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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
バレリア大陸編
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第99話 ラフト王国を襲う漆黒の弾丸

 ラフト王国、王宮の中央広場に、一人の男が居た。

 漆黒のローブを身に纏い、その広間の真ん中に仁王立ちする。僅かに流れる風により、足元まで届くローブの裾が揺れ、微量の土煙が舞い上がった。

 そんな不審な男に、王宮の兵が気付かぬわけも無く、鉄の擦れる音と共に数百の兵が広場へと姿を見せる。統率がとれ、瞬く間に男を取り囲む。そして、各々が武器を男へと向けた。その間、約二分間ほどで、その間男はジッとその場に佇んでいた。

 騎士の一人が、槍の切っ先を男へと向け、訝しげに問う。


「貴様! 一体、何処から侵入した! 返答しだ――……」


 騎士は息を呑み、目を見開く。その男は大きく開かれた袖口から右腕を出し、静かにその指を空へとかざしたのだ。その指は間違いなく空を指し示していた。

 ギリッと奥歯を噛み締め、騎士は目付きを鋭くし、鼻筋へとシワを寄せ怒鳴る。


「私の質問に真面目に答えろ!」


 怒声と共に、槍が突き出される。鋭く大気を貫く槍は、虚しく空を切った。


「なっ!」


 驚く騎士の額に男は素早く袖口から出した銃の銃口を宛がう。一瞬の出来事だった。騎士の放った槍を右に回転しかわし、同時に距離を縮めて右手の袖口から出した銃を額に押し付ける。その場に居た誰もが、男の動きに目を奪われ、反応する事が出来なかった。

 静寂が漂う中で、男の足元にだけ土煙が舞っていた。

 額に銃口を宛がわれた騎士は、息を呑みフードで隠れる顔を覗きこむ。赤い瞳が二つ輝いているのが見え、騎士はソイツが間違いなく魔族だと、歯を噛み締めたまま息を吐く。


「一体……何のつもりだ……」


 騎士が吐き出した言葉に、フードの奥に見える男の口元に薄らと笑みが浮かぶ。


「知ってるか? ここで、今夜、処刑が行われる」

「――ッ!」


 その男の言葉に、皆が驚愕する。


「な、何で、貴様がその事を知っている!」


 銃口を宛がわれた騎士がそう叫ぶと、突如、疾風が集まった兵達の間を駆ける。その不規則な風の流れに、ローブをまとう男は静かに跳躍した。

 遅れてそこに若い男が姿を見せる。その手に一本の抜き身となった剣を振り切って。

 赤と青の入り混じった髪を揺らし、その若い男は跳躍したローブの男へと視線を向ける。冷ややかな眼差しの奥に浮かぶ若い男の漆黒の瞳が、薄らと輝きを放った。


「おやおや。中々素早いですね。これでも、神速って呼ばれてるんですけど」


 穏やかな笑みを浮かべ、彼は静かに剣を構えなおす。跳躍したローブの男は、広場の正面にある玉座の備え付けられた台座へと着地した。漆黒のローブが揺らぎ、頭に被ったフードの合間から黒髪が覗く。

 兵達は皆一斉にローブの男へと体を向ける。


「ケイト様。助かりました……」

「いや……まだ、助かったとは言いがたいな」


 ケイトと呼ばれた男は、そう呟きすり足で右足を前へ出す。ドクンと心臓が大きく脈打ち、ケイトは表情は険しくする。漆黒のローブをまとう男の力をヒシヒシと感じていた。周りに居る者達は皆気付いていないようだが、その力はこの場に居る全員が束になっても遠く及ばない程の強さだった。

 それを分かっているからこそ、ケイトは焦り額に汗を滲ませる。平静を装い、静かな息遣い。それは、自らを落ち着かせる為の偽装だった。その偽装のお陰か、ケイトは穏やかな表情だった。


