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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
60/300

第60話 航路

 数日が過ぎていた。

 クロト達はその日の内に何とか船へと辿り着き、川が荒れる前に出航する事に成功していた。ただ、ギリギリだった為、出航して数分後に川が荒れ、危うく波に呑み込まれてしまう所だった。

 難を逃れ、出航したクロト達は、現在、ゼバーリック大陸を西へと迂回しながら、北にある大きな港町ノーブルーを目指していた。

 皆で話し合い、ゼバーリック大陸から北西にあるバレリア大陸を目指す事になったが、大陸を渡る前に一度船をちゃんと整備させたいと言う事で、この大陸で最も優秀な整備士の居るノーブルーへと向かう事になったのだ。

 西側の航路を取ったのは、ノーブルーが大陸東のイリーナ王国よりもミラージュ王国側の領土に近い為だった。ノーブルーも大商業都市であるローグスタウンと同じ中立の町。面積はローグスタウンの半分程の大きさだが、それでも港町と言うだけあり人口は多く貿易により別の大陸からも大量の商品や食品が並んでいる。

 最西端でであるミラージュ王国を右手に、船はゆっくりと北西へと進路を取る。

 甲板から岸壁に見えるミラージュ王国の象徴であるミラージュ城を双眼鏡で眺めるセラは、感慨深そうに感嘆の声をあげていた。ミラージュ城は岸壁をくり貫き作られた城で、その岸壁一帯に魔導砲と呼ばれる砲台が備え付けられている。ここは海賊が多く出る海域でもある為、この様に岸壁から海へと砲弾が撃てる様になっているのだ。


「凄いお城だね」


 驚きつつも笑みを浮かべるセラが、隣に並ぶミィへと顔を向けると、ミィも手すりに腕を乗せ身を乗り出し答える。


「そうッスね。ミラージュ城は要塞って比喩される位ッスから」

「要塞?」

「そうッス。この世界でもあの魔導砲を備え付けてる城は無いッスよ」


 朱色のショートの髪を揺らし答えたミィに、セラも茶色の髪を潮風で揺らし頷くと、双眼鏡をミラージュ城へと向けた。

 静かな廊下を歩むルーイットはドアの前で足を止め、静かにドアをノックする。


「クロト? ちょっといい?」

「えっ? あっ、ちょ、ちょっと待って!」


 ドアの向こうから慌てたクロトの声が響き、慌ただしい音が響く。小首を傾げるルーイットは訝しげな表情を浮かべもう一度ドアの向こうへと声を飛ばす。


「ねぇ、入ってもいい?」

「あ、ああ。うん。大丈夫」


 クロトの返答を聞き、ルーイットはドアを開け部屋へと入った。部屋に入った瞬間、ルーイットは僅かな血の臭いを感じ、表情を歪める。だが、その血の臭いも獣魔族であるルーイットだからこそ気付く程の微量なモノだった。

 怪訝そうな表情でドアの前に立ち尽くすルーイットは部屋の中を見回す。ベッドの横に備え付けられた丸椅子に座るクロトは、そんなルーイットに爽やかな笑みを浮かべ僅かに首をひねる。


「ど、どうかした?」

「ううん。別に。それより、何してたの?」

「ん? べ、別に、ほ、ほら、俺って乗り物弱いだろ? だから、そ、その、よ、横になってたんだ」


 明らかに動揺の見えるクロトのシドロモドロの答えに、ルーイットはジト目を向け小さく吐息を漏らす。どうせ、問い詰めても正直に答える気はないだろうと、ルーイットも分かっていた為、それ以上は何も聞かなかった。

 紺の長い髪を揺らしクロトの方へと足を進めるルーイットは、スカートを押さえながらベッドへと腰を下ろす。女の子らしいルーイットの行動に、クロトは自分が今女の子と一緒に居るんだと自覚し、俯き顔を赤くする。

 元々、クロトは女の子が苦手だった。異世界に来た事と今まで色々とあり過ぎた為、忘れていたが、今、自分は女の子と一緒に旅をしているのだと自覚すると、妙な照れと恥ずかしさがあった。

