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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
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第63話 クロトvsウォーレン

 激しく火花が散り、クロトとウォーレンは大きく弾かれる。

 ミラージュ王国の王ゲイツの息子にして、この国最強のハンマー使い。最も重量のある打撃タイプ武器にして最も扱い難い武器。その為、扱う者は少ないが最も大きな理由は打撃タイプであるハンマーよりも、同等の重さで扱いやすい斬撃タイプのアックスを選択する者が多いと言う事にある。

 ハンマーは的確に当てれば大ダメージを与えられるが、外せば一転ピンチになる。だが、アックスは鋭い斬撃で広範囲を攻撃で出来る為、こっちを使う人が多いのだ。

 重量のあるハンマーを大きく振りかぶるウォーレンに、クロトは奥歯を噛み締め踏み出した右足へと体重を乗せる。重量のあるハンマーを受ける為には、クロトも全力で向かい撃たなければならない。その為、クロトも大きく剣を振りかぶり、ウォーレンのハンマーに合わせる様に振り抜く。

 互いの武器が激しく衝突し、衝撃と火花が生じ両者の体は吹き飛ぶ。

 足元へと土煙を巻き上げ数メートル後ろへと弾かれたクロトは大きく仰け反った上体を戻し、表情を歪める。重い一撃に剣を握る手が痺れていた。

 一方のウォーレンも足元へと土煙を巻き上げ、数メートル後ろへと後退させられ、上体を崩していた。重量のあるハンマーを使う為、ややクロトに遅れてから上体を戻したウォーレンは、その口元へと笑みを浮かべる。


「なかなかやるな」

「はぁ…はぁ……」

「んっ? どうかしたのか?」


 呼吸を大きく乱し、前屈みになるクロトの様子にウォーレンは訝しげな表情を浮かべた。まだ一度も直撃はしていないが、クロトの右脇腹から血が滲む。左手で脇腹を押さえるクロトは、その感覚に表情を歪め大きく肩を上下に揺らし、ゆっくりと背筋を伸ばす。包帯を巻いている為、衣服には滲んでおらず、誰もその事には気付いていなかったが、ウォーレンだけが怪訝そうに眉をひそめ、静かに問い掛ける。


「お前、大丈夫か?」

「あぁ……大丈夫。さぁ、続けようか」


 呼吸を乱しつつもそうハッキリと告げたクロトが、右脇腹を押さえていた左手を剣の柄へと戻し握り締める。その行動に僅かな違和感を覚えながらも、ウォーレンはゆっくりとハンマーを右肩に担ぐ。

 僅かにだが静かな時が過ぎる。観衆も皆、息を呑みその空気を見守る。誰一人として口を開かないその中で、ウォーレンは静かに長く息を吐くと、意識を集中し肩に担いだハンマーを振り上げた。

 その瞬間、兵士達がざわめき、観衆達は皆血相を変えその場を離れ出す。観衆の異変にクロトは首をかしげ、それを見据えるパルも怪訝そうな表情を浮かべる。そんなパルへとゲイツは笑いながら口を開く。


「本気を出すみたいじゃな」

「本気?」

「ああ。今まではほんの小手調べだったんだろうな」

「ウォーレンの本気……」


 静かに呟き、ウォーレンへと視線を向ける。その視線に気付いたのか、ウォーレンは嬉しそうにニヤニヤと笑みを浮かべ、真っ直ぐにクロトを見据えご機嫌な声を上げる。


「ふふふふっ! この一撃はかわせねぇーぞ!」

(パルの視線を独り占めだぜ!)


 ウォーレンがニヤつきそう思っている最中、クロトにも異変が起きていた。右目が疼き出していた。ウォーレンのその強さに反応を示したのだろう。僅かに赤く輝きその目にウォーレンの体がまとう闘気が鮮明に映し出される。渦巻く赤い煙にクロトは息を呑み身構えた。

 真剣な表情のクロトに、ウォーレンは振り上げたハンマーへと精神力を集め、声を上げる。


「行くぞ! インパクトスマッシュ!」


 振り上げたハンマーを一気に地面へと叩きつける。轟々しい爆音が轟き、地面が砕け散る。重々しい衝撃により地面は陥没し、その衝撃は激しい地響きを起こす。広がる衝撃波と激しい地響きにクロトはその場から動く事が出来ない。しかも、衝撃波によって巻き上げられた土煙で視界も遮られ、完全にウォーレンの姿を見失っていた。

