリートだろ」


「表面はそうです。中心には鉛の板を入れています」


「鉛?」

「ええ。先駆者の一人が発見したのですが、鉛には能力を抑える力があるそうで。特にESP系には」

ふむ。

能力者には学者もいるわけか。と、響が質問に答えていないことに気付く。

「つまり?」


「……結構手間がかかっているのですが、山崎の他には誰もいません。ここが造られて以来、能力者は事件を隠すようになりましたので」

――罪と罰。ということか。抑止力としては上等だろう。

「……ここですね」

 そう言って足を止めたのは、通路の真ん中辺りに位置するドアの前。

他のドアと変わらず、武骨な鉄――いや、鉛のドアだ。

「では行きます。会話は必要ありません。標的を見つけ、撃つ。それだけです」

そして俺の了解もとらず、躊躇なくドアを開く。

――狭い部屋。

ベッド、椅子、机以外には何も無い。 何も?

「いない……?」

呆然としたように呟き、構えた銃を下ろす響。

俺もそれにならい構えを解こうとして……アリシァとの初対面を思い出した。 そうだ、あの時も……。

「ここにはいませんね。食堂でしょうか」

 既に緊張感を弛め、訝しげな目を俺に向ける。

 本当にいないのか? 注意深く見渡し…部屋の四隅…椅子…。

ベッドのシーツが微かに動いたような気がした。 反射的に引き金を、引く。

「え?」

と、小さな声を上げる響。

パシっといった音と共に、血が、そして男の体が現れる。

「あ、なんで、お前」

 下腹部から血を溢れさせた山崎が呻く。

病院に行けば助かるかもしれないが……行かせるつもりはない。

そこまで考え、自分の考えに嫌気がさした。

 両腕に残る反動。

硝煙と血の匂い。

ああ、俺は人を殺してしまったのだ……。

 俺と山崎を交互に眺めて、無言で山崎に近づいた響が、額にポイントし、発砲。

再び小さな音が響き、山崎は倒れた。

「殺人を犯したのは私です。……さて、帰りましょうか」




 死体はどうするのか? そんなことを聞く気力も、響の小さな気遣いに感謝する余裕も無く、俺は黙って頷き、収容所を後にした。



 車に乗り込む時に響が呟いた、


「秋人さんのお陰です……、感謝します」


の一言が、やけに耳に残った。

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