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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
49/300

第49話 襲撃事件

 時は遡る。

 クロトとケルベロスが再会する数日前へと。

 薬物による暴走から解放されたケルベロスはアオと名乗った男によって、ゼバーリック大陸の中央地帯に広がる広大な密林の奥地に存在する古城ヴェルガードが見える場所へと転送されていた。

 古城ヴェルガードは、獣魔族の長である獣王ロゼが根城としている城で、この密林地帯は全て獣王ロゼの所有地と言う事になる。アオと共にこの場所へと転移してきたケルベロスは、聊か驚いた。アオの転移魔法には固有のマーキングが必要な代物で、古城ヴェルガードが見える付近までアオは一度足を踏み入れていると言う事になるのだ。獣魔族が治めるその密林を、ここまで深く入り込みマーキングをする事はそれ程危険な事なのだ。しかも、この場所を誰も警戒していない所を見ると、彼のマーキングがばれていないと言う事になる。それ程、アオが気配を隠す事に長けた強者だとケルベロスは悟った。

 その後、アオは元居た場所へと戻り、ケルベロスは獣王が居る古城ヴェルガードへと向かった。城下町は活気があり、多くの獣魔族の姿があった。その光景にケルベロスは「相変わらずか……」と呟く。

 ケルベロスが相変わらずと呟いたのは理由があった。この町にケルベロスは以前住んでいた事があった。それはまだデュバルと出会う前。この町でケルベロスはある男の下で修行をしていた。と、言っても一年程の事で、その後すぐにデュバルに引き取られルーガス大陸で過ごしていた為、この大陸での思い出は辛い修行の日々しか残っていない。

 それゆえ、ケルベロスはここへ来るのが嫌だった。あの日々を思い出す事が苦痛でしかなかったからだ。

 いつも以上に眉間にシワを寄せるケルベロスは、不のオーラを全面に放ちながらその城下町を歩む。なるべくなら、知り合いに会わない様にと願いながら。

 不のオーラを全開で歩くケルベロスは近寄りがたく、すれ違う者達は自然と道を開け驚いた表情を向けその背中を見据える。時折、妙な声が聞こえたが、ケルベロスは一切聞き耳を立てず無言でヴェルガードを目指した。

 そんな最中だった。唐突にケルベロスが呼び止められたのは。間の抜けた明るい声が、「あっ! ケルベロスッス!」と響き、それに続く様に愛らしい声が「えっ? 何処何処!」と元気良く轟く。その声にケルベロスは足を止め、表情を僅かにしかめた。まさか、ここに居ると思わなかったからだ。だから、すぐに声の方へと体を向け、その瞳を動かしその声の主を探す。

 最初に目が合ったのは小柄の幼い少年の様な格好をした少女とだった。淡い朱色の短めの髪を揺らす彼女は、大柄のリュックを背負い右手をケルベロスへと振り、「こっちッス!」と幼さ残る声で叫ぶ。

 だが、ケルベロスの視線は彼女を通り越し、その隣に居る少女へと向けられる。綺麗な顔立ちに褐色の肌、茶色の肩口まで伸ばした髪の毛先を恥ずかしそうに右手で触る彼女は、照れ笑いを浮かべ左手を軽くあげた。


「セラ様!」


 その声にセラと呼ばれた少女は慌てた様にケルベロスへと駆け寄る。そのケルベロスの声に道行く人々は足を止めセラの方に視線を集める。そんな視線の中で、セラはケルベロスに声を押し殺し怒鳴る。


「な、何考えてるのよ! こんな所で大きな声で!」

「そうッスよ。セラは有名人ッス。そんな大声で呼んじゃダメッスよ」


 セラの後ろで小柄な少女が腕組みをしそう告げると、ケルベロスの鋭い眼差しが彼女へと向けられ怪訝そうに告げる。


「ミィ。お前もいたのか? と、言うか、お前、人間だろ? 何でこんな所に?」

「私の友人って事で」


 えへへ、と笑うセラにケルベロスは呆れた様な眼差しを向け、小さく吐息を漏らした。


「セラ様も、最大限にご身分を利用しているじゃないですか……」

「だから、敬語は止めてって言ってるでしょ!」


 怒鳴るセラにケルベロスは苦笑する。

 セラは獣魔族の間では有名な存在だった。魔王デュバルの娘だからと言うのもあるが、実はその母親がここの出身なのだ。次期女王となるべき存在だった彼女の娘と言う事でセラはこの獣魔族から慕われているのだ。

