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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
45/300

第45話 勇者

 人で賑わう食堂『ドード』

 そこに、クロトとルーイットは居た。深々と青いニット帽を被ったルーイットはクロトの隣に座り、対面に座る一人の男へ睨みを利かせていた。若い男達に絡まれていた時に乱入してきたあの男だ。

 のん気に店員を呼びつけ注文をするその男に、クロトも唖然とした表情を向ける。話がしたいと言われここまで着いてきたのだが、まさか食事までする事になるとは思っていなかった。

 敵意は無い様だが、それでもクロトは彼を警戒する。その風貌から彼の強さが見て取れたからだ。ベルの魔力を制御する特訓のおかげか、その瞳が赤く光らなくても薄らとその身から溢れるオーラの様なモノが見える。まだハッキリと見えるわけじゃないが、それだけで十分だった。

 机の下で拳を握るクロトに、注文を終えたその男は笑みを向け静かに告げる。


「安心していいよ。さっきも言ったけど、この町の皆が皆魔族を嫌っているわけじゃない。ここは国境付近だからね。魔族との交流も深いんだよ。と、言っても表沙汰にはされていないけどね」


 腕を大きく動かし身振りを交える男に、クロトは拳の力を抜く。とりあえず、この店内の人達からは殺気は感じず、彼の言う事は正しいのだと核心したのだ。だが、ルーイットはまだ警戒しているのか、テーブルの下でクロトの服の裾をギュッと握り締め、俯き加減でその男に睨みを利かせ続けていた。

 数分間、クロトもその男も話すタイミングが掴めず静寂が席を包み込んでいた。周りの人達の声が聞こえる。魔族がどうとか、勇者がどうたらと言うそんな単語が飛び交う店内を、クロトは静かに店内を見回す。確かに数人人間に交じって魔族の姿があった。


「お待たせしました」


 店員が注文されたメニューも持ってくる。美味しそうな料理ばかりがテーブルの上に並ぶ。宿の食堂で食べた料理とは明らかに違ういい香りを漂わせるその料理に、クロトとルーイットは思わず唾を飲む。今朝は結局何も食べずにギルドに行った為、お腹は空いていた。思わずお腹が鳴ってしまいそうになるが、クロトは何とかそれを堪える。だが、その隣で“ぎゅるるるるっ”と、大きな音が鳴り響いた。


「…………」

「…………」

「…………」


 クロトもその男もこの状況に硬直し、お互い顔を見据え微笑する。一方で赤面するルーイットは俯く。もちろん、その音は店の客全員に聞こえたのだろう。皆の視線がクロト達の座る席へと向けられていた。沈黙するルーイットに代わりクロトが大声を上げる。


「い、いやーっ! 今朝は飯抜きで腹が減ってたんだ!」

「おおっ! そうかそうか! それじゃあ、一緒に食おう! うんうん。お前達も食べると思って多めに注文しておいたんだ!」


 クロトの言葉に合わせる様に彼も笑顔でそう発言する。二人の機転により周囲の人達の視線は離れ、また静かな空気が漂う。

 小さく吐息を漏らしたクロトは、横目でルーイットを見据えた後に男の方に顔を向け苦笑する。一方で、彼も困った様に笑い静かに告げる。


「とりあえず、食べよう。話は食べながらでも出来るし」


 笑顔でそう言う彼の言葉に甘える事にしたクロトは箸を取るとそれをルーイットへと渡した。


「ほら。食べていいって。とりあえず、この人はさっきの連中とは違うから、安心しろ」

「…………」


 赤面したまま沈黙を守る。そんなルーイットの顔が静かに上がり、ルーイットの青い瞳がジッと男を見据えた。二人の視線が交錯し、ニコッと男は笑う。視線を交えたまま動かない二人に、クロトは箸を持ったまま交互に二人の顔を見据え、静かに尋ねる。


「あ、あのぅ……お二人さん?」

「あぁ。ごめんごめん。つい、癖で」

「癖?」

「ああ。相手と対峙した時、相手の目をジッと見て動きを予測する癖がついてて……変な癖だろ?」


 クロトの疑問に対し、軽い口調でそう答えたその男は右手で頭を掻き照れ笑いを浮かべる。そんな男の態度に、ルーイットの警戒も少し薄れたのか、クロトに渡された箸を握るとオズオズと料理へと手を伸ばした。