 俯き顔を赤くするクロトに気付く様子も無く、ルーイットは小さく息を吐き正面の壁に飾られた風景画を見ながら静かに口を開く。


「傷、大丈夫なの?」

「へっ? き、傷?」


 唐突にルーイットに問われ、驚き顔を上げたクロトの声が裏返る。明らかに動揺している様に見えるが、ルーイットはそれを気にせず小さく頷き言葉を続ける。


「そう。右脇腹。怪我してたでしょ? あの時、転んだ私の手を引いた左手、凄い血が付いてたし」

「あ、あーぁ。うん。もう大丈夫。全然平気」


 思い出した様に大きく頷いたクロトが早口でそう言い笑顔を見せる。その笑みが妙に胡散臭く見えたルーイットは鼻から静かに息を吐く。それが嘘だと言う事がハッキリと分かったからだ。まだ間もない付き合いだが、クロトが嘘をつくのが下手だと言う事をルーイットは分かっていた。

 呆れた様な眼差しを向けるルーイットはもう一度静かに息を吐き、


「まぁ、大丈夫って言うならいいけど……あんまり無理しないでよ?」

「無理なんてしてないよ? あっ、それより、ケルベロスの方は……」


 クロトが思い出した様にそう尋ねる。ケルベロスの両手の事を思い出したのだ。両手を酷く火傷し、皮膚がただれる程傷付いていたが、あの後どうなったのか、クロトは知らなかった。クロトの心配そうな眼差しに、ルーイットは呆れた様にため息を吐く。ケルベロスの事より、もっと自分の事を心配しなさいと、言いたげなルーイットは渋々と言う感じで口を開く。


「正直、重傷よ。全治二週間ってとこかしら? でも、まぁ、本人は大丈夫だって言ってるわよ。全く、男ってどうしてそう強がるのかしら」


 ボソッと最後の方に呟いたルーイットの言葉はクロトには聞き取れなかった。その為、クロトは「そっかそっか」と笑顔で頷いていた。そんなクロトに呆れた眼差しを向けるルーイットは、僅かに肩を落とす。


「じゃあ、私、そろそろ行くね」

「あ、ああ。俺は、気分が優れないから、もう少し休んでおくよ」

「うん。まぁ、あんまり無理しないでね」


 ベッドから立ち上がり、右手を軽く挙げてそう告げたルーイットに、クロトは「ああ」と、小さく返答し右手を振った。部屋から出る際、ルーイットは入り口傍においてあったゴミ箱が不意に目に入る。そして、そのゴミ箱の中に血の付いたガーゼと包帯が捨てられているのが見え、部屋に入る前にクロトが慌てていた理由を理解する。

 それでも、ルーイットは何も言わず部屋を出ると、ドアを閉めてから小声で呟く。


「バカなんだから」


 と。

 部屋に一人残ったクロトは、丸椅子から立ち上がると、よろめきベッドへと倒れこむ。ルーイットが思っている以上に、クロトの右脇腹の状態は悪かった。業火の炎を使い、無理やり傷口を塞いでいたが、それにより炎症を起こしており、傷口は腫れ上がり激痛がクロトを襲っていた。

 ベッドにうつ伏せに倒れるクロトは、ベッドカバーを握り締め、苦痛に表情を歪める。額には薄らと汗が滲み、吐き出す息には僅かに熱が篭っていた。ルーイットがいる手前、平然を装っていたが、実際はあんな笑みを浮かべられる程状態は思わしくなかったのだ。

 呼吸を乱すクロトは、ゆっくりと体を起き上がらせると、服を捲り体に巻いた包帯を解く。すでに宛がわれていたガーゼも包帯も血で赤く染まり、右脇腹の傷口からは妙な液体と血が混ざり溢れていた。


「……ッ! はぁ……はぁ……」


 肩を大きく上下に揺らすクロトは、血の付いたガーゼと包帯をゴミ箱へと捨てると、新しいガーゼに消毒液を染み込ませ傷口へと当てた。その際、思わず声を上げそうになるが、それを必死に堪え荒い呼吸を続け、ゆっくりと包帯を巻きつけ、ベッドへと仰向けに倒れこむ。薄らと開かれた目は天井を呆然と見上げ、半開きの口からは熱を帯びた息だけが吐き出され、クロトの瞼はゆっくりと閉じられ、部屋には寝息だけが聞こえていた。

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