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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
バレリア大陸編
89/300

第89話 全てを反射する力

 轟音が轟き、衝撃が広がる。濁った空気と全てを凍らせる様な殺気と共に。

 町に居た数人がその殺気を悟る。

 クロトもその一人だった。突然広がった殺気に、思わず立ち上がり音の方へと顔を向ける。ダリアも同じく。そして、ケルベロスも。病院の窓から外へと飛び出し、唇を噛み締める。その目が動揺で揺らぐ。圧倒的な威圧感。それが、周囲を包む。

 セラ、ルーイット、レベッカの三人も何か強い気配を感じ、動きを止めていた。僅かな寒気を感じ、瞳を揺らす。得体の知れない奇妙な気配。それが、恐怖をかき立て、身を震わせる。

 窓から飛び出したケルベロスは、裸足のまま駆け出す。まだ、体の調子がよくないはずなのに。本能的に自然と体がそうさせた。その行動にクロトがいち早く気付く。


「け、ケルベロス! 待てよ!」


 彼を止めようとクロトも走る。だが、クロトの足ではケルベロスに追いつけず、その背中を追う事となった。険しい表情を浮かべるクロトの頭の中。その声は響く。


(気をつけろ。クロト。何か、嫌な感じがする)


 ベルの不安げな声。その声にクロトは眉間にシワを寄せる。彼も感じていた。何か嫌な予感を。緊張感が走り、握った手の平にはジットリと汗を掻いていた。

 僅かに息を切らせ、ケルベロスを追う。そして、遂にケルベロスへと追いつく。立ち止まり微動だにしないケルベロスの隣りへと並ぶ。呼吸を乱し肩を揺らすクロトは、目の前の光景に愕然とする。

 散る鮮血。

 砕かれた地面。

 仁王立ちする漆黒の鎧をまとう者。

 平伏す血まみれの二人。

 そこで何があったのか分からない。だが、間違いなくあの鎧をまとう男によって二人はやられたのだろう。

 表情を歪め、剣を支えに立ち上がるグレイ。膝が震える。ただの一撃で、この様だった。確かに受け止めたはずだったのに、体は血を噴く。無数の切り傷を作って。

 ゆっくりと体を起こすロズヴェル。その手の棍棒を地面へと突き立て、膝を震わせ立ち上がる。左腕の皮膚が裂け激しく血が溢れていた。彼も確かに攻撃を防いだはずだった。あの男の放った左拳。何の事はないただの鉄拳。だが、それを左腕で防いだ瞬間、体を雷撃が襲い皮膚が裂けた。

 何が起こったのか理解出来ず、困惑する二人は奥歯を噛み締め、武器を構える。鉄仮面の向こうから不適な笑い声が聞こえ、静かな声が響く。


「ふふふふっ……。どうやら、役者は揃った様だな」


 鉄仮面が静かにクロトとケルベロスの方へと向けられる。鉄仮面から覗く赤い瞳。その目に二人は背筋をゾッとさせ、思わず身構えた。反射的に魔剣ベルを召喚するクロト。その横ではケルベロスが蒼い炎を両拳へ灯す。

 殺気を帯びた眼差し。恐ろしく冷たい眼差し。そして、重々しい重圧に、押し潰されそうになる。


「ぐっ……」


 表情を歪めるクロト。その右目が疼き、赤く輝く。クロトの視界に映し出される黒い霧。暗く闇の様なオーラが鎧をまとう男から激しい噴き出る。今まで見た中で最も凶悪で恐ろしい光景に、瞳孔が開く。息を呑み、自然と後退。その様子にその男は静かに肩を揺らす。


「そうか……お前には、見えているのか……」


 鉄仮面から見える赤い瞳が突如輝く。その瞬間に皆が驚く。赤く輝く両目。それは、まさしくクロトの右目と同じ輝き。だが、クロトと違い、その輝きは濁り不気味だった。

 硬直する四人に対し、彼は剣を構える。大きく重々しい剣を。

 四人はうろたえ、険しい表情で男を見据えた。

 静けさが漂い、風が吹き抜ける。土煙が舞い、駆ける。ロズヴェルが。

 雷撃をまとう棍棒。

 踏み出された右足。

 そして、響く声。


「猛虎雷砲!」


 腰が回転し、放たれる棍棒。だが、その先が左手の平でつけとめられる。鈍い金属音の後、虎の咆哮の如く雷鳴が轟く。しかし、青雷は突き出された棍棒の先からではなく、反対側から激しく迸る。それにより、ロズヴェルの体が激しく後方へと弾かれた。


