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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
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第68話 金髪の獣魔族の少年

 人で賑わう港町ノーブルー。

 その賑わう町の片隅、丁度店と店の間の細道でクロトは蹲っていた。左手で右脇腹を押さえて。

 乱れる呼吸。痛む脇腹。体に巻かれた包帯に滲む血。流石に傷が酷くなりつつあった。化膿しているモノだと思われる。それでも、皆に心配させたくないと言う思いから、クロトはこの事を言えずにいた。

 苦痛に表情を歪め肩を大きく揺らす。その痛みに奥歯を噛み締め、ゆっくりと壁を支えに立ち上がる。震える膝へと力を込め、それを必死に押さえ込み、クロトは空を見上げ深く息を吐く。意識を集中し、痛みを忘れるように。黒髪が細い通路を流れる風で僅かに揺れ、吐き出す息に熱を帯びる。体がだるいのはその体内に熱を帯びているからだろう。

 呼吸を整え静かに顔を下ろす。ようやく、痛みが和らぎ瞼を静かに開き、右脇腹を押さえていた左手を離す。気を落ち着け気合を入れなおしたクロトは、壁に着いていた手を離し、背筋を伸ばした。


「よし……」


 小さく気合を入れる様に声を上げたクロトは、体を反転させゆっくりとした足取りで街道へと戻る。

 人の賑わう道に戻ったクロトは渋い表情を浮かべ周囲を見回す。多くの露店があり、行き交う人は足を止め露店を眺めていた。そんな人の顔を見据え、クロトは足を進める。この世界の文字は読めない為、露店で何が販売されているのか分からない。その為、クロトは一切足を止める事無くキョロキョロと人の顔を見る。その度に、その人達から白い目を向けられ、クロトはその視線を笑って誤魔化す。

 ミィを探しているのだが、人が多く悪戦苦闘していた。幼く身長も低いミィ。しかも、朱色の髪をしているから簡単に見つかるもんだと思っていたが、朱色の髪などこの世界では珍しい事も無く、様々な髪の色をした人達が往来し、全くと言う程見分けがつかなかった。

 往来の激しい道の真ん中で腕を組み困り果てるクロトは、静かに鼻から息を吐くと両肩を落とす。


「うーん……どうしたものか……」


 ボソリと、呟くと同時に、後ろから右肩をつかまれる。


「やっと見つけ――あれ?」


 何処か幼さの残る低い声にクロトが振り返ると、そこには金髪の少年が居た。身長はクロトよりもやや低く、頭の上の獣耳が丁度視界に入る。その事からすぐに彼が獣魔族なのだと分かった。

 一方、彼の方も褐色がかったクロトの肌と尖った耳を見て、クロトが魔族だと分かったのか無邪気な笑顔を見せ、クロトの肩を掴んでいた手を離し頭を掻く。


「あーぁ。わりぃ。人違いだ」

「えっ、あぁ……」


 初対面の相手に戸惑うクロトは、シドロモドロに答え視線をそらす。その少年に対し人懐っこそうな印象を抱き、どう対応したらいいのか迷っていた。基本的に自分から初対面の人と話す性格ではない為、思わず押し黙りその場を妙な間が支配する。

 そんな中で、金髪の少年は右手で頭を掻いたまま辺りを見回し小首を傾げた。


「おかしいなぁ? ちゃんと匂いを辿ってきたんだけど……」


 鼻をヒクヒクと動かす少年の姿に、クロトは彼が嗅覚の優れた獣魔族なのだと理解した。マジマジと少年の顔を見据えていると、少年の眉間にシワが寄り、その顔がクロトの方へと近付く。鼻がヒクヒクと何度も動き、やがて渋い表情を浮かべクロトの顔を見据え呟く。


「うーん。やっぱり臭い……」

「く、臭い……」


 少年に言われた一言に引きつった表情を浮かべるクロトは、目を細め自分の体の匂いを嗅ぐ。ちゃんと風呂にも入っているし、服もちゃんと洗っている為、まさか臭いと言われるとは思っていなかった。

