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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
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第6話 深夜の訪問者

 暗闇に揺れるロウソクの火。

 僅かな光を見据えるクロトは、小さく息を吐きベッドに倒れ込んだ。

 デュバルが客室を一室用意させ、ようやくクロトは一息つけた。幸い、部屋は綺麗にされており、準備に時間は掛からなかった。それでも、色々あり過ぎて疲れ切っていたクロトは、ベッドにうつ伏せに倒れたまま眠りへといざなわれた。

 静かな時間が過ぎる。

 室内に聞こえるのは、クロトの寝息と時を刻む音。時折、窓ガラスが風でカタカタと音を立てるが、クロトが起きる様子は無い。余程疲れていたのだろう。

 クロトが眠りに就き、数時間。月が沈み始めた頃、部屋のドアが不気味に軋みながら、ゆっくりと開かれた。暗がりの部屋に差し込む明かりに、影が映る。

 カッカッと踵が床を叩きながら、静かにベッドで眠るクロトへと一つの影が迫る。足音が止まり、ゆっくりとクロトの首元へと手が伸びた。

 だが、その瞬間、クロトに手首をつかまれベッドの上へと組み倒される。


「誰だ! 一体、何のマネだ!」


 腕を締め上げ、身動きを取れなくしたクロトがそう怒鳴るが、すぐにこの人物が女であると気付いた。その腕のか細さと、セミロングの髪、それから、彼女が発した声で。


「痛い、痛いから!」

「えっ、あっ、ごめん。て、どうしたんだセラ」


 そう言いながら手を放すと、セラは振り向き様にクロトの顔を殴打した。


「イデッ! な、何すんだ! 痛いだろ!」

「私だって、痛かったわよ!」


 当然と言わんばかりに、怒鳴ったセラに、「ごめん」と謝ったクロトだが、何故か釈然としなかった。

 殴打された頬を押さえながら、セラを見据える。何処かに出かけるのか、やけに軽装だった。


「それで……何の用だよ? こんな時間に。って言っても、何時か分かんないけど」


 不貞腐れながらそう尋ねると、セラは腕を組み胸を張り答える。


「行くわよ」

「……何処に?」


 僅かに首を傾げると、セラが呆れた様な表情を浮かべながら首を振る。


「何処にって、外に決まってるでしょ? 当たり前の事聞かないでよね」

「……ですね。で、外に出て、何するんですか?」


 ジト目のクロトに対し、深々とため息を吐いたセラは、右手を額に当てると、


「鈍いわね。ここを出てくに、決まってるでしょ? 何言ってんのよ」

「へぇー。ここをねぇー。じゃあ、頑張って。それから、おやすみなさい」


 クロトが僅かに頭を下げ、ベッドに倒れこもうとした所を、セラに襟首を掴まれ阻止される。恐る恐る振り向くと、セラがニコッと笑った。

 目と目が合い、クロトは引きつった笑みを返す。


「行くのよ! あんたも!」

「えぇーっ。何でだよ。お姫様なら、お抱えのボディーガードでもいるだろ」


 クロトがそう言うとセラの表情が曇る。


「な、何だよ? 何かあるのか?」


 不安になり問いただすと、セラは周囲を見回し、クロトへと身を寄せ小声で告げる。


「この城の者は信用出来ない。私、聞いたの。父の命を狙ってるって話をしてるのを。だから……」


 セラが口ごもり、胸の前で指をイジイジとしていた。

 クロトも理解した。セラがどうして城を抜け出そうとしているのかを。だが、一つだけ引っかかる事があった。ケルベロスの事だ。

 彼はデュバルに対し相当の忠義を誓い、クロトが見ても分かる程、遥かに戦闘力がある。そんな彼を差し置いて、なぜ自分に声を掛けたのかと。セラの様子からもケルベロスの事は信用している様にも見えた為、一層疑問は膨れ上がった。