 そんな尊敬の眼差しを向けられるセラは、ケルベロスの腕を引く。


「と、とにかく! まずはこっちよ!」

「お、おい。ちょ、ちょっと……」


 腕を引かれ戸惑うケルベロス。だが、有無を聞かさずセラはケルベロスの腕を引き、町並みから外れた森へと出る。小さく肩を揺らすセラは膝に手を置き、深く呼吸を繰り返す。


「大丈夫か?」

「う、うん……」

「それより、ケルベロスは知ってるッスか?」

「何をだ?」


 ミィが唐突に尋ねた事にケルベロスは表情を険しくし、ミィの目を見据える。ミィは言い辛そうに視線をそらすと、苦しそうに呼吸をするセラへと目を向けた。その視線にセラは右手を出し二度頷く。

 そして、呼吸を整え、静かに告げる。


「じ、実は、ちょっと事件があって……」

「事件?」

「それで、自分達追われてるッス。この町に入った時感じなかったッスか? 妙に兵士が居るって?」

「いや、そんなに……」


 大して町を見回したわけでもない為、そんな事全く気付かなかったケルベロスは、渋い表情を浮かべた後に困ったような表情を浮かべセラへと問う。


「で、何をしたんですか? 獣魔族の間ではカリスマ的な存在のセラ様」


 嫌味っぽいケルベロスの言葉にセラは表情を引きつらせ笑みを浮かべると、ミィがその隣で真剣な表情でケルベロスへと告げる。


「実は、先日この国である人が襲撃を受けたッス」

「ある人? 一体、誰だ?」

「ここの兵士が血眼になる位の人ッス」


 ミィの言葉でケルベロスの頭に一人の人物の名が浮かぶ。この国で兵士から慕われる人物。その人の名を思い浮かべたケルベロスの表情は険しく変わり、乱暴な口調で問いただす。


「ど、どう言う事だ! 襲撃って! それに、あの人が襲撃なんて……」

「自分達もまさかと思ったッス。実はパルも一緒だったんスけど……それが、問題で……」

「パル? あの海賊か! アイツが襲ったのか!」


 ミィを怖い顔で睨むケルベロスに、セラは「落ち着いて」と、静かに告げ言葉を続ける。


「パルさんは何もしてないの! て、言うより……そんな事出来る状態じゃ……」


 セラの表情が曇り、ミィも目を伏せる。この状況にケルベロスは何かがあったのだと核心し、腕を組む。


「じゃあ、何であの女海賊が問題になってるんだ?」

「その……」

「獣王ロゼが、銃で撃たれ現在意識不明なんスよ」

「銃で撃たれて? バカな! あの人が銃で撃たれた位で意識不明だと!」


 怒鳴り声を上げるケルベロスに、セラもミィも俯く。二人も分かっているのだ。三人の魔王の一人である獣王と呼ばれる男が、簡単に襲撃された上銃で撃たれて意識不明になる事などありえないと。だが、そのありえない事が起き、セラとミィを獣魔族は血眼になって探しているのだ。

 渋い表情を浮かべるケルベロスは小さく舌打ちをする。そして、二人の顔を見据えた。


「それで、あの女海賊は何処に居る?」

「今は森の奥で隠れてる……けど、多分、見つかるのも時間の問題かも……」

「森の奥? ここか?」

「あーぁ……ややこしくなるからもう止めようよ……」


 涙目で訴えるセラにケルベロスは「すまん」と小声で謝る。とりあえず、あの町があるのは確かに森の奥だが、そことはまた別の奥地に居ると言う事なのだとケルベロスは解釈し、一人頷く。

 大変そうだなぁーと思いながらミィは他人事の様に二人の様子を窺っていた。

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