第二話―対面
高鳴秋人:主人公。十七歳。合理的な考えを好むが、その時の気分で行動してしまうことが多い。影待雪見とは、中学時代からつきあっている。
翌日、朝起きて俺がしたことは、携帯で雪見に連絡をとることだった。
いつもならもう登校中の時間のハズなのに、さっぱり出る様子が無い。
十コールを数えたあたりで俺はため息をつき、カバンに携帯を放り込む。
まだ決まったわけじゃないさ。
電車にでも乗っているのかもしれないしな……。
気分を変える為に制服に着替え、学校へ向かう。
――結局、影待雪見が午前学校へ来ることはなかった。
昼休みも終わる頃、食堂でイチロウを見つける。
クラスがまったく別の場所にあるので、見つけるまで手間取ってしまった。
「おう、アキヒトか。どうした? 例の仕事なら放課後にでも間に合うって」
楽観的な態度に微かに腹が立つ。
「今日、雪見が学校を休んだ。携帯にも出ない! お前は何でそんなに悠長にしていられるんだ?」
思わず大きくなる声を自覚し、一つ息をつく。
「……俺を所長に会わせろ」
「え?」
予想もしていなかったらしく、目を見開いて驚いたような表情を見せるイチロウ。
「万が一、お前の話が本当だったとして、その所長が雪見を捕まえた後どうする気なのか聞きたい。無理か?」
「無理ってわけじゃ、ないけど、さ」
何を迷うことがあるのか?
「よし、じゃあさっそく予定を聞いてみてくれ。時間が合えば今からでも構わん」
「じゅ、授業に、単位が……」
「知ったことか」
今にも泣きそうな顔で携帯をいじくるイチロウに胸が痛んだが、彼女の方が大事なので気にしない事にした。
――三十分後、俺とイチロウは、『有明探偵事務所』と銘記してあるビルの前にいた。
エレベーターで二階に上がり、目の前のドアをイチロウがノックする。
「どうぞ?」
女性の声。
事務員だろうか? ゆっくりとドアを開けるイチロウに続いて部屋に入る。
予想に反して、部屋は整然と片付いていた。
スチール製のデスクが並ぶ様は、まるでどこかの企業の一室のように見える。
奥にある一際大きなデスクが所長の席だろうか。
何枚かのレポート用紙がまとめてある。
ふと、疑問が湧く。
さっきの返事は誰のものだったんだ? この部屋には、誰もいないじゃないか。イチロウに視線を移し、
「おい、さっきの返事は何だ? ノックに反応する仕掛けでも……」
質問を途中で止めたのは、イチロウが何とも微妙そうな顔で俺の背後を差したからだ。
なんとなく振り向き、目を疑う。
先程目を向けていた所長席に、一人の女性が座っている。
何故。目をそらしたのは、ほんの数秒しか無かったはずだ。 混乱する俺に、彼女は薄く笑いながら口を開いた。
「初めまして、高鳴秋人クン。私はここの所長をしている、アリシァ・フィズと言います」
せいぜい二十歳くらいだろうか……? こんなに若いとは予想外だが、まぁ、いい。
こいつが所長、か。
さて、どうやって情報を聞き出すかな?
俺は、何だか少し楽しくなってきてしまった。