表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
40/300

第40話 クロトとルーイット

 アレから数日が過ぎ、街には活気が溢れていた。

 人が居なかったとは思えぬ程多くの人で賑わう。

 クロトとルーイットは格安の宿に部屋をとり休んでいた。格安と言っても、文無しの今のクロトとルーイットには宿泊代を払う事は出来ない為、クロトはこの街のギルドで依頼を受けて、何とか宿代を稼いでいた。

 ベッドに横たわり天井を見上げるクロトは「あーぁ」と小さく呻き声を上げ、額に右腕を乗せる。疲弊するクロトの姿に、椅子に座るルーイットはテーブルに頬杖をつき呆れた目を向ける。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫……」

「全く……だから、聞いたでしょ? 本当にあの依頼でよかったの? って」

「だ、だって、ペット探しだって言うし、Eランクの依頼だったから……」


 唸り声を交えながら答えるクロトに、ルーイットは深いため息を吐くと、ジト目を向ける。


「それで、三〇〇ゼニス。普通、怪しいって思うでしょ? 私も何度も言ったわよね? 何か怪しいよって」

「でも、普通、ペットって言ったら小型の動物だと思うだろ……」


 上半身を起こしたクロトが食い気味に言うが、ルーイットは呆れた様な眼差しを向けたままもう一度深いため息を吐く。

 数時間前、クロトはギルドで依頼を受けた。この街に住むある女性の依頼を。その依頼はEランクの依頼で、その内容はペット探し。ペットを捕まえるだけで報酬三〇〇ゼニスはお得だと、クロトは食いついたが、ルーイットはその内容に初めから違和感を感じていた。

 この宿の宿泊代が一部屋、五〇ゼニス。無理して大金を稼ぐ必要も無かった為、ルーイットは別の依頼を進めたが、クロトは強引にこの依頼を受けたのだ。だが、これが間違いだった。

 いざ、そのペットを目の前にし、クロトは唖然とした。全長二メートル程の大きさの猫の様な姿形の大型動物だったのだ。その上、体格に似合わず俊敏な動きで逃げ回り、挙句クロトは大量の魔力を消費する事となった。

 その為、現在、こうしてベッドで横たわっていたのだ。


「くっそーっ……あの化け猫を捕まえて三〇〇って、ボッタクリじゃないか……」

「いや、騙されるあんたが悪いって。それにしても、ビックリよね」


 ルーイットが椅子から立ち上がりカーテンを捲り窓の外へと目を向ける。街道を行き交う人の波を見据え、小さく息を吐き呟く。


「まさか、避難してただけだったなんて」

「あーぁ……そうだな。あの兵士の人も、俺達を避難させる為にワザワザ危険を冒して飛行艇に戻ってきたんだよな……」


 クロトはその目を細め、またベッドへと倒れ込んだ。

 そう。あの時、街に人が居なかったのは、皆避難していたのだ。この街の地下施設へ。クロトとルーイットの乗った飛行艇がこの街に着く数日前に、あの緑の化け物は街に現れた。そして、人を次々に自らのヘドロ状の体に呑み込んで行くその化け物に、この街を治める防衛隊長がすぐさま民の皆に避難勧告を出たのだ。有能な防衛隊長のおかげで、被害は少なかったが、クロトとルーイットを避難させる為に飛行艇へと戻った兵士二人はその行方が分らない事から、あの化け物の肉体に呑み込まれたのだと、朝方届いた情報誌に書かれていた。

 小さく息を吐いたクロトは、瞼を閉じる。申し訳なく思っていた。危険を冒してまで助けに来てくれたあの兵士に対し。隠れずにあの場に留まっていれば、きっとあの兵士も助かったはずなのにと。