「うぐっ!」


 表情が歪み、地面を激しく転がる。雷撃を受けて衣服が裂け、皮膚が僅かに焦げる。

 激しく横転するロズヴェル。

 舞う土煙。

 それに遅れ、ケルベロスとグレイが駆け出す。

 剣へと魔力を注ぐグレイが右足を踏み出し、やや遅れケルベロスが左足を踏み出す。ほぼ正面のグレイに対し、右横からの死角を突く様な形のケルベロス。二人の声が重なる。


「疾風剣!」

「蒼炎拳!」


 踏み出された右足に体重を乗せ、放たれる一閃。突き出される拳。だが、グレイの剣は右手に持った剣で受け止められ、ケルベロスの突き出した拳は左手で受け止められる。胸の前で腕を交差させて。そして、二人の体を襲う。グレイには無数モノ鋭い風の刃が――。ケルベロスには蒼い炎が――。

 衝撃を受け弾かれるケルベロス。

 激しい風に体を斬りつけられるグレイ。

 二人は地面を横転し、呻き声を上げる。

 仰向けに倒れ、グレイは血を流す。傷は浅い。だが、出血が酷く意識がモウロウとしていた。

 蒼い炎を受けたケルベロス。衣服は焼け、褐色の肌を露出する。皮膚は僅かに赤くなり、軽い火傷を負っていた。


「な、何で、攻撃した方が吹き飛んだんだ……」


 驚くクロトが、ベルを静かに構える。そんなクロトの頭にベルの声が響く。


(どう言う原理かは分からんが、攻撃を反射している)

(反射? そうか……それで、皆……)


 納得するクロトにベルは更に付け加える。


(しかも、受けた攻撃を倍にして返している。無闇に攻撃を仕掛けたら、危険だ)


 彼女の声に、クロトは表情を歪めた。迂闊に攻撃する事も出来ない状況。これでは、戦う事など出来ない。

 右足をジリジリと前へ出すも、動き出せない。そんな彼へと鎧の男は静かに体を向ける。

 その赤く輝く眼差しにクロトは臆し、表情を険しくする。


「いい判断だ。だが、それじゃあ、俺には勝てない」


 重い足で地を蹴り、クロトへと間合いを詰める。鎧が重い所為か、動きは遅い。このままではダメだと、クロトは右足を踏み込み男を迎え撃つ。

 鎧の男が間合いへと入ると、放たれる刃。だが、その一閃は空を切る。後方へと飛び退かれた事によって。


(何故、かわした?)


 僅かに生まれる疑念、違和感。

 土煙を足元に巻き上げる男を見据え、クロトは剣を構えなおす。その間も考える。何故、かわしたのかを。

 反射出来るなら、かわす必要は無い。だが、彼はかわした。しかも、大分距離を取っていた。何か理由があるはずだと、思考をめぐらせる。反射するのに条件がいる。そう考える方が妥当だが、その条件が一体何なのか、分からない。何とか、その答えを出そうとクロトは考える。

 だが、そんな猶予を与える程、彼も馬鹿じゃない。すぐに地を蹴り間合いを詰める。動きが遅く、間合いを取るのは容易だった。しかし、ここで攻めなければ攻略の糸口が見つからないとクロトも地を蹴る。その目を凝らし、右足を踏み込む。それに遅れ、彼も足を踏み出す。

 二人の赤く輝く目が交錯。そして、同時に振り抜かれる。鋭く互いの剣が――一閃。

 風を切る音。

 後に金属音。

 弾かれ、火花が散る。

 激しい衝撃を受け後方に吹き飛ぶクロト。その足元に土煙を巻き上げ、両足で何とか踏みとどまる。

 一方、鎧の重さで吹き飛ばずその場に止まる男。その強い眼差しがクロトへと向けられる。

 僅かに震える刃。それを左手で止め、クロトは静かに息を吐いた。

 意識を集中、神経を研ぎ澄ます。その頭の中には守るべき者の姿を思い描き、剣を下段に構える。


(気を引き締めろ。お前は弱い。一撃でも貰ったら終わりだぞ)