 胸を押さえ肩を落とすクロトは「臭うのか?」と、何度もぶつぶつと呟く。ショックだった。初対面の人にそんな風に言われる事が。

 大分落ち込んでいたが、すぐに立ち直ったクロトは笑顔を少年へと向ける。すると、渋い表情を浮かべる金髪の少年は腕を組み大きくため息を吐く。


「全く……何処行ったんだ?」

「……? もしかして、誰か探してるのか?」


 クロトが疑問に思い尋ねると、少年は小さく頷き乾いた笑い声を上げる。


「実はさぁ、一緒に町を散策してた奴がいたんだけど、途中で消えてさぁ。それで、匂いを辿って追っかけてたら、お前に会ったんだ」

「匂いを辿って……」

「あぁ。アイツの匂いって独特で――って、お前もアイツと同じ匂いがするけどな」

「そ、そうなんだ……」


 彼のアイツと言うのが誰なのかは知らないが、その人も相当臭いのかと思うと思わず表情が引きつる。一体、どう言う人なんだろうと考え、右肩をやや落としせせら笑う。

 そんなクロトに、少年は怪訝そうな表情を浮かべ、もう一度鼻をヒクヒク動かし、眉間にシワを寄せその視線を腹部へと向ける。


「お前、怪我してるのか?」

「えっ? ど、どうして?」

「血の臭いがする。それも、大分キツイ臭いだな。随分前から怪我してんじゃないか?」


 的確な指摘に対し、クロトはただ苦笑する。まさか、そこまで言い当てられるとは思っていなかったのだ。引きつる表情のクロトに対し、少年も苦笑し答える。


「まぁ、オイラがとやかく言う事じゃないんだけどな」


 右手で頭を掻きながらそう言う少年はヒクヒクと鼻を動かすと、素早く辺りを見回す。突然の行動にクロトは困惑しうろたえるが、その視界の端に見覚えのある人物の姿を捉える。朱色のショートの髪を揺らす小柄な少女の姿を。

 行き交う人の合間に見えた為、見間違いかもしれないと目を凝らす。すると、やはり人の波の間にリュックを背負ったミィの後ろ姿が見えた。誰かと一緒に居る様だが、その相手の姿は良く見えない。その為、クロトは右手を大きく振り声を上げる。


「ミィ!」


 と。その声に気付いたのか、ミィがクロトの方へと顔を向ける。視線が僅かに交錯し、すぐにミィは背を向けると軽く会釈する。

 そんなやり取りを目を凝らし見ていると、クロトの横で金髪の少年が叫ぶ。


「あっ! 見つけた!」


 その大声にビクッと肩を跳ね上げたクロトはすぐに少年の方へと顔を向ける。驚いた様子のクロトの顔に少年は無邪気に笑みを浮かべた。


「あぁ、わりぃ。探してた奴見つかったわ」

「そ、そう」

「じゃあ、オイラは行くな」

「ああ……」


 妙に馴れ馴れしくクロトの肩を叩き少年は歩き出す。左足を引き摺る様に歩みを進める少年にクロトは訝しげな表情を浮かべ、首を傾げる。すると、彼は声をあげ名前を呼ぶ。


「おーい! 冬華!」


 と。その名前に一瞬クロトは驚き目を見開くが、すぐにここが自分が元居た世界ではないと思い出し軽く首を振った。そんなわけ無いと。こんな場所に居るわけが無いと。自分に言い聞かせる様に。それに、この世界にだって、同じ名前の人がいておかしくないのだと。

 首を振り静かに息を吐くと、目の前に朱色の髪を揺らしジト目を向けるミィの姿があった。怪しむ様な眼差しを向けるミィに気付き、クロトは「うおっ!」と驚きの声をあげ思わず飛び退く。


「お、驚かすなよ……」

「いやいや。クロト……。人の顔見て驚く方が失礼だと、自分は思うッスよ?」

「い、いや、まぁ、そうだけど……」


 クロトは図星を突かれ渋い表情を浮かべつつ、先ほどの少年の姿を探す。もしかすると、自分の知っている人物に会えるんじゃないかと淡い期待を胸に秘めて。だが、すでに少年の姿は人の波に消えていた。金髪の髪など、この国では珍しくも何とも無い為、もうどれが彼だったのか分からなかった。

 眉間にシワを寄せ怖い顔をするクロトに、ミィも静かにその視線の先に目を向け首を傾げる。


「どうかしたんスか?」

「……いや。何でも無い。多分……気のせいだと思うから」


 笑みを浮かべ答えるクロトに、ミィは「そうッスか?」と答えた。もちろん、すぐに分かった。その笑顔が無理して作られた笑みだと言う事は。しかし、ミィは何も言わず歩き出す。クロトと一緒に、船へと向かって。

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