 ルーイットも、同じ様な事を考えていた。助けに来てくれた兵士を気絶させ服を奪って脱獄しようとしたのだから。

 二人の口から同時にため息が漏れ、部屋は静まり返る。

 静かに時が過ぎ、クロトは勢いよく上半身を起き上がらせた。その動きにルーイットも視線を向け、首を傾げる。


「どうかしたの?」

「いや、ギルドに向かおうと思ってさ」

「ギルドに? どうして?」

「もう一つ位依頼を受けて、お金を稼ごうかと」


 背筋を伸ばし「んんーっ」と声を出したクロトに、ルーイットは呆れた様に肩を落としため息を吐く。


「宿代は稼いだんだし、今日は休んだ方がいいんじゃない? 魔力だって殆ど使っちゃったんでしょ?」

「そりゃ、そうだけど……魔力なしでこなせる依頼もあるだろ?」

「バカね。ゆっくり体を休めないと、魔力の回復だって遅くなるのよ?」


 ルーイットの言葉にクロトは「そうか」と呟き、ベッドにまた倒れ込んだ。


「そこまで言うなら、休むか……」

「うん。ゆっくり休みなさいよ」

「あっ! そうだ、ルーイット」


 思い出した様に声を上げたクロトはまた勢いをつけて体を起こすと、数枚の紙幣を取り出す。


「これ、ルーイットの分の報酬な」

「えっ? 私の分? いや、別に私は何もしてないから!」

「いや、元々、俺一人じゃ字も読めなかったし、依頼なんて受けられなかったから」

「で、でも、一五〇も受け取れないって」


 驚くルーイットにクロトは強引にお金を握らせると、大きくあくびをしてベッドへと倒れ込んだ。そんなクロトにルーイットは申し訳なさそうな表情を浮かべ声を上げる。


「こ、こんなに受け取れないって言ってるでしょ!」


 そんなルーイットに右腕を持ち上げ軽く振った。


「いいから。買い物でも行って来いよ。いつまでも、同じ服じゃ嫌だろ?」

「そ、そうだけど……」

「まぁ、女の子が無理するなって。また、明日も依頼を受けるんだし、それ程お金の心配は無いだろうし、少し位気晴らしも必要だろ? 服買ったり、美味しいモノ食べたりして来いって」


 クロトの言葉に、ルーイットは目元に涙を溜め、それを右腕で拭ったルーイットは明るく笑顔を見せ、


「ありがとう。クロト」


 と、一言言って頭を下げると、部屋を出て行った。ドアの方から微かに聞こえてくるルーイットの足音が聞こえなくなると、クロトは体を起こしベッドから立ち上がりベルをその手に出した。


『何の用だ?』


 錆びれた剣から不満そうな声が聞こえ、クロトはそれをテーブルへと置き腕まくりをすると、静かに息を吐く。その様子にベルは強い意志を感じ、それ以上何も言わずその光景を見据える。準備運動をする様に屈伸運動をし、腕を伸ばし体を捻る。全身の筋肉を解して行くクロトは、最後に深呼吸を数回繰り返し、瞼を静かに閉じる。


「魔力を……両手に……」


 意識を集中するクロトの体から、魔力が満ちる。薄らと体から漏れる魔力にベルは静かに口を開く。


『魔力が漏れてるぞ。もっと、意識を集中するんだ。集めたい所に、意識を』

「意識を……両手に……」


 瞼を閉じたまま眉間にシワを寄せるクロト。その額に滲む汗が、頬を伝い顎から落ちる。体から漏れていた魔力が徐々にクロトの両手へと集まる。それでも、まだ微量の魔力が無駄に体から溢れ出ているが、今のクロトではしょうがないとベルは何も言わずそれを見届ける。

 両手に魔力が集まり、クロトの口から静かに息が吐き出された。


「これから、どうしたらいい?」

『一定量の魔力をその手に留めろ。と、言っても無理か……。そうだな……。じゃあ、その魔力を指先に集めろ』

「ゆ、指先に?」

『ああ。指先に今ある魔力量を凝縮し留めろ』

「うぐっ……ゆ、指先に魔力を凝縮する……」


 両手に集めた魔力を指先へと移動させる。少しずつ少しずつ。手に集めていた魔力を大量に消費しながら、何とか指先へと魔力を集めた。ものの十分ほどの出来事だが、すでにクロトの服は汗でびしょ濡れになっていた。

 髪の毛先から汗をこぼすクロトは、苦しそうに瞼を開くとテーブルに置いたベルへと視線を向ける。


『よし。次は、両手の指先を合わせろ』

「ぐっ……両手の指先を合わせる……」

『ああ。同じ位の魔力量じゃないと互いに反発しあうぞ』


 ベルの忠告に、クロトは手を震わせながら静かに指と指をあわせるが、すぐに指は弾かれ魔力が消失する。


「うぐっ……」

『一定量を留めていないから、そうなるんだ』

「悪い……もう一回……」


 また、初めからクロトは魔力を練る。魔力も殆ど残っていないはずなのに。

 そんなクロトの声は、廊下まで聞こえていた。ドアにもたれるルーイットは、そんな声を聞きその場に座り込む。


(息抜きして来いとか言っておいて、自分は何してんのよ……)


 と、ルーイットは膝を抱え込み、深く息を吐き天井を見上げ息を吐く。


「何よ……私一人だけ息抜きなんて出来るわけないじゃん……」


 そう呟いたルーイットは静かに立ち上がると足音を立てずに宿を後にした。今、自分が出来る事をする為に、街へとくりだした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