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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
バレリア大陸編
95/300

第95話 最強のガーディアンと超一流のハンター

「…………で、ここはどこですか?」


 恐る恐る瞼を開いたクロトが、周囲を見回し静かに尋ねる。

 草木がうっそうと生い茂る場所に、クロトは立っていた。確かにさっきまであの魔族の町に居たはずなのに、一瞬で見た事の無い場所に移動していた。


「ここは、ラフト王国王都のすぐ傍の森の中だ」


 小さく肩を上下に揺らし、アオが答える。

 この場所にクロト達を連れてきたのはアオだった。


「丁度、俺達もラフト王国の調査があるから」


 そう言い、アオは問答無用でクロトとケルベロスの二人を転移魔法で飛ばした。いきなりの事で、クロトは思わず堅く瞼を閉じ、気付いたときにはここにいた。

 ワープクリスタルの存在を知らなければ、クロトは慌てふためき困惑していたと思う。

 ワープクリスタルと言う一瞬で場所を移動する道具があるだけでも驚きなのに、それを道具なしで普通にやってのけるアオに、クロトは驚き感心する。

 それと同時に、クロトは疑問を抱く。


(一体、彼は何者なんだ……)


 と。

 少々疲れているアオの横顔を見据えるクロトは、腕を組み静かに鼻から息を吐いた。考えても仕方が無いと、クロトはすぐに考えるのをやめ、ただ警戒心だけを強める。


「アオ。コーガイだけで大丈夫なのか?」


 腕を組むケルベロスが尋ねる。

 コーガイとはアオのパーティーの一員で、重々しい鎧を着込んだ男だ。ヒーラーのレオナと共に町に残ったコーガイに、アオは「町の守備を頼む」と、肩を叩いていた。

 だが、幾らなんでも一人では無理だろう、とケルベロスは不安に思っていたのだ。この国の軍事力を舐めているとしか、言いようがなかった。

 しかし、アオと小柄な少年ライは、顔を見合わせ微笑する。その二人の表情にケルベロスは僅かにイラッとするが、それを堪えただアオを睨みつけるだけに留める。

 その迫力に、アオは笑みを引きつらせ、静かに答えた。


「だ、大丈夫だ。コーガイは俺の知る限り最強のガーディアンだ」


 何を根拠にアオがそう言うのか分からず、ケルベロスは怪訝そうな顔をする。


「まぁ、同じ班だから、信憑性薄いかも知れないけど、俺もガーディアンとしてはコーガイの右に出るものは居ないと思うぞ」


 アオと同じく、根拠無くライがそう答えた。

 二人して絶賛するコーガイと言う男が、どれ程のモノなのか、ケルベロスは興味が湧いた。コーガイと話した事は無いケルベロスだが、見た限りその姿に全く脅威など感じない。

 その為、納得出来ないと、言いたげな表情でケルベロスは腕を組んでいた。そんなケルベロスの表情に、アオは静かに笑う。


「安心しろって。それに、ラフトの軍勢も、暫くは手を出さないさ」


 何か確信があるのか、アオは自信満々にそう宣言する。怪訝そうにアオを見据えるケルベロスは、腕を組んだまま静かに息を吐いた。

 茂みに身を潜め、四人は現状を確認する。

 王都までは目と鼻の先。人間であるアオとライは問題なく、王都に入る事が出来る。しかし、クロトとケルベロスは確実に王都に入る前に捕まるだろう。王都は他の町や村に比べ、警備が厳重だ。そう易々侵入は出来ないのだ。