 それから、暫く静かに食事が進む。ルーイットも余程空腹だったのか、それとも料理が余りにも美味しかったのか、その手が止まる事は無かった。クロトもここに来てようやくありつけたまともな料理に夢中になり料理を堪能し、気付いた時にはテーブルに並んでいた料理は殆ど残っていなかった。


「あ、あの……ごめん。な、何か、夢中になって……」

「いや、いいよ。僕一人じゃ食べきれなかったから」

「そ、そうか?」


 笑顔で答える男に戸惑うクロト。どうもこの男と話していると調子が狂ってしまう。元々、この男の様な爽やかなタイプは苦手としていた。自分に無いモノを持っているからだろう。自己分析をし、引きつった笑みを浮かべ頷くクロトに、男は軽く首を傾げる。


「どうかしたか?」

「えっ、いや、何でも……」


 焦りあたふたとしながら答えると、男は「そうか?」と、不思議そうに返答する。そして、思い出した様に口を開く。


「そうそう。僕は、レッド。キミ達は?」

「俺はクロト。で、こっちがルーイット」

「クロトに、ルーイットか」


 レッドと名乗った彼は右手で二人を指差して名前を呼ぶ。


「うん。覚えた。クロトに、ルーイット!」

「それで、俺らに一体……」


 満足そうに笑うレッドに、クロトは早く本題に入ろうと言わんばかりにそう尋ねる。その言葉にレッドは苦笑し、「ごめん」と二度謝り照れながら頭を掻く。

 その後、店員が皿を片付け、テーブルの上が綺麗に片付いた所で、レッドは手を組み真剣な顔で口を開く。


「実は、僕、勇者なんだ」


 突然の彼の発言に、クロトとルーイットは唖然としていた。真剣な顔で何を言うかと思っていた所に、予測していなかった彼の発言。勇者ってなんだ。と、クロトは思いジト目を向け、ルーイットも危ない人を見る様な冷ややかな視線を向ける。

 爽やかな容姿をしているが実は残念な奴なんじゃないかと、思うと、クロトは彼が可哀想になった。そんな二人の視線にレッドは困った様に笑みを浮かべる。


「あ、あのさぁ。キミら、僕の事哀れんでない?」

「だって……いきなり勇者って言われても……」


 思わずルーイットがそう呟くと、レッドは表情を引きつらせる。


「だ、だよね。いきなり、勇者じゃねぇー……」


 遠い目をするレッドに、クロトとルーイットは哀れみ微笑した。


「十五年前の英雄戦争で、僕の父が英雄様の右腕で、その勇ましい戦いっぷりから、勇ましい者、勇者って言われる様になったって次第なんだよ」


 落ち着いたレッドがクロトとルーイットにそう説明した。

 英雄と共に戦った父に憧れ旅に出る様になったが、その父の印象が強い所為か、彼は人間達の間で勇者と呼ばれる様になったのだ。だが、それは親の七光りと言うわけではないと、クロトは分かっていた。彼の体から溢れるオーラがそれを物語っているからだ。相当の修羅場をくぐってきたのだと、クロトは眉間にシワを寄せ彼の顔を見据えた。


「そんなに怖い顔しなくても……」

「ご、ごめん。それで、勇者が何だって?」


 落ち込むレッドに対し、苦笑しそう問いかけると、レッドは顔をあげ渋い表情を浮かべる。


「この所、この世界で異変が起きてる」

「異変?」

「ああ。キミ達は知ってるかい? 先日、この町に出現したって言う緑色の化け物を?」


 レッドの言葉に、クロトとルーイットは顔を見合わせる。知ってるも何も、二人はその緑の化け物と実際に対峙し、クロトにいたってはその化け物と戦ったのだから。

 顔を見合わせる二人に対し、怪訝そうな表情を浮かべたレッドは、口元に笑みを浮かべた。


「そうか……。やっぱり……」

「えっ? や、やっぱりって?」


 レッドの一言にクロトが反応すると、レッドは頬杖をつき答える。


「この町に出現したあの化け物を倒したのは、君だろ?」


 唐突に確信に迫るレッドに、クロトは息を呑む。その鋭い観察力と推察力に、彼が勇者と呼ばれるに相応しい人格なのだと、クロトは悟った。

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