「なぁ、何で、俺なんだ? ケルベロスがいるだろ? ここに来て間もない俺よりも、ケルベロスの方がよっぽど頼りになるだろ?」


 自分で言ってて情けなるが、実際そうなのだから仕方ないと両肩を落とす。そんなクロトに対し、強い眼差しを向けるセラは、両拳を握り力強く言い放つ。


「ケルベロスはダメ! 彼だけはダメなの!」

「何でだよ? あの様子だと、ケルベロスはデュバルさんの事、相当慕ってる様だったぞ? セラだって、信頼してるんだろ?」


 セラの過剰な反応に、困った様に眉を八の字に曲げる。

 一方で、セラもセラで何やら落ち着かない様すで辺りをキョロキョロしていた。

 月明かりの差し込む部屋に、沈黙が続く。余程嫌な理由があるのか、それとも、本当はケルベロスの事を信用していないのか、定かではないが、あまりのセラの挙動不審さに、クロトも仕方なく承諾する事にした。


「分かった。行くよ。何にせよ、女の子一人で夜出歩かせるわけにも行かないし……」

「あ、ありがとう!」


 パッと明るくなるセラの表情に、クロトは呆れた様に笑みを浮かべた。そして、つくづく思う。自分は女に弱いんだと。子供の頃からそうだった。いや、原因は分かっていた。冬華だ。幼い頃から冬華と一緒だった為、親からよく女の子に優しくしなければいけないといわれた。その習慣がきっと今のクロトを作り出したのだろう。

 深いため息を落としたクロトは、遠い目で窓の外を見た。月が妙に赤く見えたが、気のせいだと自分に言い聞かせ、セラの方へと向き直る。


「はぁ……やべぇ……なんだか、不安だ」

「それは、コッチのセリフだよ。て、言うか準備しなくていい?」

「準備も何も、この世界に来たばかりで、持ち物なんて無いよ。それよりも、セラはいいのか? やけに軽装だけど、すぐに城に戻ってくるってわけじゃないんだろ?」


 話の流れでクロトも気付いていた。彼女がこの大陸から出ようとしているのだと。だが、それにしては軽装過ぎて、訝しげに思う。


「もしかして、軽い家出程度に考えてるのか? 大陸から出るつもりなら、もう少し荷物必要だろ?」


 不安になり更に言葉を続けると、セラは小さくため息をこぼし、両手を肩の位置まで挙げ、首を大きく左右に振った。


「何言ってんのよ。これよこれ」


 セラはそう言うと腰にぶら下げた小さなポーチを見せ付ける。可愛らしくセラにお似合いのポーチだが、その程度の小さなポーチ程の荷物で大陸を出ようとしていたんだと思うと、一層不安は高まった。

 大きく深いため息を吐き出したクロトは、大げさに両肩を落とし、ジト目でセラを見据える。


「お前さぁ、幾らなんでも箱入り過ぎだろ。これっぽっちの荷物で大陸出ようって、幾らなんでも舐め過ぎだぞ」

「ムムーッ! 凄く私はバカにされた気がする!」


 両頬を膨らすセラが、眉間にシワを寄せクロトを睨むが、もう一度吐き出されたクロトの大きなため息で、その表情は不安げに変わる。


「な、何よ? こ、これ、凄いモノなんだから。そ、そんなあからさまに呆れなくてもいいじゃない」


 最後の方はやけに落ち込んだ様に元気の無い声でそう言ったセラだったが、クロトにはいまいちその凄さは理解出来なかった。クロトにとって、そのポーチはただのポーチにしか見えなかったからだ。

 そんな呆れた様子のクロトの態度に、セラも不安になったのか小声でぶつぶつと呟き始める。


「だ、騙されてないよね? そ、そうだよ。何でも収納できる凄いポーチなんだから。この前試した時、ちゃんと部屋の家具は収納できたもんね。だ、騙されてなんかないよ。うん」


 自分に言い聞かせる様にそう呟いたセラは、何度も頷いた後にまっすぐな目でクロトを見据え、力強く言い放つ。


「こ、これは、凄いモノなんだから! ほ、ホントなんだからね!」


 と、やけに子供っぽく顔を真っ赤にしながら。

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