 それに、王都に運良く侵入出来たとしても、何十万と居る兵士達の包囲網を突破し、王宮に入るのは不可能だった。

 胡坐を掻き、腕を組むアオが空を見上げ鼻から静かに息を吐く。


「どうしたもんか……」


 アオが静かに呟く。

 その向かいに座るクロトは、眉間にシワを寄せ首を捻る。黒髪が揺れ、静かに両肩が落ちた。


「やっぱり、一筋縄じゃいかないですね」


 吐息と共に苦笑するクロトが、そう言うとその右隣で胡坐を掻くライが無邪気に笑う。


「まぁ、仕方ないって。この大陸じゃ、魔族の肩身は狭いからね」


 茶色の髪を揺らすライが頭の後ろで手を組み告げる。すると、その向かいに座っていたケルベロスが鋭い眼差しを向けた。


「そんな事は分かってる。それを、どうするか、考えているんだろ?」


 低く僅かに怒りの篭ったケルベロスの声に、ライは「だよねー」と目を細め静かに笑った。

 場の空気は重く、皆口を噤む。いい案が出ない。

 そんな中で、クロトは不意にアオの転移魔法を思い出す。アレで、王宮まで行けば良いんじゃないか、クロトはそう考えた。

 そして、クロトがそう提案しようとした時、アオと目が合う。穏やかな蒼い瞳に見据えられ、クロトは吐き出そうとした言葉を呑んだ。

 クロトの喉仏がゆっくり動くのを確認し、アオは口元に笑みを浮かべた。


「君の考えている事は分かってるよ。俺の転移魔法で王宮に侵入する。そう言う作戦だろ?」


 穏やかに微笑みそう言うアオに、クロトはゆっくりと頷く。

 すると、ライが苦笑し答える。


「無理だよ。リーダーの転移魔法って、便利そうに見えるけど、すっげぇー不便なモノだから」

「そうそう。すっげぇー不便……て、お前が言うなよ!」


 鋭い突っ込みを入れるアオに、クロトとケルベロスは呆れた様にため息を吐いた。

 二人の反応に、アオとライの表情は引きつり、やがて静かに喉を鳴らしアオは口を開く。


「んんっ。まぁ、俺の転移魔法には、マーキングが必要なんだ。

 王都内にマーキングは出来るけど、王宮内でマーキングは無理だ」

「じゃあ、お前達が王宮に忍び込んでマーキングしてこればいいじゃないか」


 眉間にシワを寄せ、ケルベロスがそう言うと、アオはジト目を向ける。


「俺の話、聞いてたか? 無理だって言ってるだろ?

 そもそも、マーキングには時間がかかるし、人に見つかったら終わりなんだからな」


 不服そうなアオに、ケルベロスは大きく鼻から息を吐く。


「全く持って使えんな」

「そうだろそうだろ。俺も、常々そう思ってたんだよ」


 ケルベロスの意見に賛同するライが、腕を組み何度も頷く。

 腰に手を当てたアオは、大きなため息を吐くと、頭を振る。


「全く……いいか、便利なモノ程、何かしらのリスクを負うんだからな」


 アオは短い黒髪を揺らす。

 また、その場は重い空気が漂い、沈黙が続く。

 木々の葉が揺れ、擦れ合う音が周囲を包む。すると、その音に隠れ、馬車が走る音が僅かに耳に届く。それと一緒に、無数の馬の蹄が地面を叩く音が重なる。

 その音にアオとライは顔を上げる。一方で、クロトとケルベロスは不思議そうな表情を向けた。


「しっ! 静かに!」


 真剣な表情で、アオがそう告げ、クロトとケルベロスを見据える。

 その言葉に、目を細めるクロトは、右肩を落とす。


(俺……何も言ってないのに……)


 落胆するクロトは、静かに息を吐き身を屈める。

 茂みに隠れ、アオとライは向こう側を覗く。

 王都へと続くなだらかな道を、無数の兵士が馬に跨り進む。大きな馬車を先導する様に。大きな盾を背負うその兵の姿に、彼らが王国所属のガーディアンなのだと、アオとライは気付く。そして、彼らが先導するあの馬車には――


「どうやら、あんまり、のんびりとしている時間はなさそうだ」


 真剣な表情で呟いたアオは、ゆっくりと茂みから身を引く。

 一方で、ライは息を殺し、身を低くしその様子をジッと目で追う。適材適所と言うモノがあり、こう言う隠密系の仕事はアオよりもライの方が優れているのだ。

 ライの金色の瞳が激しく往来する。駆け抜ける馬の一頭一頭を見据え、跨る兵の顔、特徴などを観察していた。疲弊した兵の顔を見逃さず、鎧の僅かな亀裂すらもその目に捉える。機械の様に頭の中に様々な情報を記憶していくライは、最後の一頭が通過するのを見送り、静かに息を吐いた。


「一体、何をしていたんだ?」


 腕を組むケルベロスが怪訝そうに尋ねる。だが、ライは仰向けに倒れ、激しく胸を上下に揺らす。額に薄らと滲む汗から、相当疲弊しているのが分かった。その為、ケルベロスの目は、ゆっくりとアオへと向く。

 自分に向けられた眼差しに、アオはニコッと笑みを浮かべ、自慢げに胸を張る。


「今、ライは色々な情報を収集していたんだ。兵士のコンディションから、性格まで様々な情報をな」

「そんな事、あんな短時間で分かるモノかな? 性格って言うのは、見ただけで判断できるモノじゃないと思うんだけど?」


 不思議そうにクロトが尋ねると、アオは「ふっふっふっ」と意味深に笑う。

 またロクでも無い事だろうと、ケルベロスは瞼を閉じ息を吐く。その額には薄らと青筋が浮かんでいたが、気付く者は居なかった。


「ライは、元々優秀なハンターなんだ。それに、ライの観察眼は、ハッキリ言って超一流。

 見たものは忘れないし、相手の性格なんて一瞬で見抜くなんて朝飯前だよ」


 まるで自分の事の様に嬉しそうに語るアオの姿に、ライの事を信頼しているのだとクロトは実感した。

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