「さて……一体、あなたは何者ですか?」

「…………」

「返答はなし……と、言う事ですね」


 沈黙を守る漆黒のローブをまとう男に、ケイトは静かにそう告げる。そして、重心をゆっくりと落とし、その手に持った剣を下段に構えた。


「一速――」


 ケイトが静かに呟くと、その姿が消える。疾風と共に、土煙を僅かに舞い上げて。一瞬にしてそこから数メートル先の兵士の間に姿を見せる。


「二速――」


 また呟き、土煙と共に姿が消える。そして、今度は先程よりも長い距離を移動し姿を現す。


「三速――」


 また呟き、疾風と共に土煙が舞う。徐々に、ローブをまとう男へとその距離を縮めていくケイトに、その男は薄らと笑みを浮かべる。


「……ラグショット」


 そう呟き、的外れの方向へと銃口を向け、引き金を引く。轟音が轟き、男の右腕が大きく跳ねる。空を向く銃口から白煙が昇り、やがて、機械的な声が静かに響く。


『カウント五秒』


 その音は誰にも聞こえない。故に、ケイトは何故、その男が意味も無い場所に発砲したのか理解出来なかった。


「四速――」


 一層、スピードを増し、赤と青の入り混じった髪が逆立つ。そして、ケイトは壇上へと姿を見せる。床を滑り、僅かに埃を舞い上げるケイトの耳に、男の静かな声が聞こえる。


「二……一……」


 男のその声に、ケイトの顔が上がる。すると、その目の前に突如、弾丸が現れた。まるで、今、放たれたかの如く、弾丸は螺旋を描く。


「――ッ!」


 ケイトは息を呑み、表情を強張らせる。そして、血肉が裂ける音が静寂の中で轟き、鮮血が宙を鮮やかに彩った。



 中央広場の地下。そこに、クロト達は居た。

 今はもう使われていないその地下室へと足を踏み入れたライは、足音も立てずに静かに部屋へと上がる。

 丁度、地下道は暖炉の中に続いていたのだ。クモの巣の張った暖炉を抜け、埃っぽい室内に、ライは身を潜める。物置部屋になっているのか、やけに古びた物が多く置かれていた。錆びれた剣やカビの生えた銃も並んでいる。

 訝しげな表情のライはその中の一丁を手に取り、引き金に指を掛けた。だが、引き金が動く事はなかった。


「……さび付いてるのか」


 静かに鼻から息を吐いたライは、ゆっくりとその銃を棚へと戻す。そして、来た道をゆっくりと引き返した。

 地下通路にライが戻ると、アオが息を潜め近付く。


「ライ。どうだった?」


 静かに尋ねると、ライはニッと笑みを浮かべ、右手の親指を立てる。


「大丈夫。地下室の物置にでも繋がってたんだろうな」

「物置?」


 訝しげな表情をアオは浮かべる。アオがこの城から抜け出した時、地下室など無かった。それに、この地下道は地下牢から続いていた。

 腕を組み右手を口元へと添えるアオは小さくうなり声を上げる。

 そんなアオの横をすり抜け、ケルベロスがライへと歩み寄った。


「誰もいなかったのか?」

「ああ。居なかったよ。妙な位静かだったよ」


 ライが少々困り顔を見せそう呟くと、ケルベロスは首を傾げた。

 ゆっくりと足音を立てずにケルベロスの横に並ぶクロトは、怪訝そうにライを見据える。


「物置だから人が寄り付かないって言う事じゃない?」

「いや、そう言うんじゃないんだ。何て言うか、何か別の事に気を取られているそんな印象かな?」


 身振り手振りを交えそう答えるライに、クロトは「そっか」と呟いた。クロトもここに来てから妙な気配を感じていた。それが、何なのか分からないが、右目が僅かに疼いていた。

 左手で右目を押さえるクロトは、眉間にシワを寄せ静かに息を吐く。その様子にいち早く気付いたのはケルベロスだった。


「どうかしたのか?」


 横目でクロトを見据え、小声で尋ねる。すると、クロトはケルベロスへと顔を向け、苦笑した。


「大丈夫……なんだか、右目が疼くだけだから」


 クロトの言葉にケルベロスは目付きを鋭くする。クロトの右目の疼き。それが何を示すのか、ケルベロスはおおよそ予測がついていた。だから、真剣な表情をライへと顔を向ける。


「部屋の外は騒ぎになっていなかったか?」

「えっ? いや……地下室で、物置だから……かな? 防音になってて外の音は聞こえなかったんだ」

「くっ! じゃあ、急ぐぞ!」


 ケルベロスが怒鳴り、走り出す。嫌な予感が脳裏を過ぎる。

 そんなケルベロスにクロトは慌てて叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待てって!」


 そして、駆け出す。ケルベロスを追って。突然の二人の行動に、一番慌てたのはアオだった。ここが何処なのか、完全に忘れてしまっているクロトとケルベロスへと、小さく舌打ちをする。


「チッ! ここは、すでに王宮内だぞ! 魔族の二人が出て行ったら――」

「大変じゃないか! 行こう! リーダー!」


 ライも事の重大さを理解し、声をあげアオへと目を向けた。

 二人は視線を交錯させ、小さくうなずき合う。そして、駆け出す。クロトとケルベロスの後を追って。

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