 激しい揺れに両足を踏みしめ、バランスをとっていると、その耳元でウォーレンの声が響く。


「インパクト――」


 その声でクロトは気付く。衝撃音と土煙にまぎれてウォーレンが間合いを詰めていた事に。しかも、この地面の揺れをモノともせずに。

 クロトの左側へと右足を踏み込む。真横にウォーレンの姿を確認し、クロトは息を呑む。大きく捻られた上体。振りかぶったハンマーの頭が土煙の向こうに薄らと映り、クロトは奥歯を噛み締める。避けきれないと一瞬で判断したのだ。と、同時にウォーレンの声が轟く。


「――スマッシュ!」


 捻られた上体が僅かに前方へと傾き、振りかぶっていたハンマーを体ごと一気に振り抜く。大きく唸りを上げるそのハンマーが土煙の中から姿を見せ、クロトの腹部へと深く突き刺さる。重々しい衝撃がクロトの背中から衝き抜け、僅かな金属音が周囲へと広がった。その体は軽々と弾き飛び壁へと背中から激突し、その衝撃で壁は大きく窪み、クロトの体は壁へと減り込んでいた。


「うぐっ……」


 表情を僅かに歪めるクロトの体がゆっくりと壁から落ち、よろめきながら二歩、三歩と足を進める。ハンマーを振り抜いたウォーレンはそんなクロトの姿を見据え口元に笑みを浮かべた。


「剣で防いで、ダメージを軽減したか」

「けほっ……けほっ……」


 よろめき、左手で右脇腹を押さえながら咳き込むクロトが、表情をしかめウォーレンを見据える。ウォーレンの言う通り、咄嗟に剣を体の前へと出しハンマーを受け止めたが、それでもその衝撃だけは防ぎきれなかった。しかも、右脇腹の傷口が完全に開き、血が包帯から染み出し右足から地面へと流れていた。

 目を凝らすクロトは、静かな呼吸で肩を上下に揺らしウォーレンを見据える。この状態でこれ以上戦うのは厳しいと、クロトは覚悟を決め剣を構えた。

 地響きが収まり、土煙がようやく晴れ、観衆が戻ってくる中でクロトは地を蹴る。瞬発力を活かし、一気に間合いを詰めるが、ウォーレンはハンマーを軽々と右手で振り上げ笑みを浮かべる。


「何をする気が知らねぇーが、返り討ちだぜ!」


 突っ込んでくるクロトに対し、一気にハンマーを振り抜くが、その瞬間クロトと目が合う。鋭く何かを狙うその眼と視線がぶつかり、ウォーレンは瞳孔を開く程驚く。明らかに今までと違う本気の眼差しに、ウォーレンは思わず体を引く。それに遅れ、下から上へとクロトの剣が切り上げられウォーレンの顔の前を切っ先が通過する。


「くっ! 甘いぜ!」


 刃をかわし、笑みを浮かべたウォーレンが、右手のハンマーを振り抜こうとしたその刹那だった。切り上げられた剣を上段に構えたクロトが右足を踏み出し大きく背を仰け反らす。精神力を宿したその刃を見据え、ウォーレンは悟る。一刀両断を放つ気だと。すぐにそれを防ぐ為にハンマーを体の前へと出す。それに遅れて、クロトの声が高らかに響く。


「一刀両断!」


 踏み込んだ右足へと全体重を乗せ、大きく仰け反った体を振り上げた剣ごと一気に前方へと倒す。右脇腹が痛むが、それを堪え一気に振り下ろされるその刃は精神力で強化され、一直線に振り下ろされた。

 鈍い金属音が響き、火花が散る。衝撃が僅かに吹き抜け、クロトの黒髪とウォーレンの灰色の髪が激しく揺れる。二人の間に僅かな沈黙が生じ、空からクロトの後方数メートル先へと折れた刃が突き刺さった。

 振り下ろされたクロトの剣。その刃は根元から折れていた。ウォーレンとの激しい打ち合いの末、すでに刃には亀裂が生じていたのだ。その為、クロトの放った一刀両断をウォーレンがハンマーで柄で受け止めたその瞬間に砕けたのだ。

 肩を大きく揺らし呼吸を乱すクロトの手から剣が落ち、そして、ウォーレンの手からもハンマーが落ちた。柄を真ん中から真っ二つに切られて。

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