「あぁ……分かってる」


 頭に響いたベルの声へと、静かに答える。

 真剣な表情。

 落ち着いた口調。

 クロトの意識は完全に鎧の男へと集中する。

 音も無く静かに吹き抜ける風。

 黒髪が揺れ、耳元で風の音が囁く。

 右足を踏み込み、その刃に赤黒い炎を灯す。

 揺らぐ炎が静かに火の粉を散らした。

 息を呑むクロトへと、男は不適に笑う。


「俺にはどんな技も効かない」

「な、なら……」


 ケルベロスの声が、彼の右方向から聞こえる。


「……全方向から……」


 続いて左側からグレイの声。


「一斉攻撃でどうだ!」


 最後に背後からロズヴェルの声。

 ケルベロスとグレイが魔力を込め、ロズヴェルが精神力を魔力へと変換する。

 皆、全力。それは、クロトにも分かった。右目に映るその光景。赤い煙が三人から噴出し、渦巻く。それに応えようとクロトも自分の持てる魔力全てをベルへと注ぐ。


(待て! クロト! アイツは技を反射――)

(全方向からなら、反射なんて出来ないはずだろ!)

(そうかもしれないが、もし反射出来たら!)


 ベルの制止を聞かず、クロトは剣を頭上に構え、右足を踏み込む。

 両拳に蒼い炎を灯すケルベロスは、静かに息を吐き出す。皮膚が裂け、両拳の蒼い炎が煌く。魔力の純度を最大まで上げていた。

 右足をすり足で前へと出したグレイ。前傾姿勢をとり、右肩を男の方へと向け、左腰の位置で剣を構える。刃を包む暴風。それにより、激しく震える刃。甲高い嫌な音が周囲へと広がる。

 左足を踏み出すロズヴェル。膨れ上がった右腕。大きく上体を捻り、顔の横に構えられた棍棒。それを包むのは激しく爆ぜる雷撃。

 四人の行動に余裕すら窺わせる鎧の男は、僅かに俯き肩を震わせる。


「クッ……クハハハッ! 浅はかだな! 貴様ら! その程度で、俺の守りを敗れると思うな!」


 大手を広げ、何処からでも打ち込んで来いと言わんばかりの男に、四人はほぼ同時に動く。


「業火――」


 クロトは踏み出した右足へと体重を掛け、上半身を僅かに後ろへと引く。


「蒼炎――」


 拳を包む炎の火力が一瞬弱まるが、すぐに爆発する様に火力を強める。


「暴風――」


 刃を包む風が一層荒れ、切っ先が震える。それを堪え、奥歯を噛み締め、踏み出した足へと体重を乗せた。


「雷光――」


 爆ぜる雷が頬をかすめ鮮血が弾ける。だが、その目は真っ直ぐに鎧の男を見据え、上半身は限界まで捻り上げられる。

 そして、四人の声が重なる。


「――爆炎斬!」

「――牙狼拳!」

「――乱舞!」

「――龍砲!」


 クロトが右足へと全体重を乗せ、振りかぶった剣を振り下ろす。爆音が轟き、切っ先が地面を砕く。そして、激しい衝撃が生まれ、赤黒い炎を前方へと一直線に飛ばす。波の様に唸りを上げながら。

 ケルベロスは右拳を突き出し、続けて左拳を放つ。両拳から放たれる蒼い炎。それは、狼と姿を変え、地を駆ける。

 グレイは踏み出した右足に力を込め、腰を回転させ刃を一閃。渦巻く風が地面を抉り一直線に走る。鋭い風の刃をその中に生み出しながら。

 ロズヴェルが左肩を引き、腰を回し右腕を振り抜く。棍棒が放たれる。雷撃共に。轟音が轟き、閃光が周囲を包む。

 四方向からの一斉攻撃。一瞬にして四つの技がぶつかり、衝撃。そして、大きな爆発が周囲を包み込んだ。

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