第289話 強い意思と想い
場所はルーガス南西の森へと移る。
膨張した肉体に刃を生やす異形の姿へと化したガーディン。
腕を一振りすれば、木々はなぎ払われ、衝撃が吹き抜ける。木片が飛び交う中を二本の剣を巧みに使い、突き進むアースは、真っ直ぐにガーディンの姿を見据えていた。
物陰に身を潜めるパルは、そんな激戦に表情を歪める。とてもじゃないが、今のパルが入り込む隙などなかった。
「くそっ……」
思わずそう呟くパルは、奥歯を噛み締める。だが、すぐに気持ちを切り替えた。今は、体力を回復する事に専念する事にしたのだ。
まだ、何か出来る事があるかもしれない。
まだ、やるべき事があるかもしれない。
その為に、少しでも体力を回復しておきたかった。
故にパルは瞼を閉じ、ゆっくりと息を吐き出し全身の力を抜いた。
「どうした! 逃げ回っていて、勝てると思っているのか!」
ガーディンは野太い声を響かせると、体から生やした刃を空へと飛ばす。魔力を帯びた無数の刃が空へと舞う。ゆらゆらと揺れる刃は、各々が一定の距離を保ち、不規則な軌跡を描く。
二本の剣を構えるアースは、深い蒼色の髪を揺らすと鋭い眼差しをガーディンへと向ける。
額からは汗が滲んでいた。平然としているように見えるアースだが、実際はかなり神経をすり減らしていた。
当然だろう。化物と化したガーディンの一撃の威力は相当なものだ。恐らく、一発貰うだけで致命傷となる。
故に、アースも慎重にならざる得なかった。
僅かに呼吸を乱すアースは、右肩で頬の汗を拭い、すり足で右足を前へと踏み出す。
「別に……逃げ回っているわけじゃない」
静かにそう告げたアースは、息を吐くと手にしていた剣を放り、腰にぶら下げた残り二本の剣を抜く。
放り投げた二本の剣は放物線を描き、やがて地面へと突き刺さり、それと同時にアースは地を蹴った。
身を低くし迫るアースに対し、ガーディンは不敵な笑みを浮かべると、右腕を振り上げる。
すると、不規則な軌道を描く無数の刃が動きを止め、一斉にアースへと襲い掛かった。
右から来た刃を右手の剣で弾き、左から来る刃を左手の剣で弾く。だが、圧倒的に数の多い刃は次々とアースを襲う。
それを、右へ、左へとかわし、かわせないと思ったものは剣で防ぎ、弾き返す。だが、弾き返しても、弾き返しても、空を滑空する刃は向きを変え、軌道を変え、再びアースへと襲い掛かる。
当然だが、前進していた足は止まり、アースは無数の刃に囲まれた。ドーム状に軌跡を描きながら、前後左右から不規則に襲ってくる刃に、アースは対応せざる得ない。
右手の剣で刃を左に払い反転し、後ろから迫っていた刃を左手の剣で上へと弾く。
しかし、それを待っていたと言わんばかりに、振り上げられた左手の剣を右から飛んできた刃が弾いた。
「ッ!」
アースの左腕は大きく左に弾かれ、肩がピキッと軋む。それ程、刃の勢いが強かったのだ。
その一撃で、アースのリズムが僅かに崩れ、ガーディンはそこを狙い、刃は一斉に動き出す。
「くっ!」
声を漏らすアースは、正面から来る刃を右にかわし、そのまま反転する。と、同時に左から飛んできた刃を背を仰け反らせかわす。
それから、一歩・二歩と後退し、上体を起こすと、両手に握った剣を構える。
状況は少しだけ悪化していた。当然だ。後退した事により、ガーディンとの距離が遠ざかった。しかも、未だに刃はアースを取り囲んでいる。
このままでは防戦一方で、体力を消耗するだけだった。
複雑そうな表情を浮かべるアースは、滑空する刃を剣で弾き、火花を散らせる。重い一撃一撃に、柄を握る手は衝撃で痺れていた。
それでも、柄を握る力を緩める事なく、ただひたすらに刃を弾き続けた。
「くっくくっ……。その程度で、仇討ちなど片腹痛いな」
ガーディンの野太い声に、アースは不快そうに眉間にシワを寄せる。マスターであるジェスの為にも、コイツだけは一人で倒したかった。一人で決着をつけたかった。
だが、この状況で拘る事ではないと、アースは唇を噛み締めた後、叫ぶ。
「ディーマット! 援護を頼む!」
アースの叫び声に、
「遅いぞ! 全く!」
と、両手から炎を吹かし、空よりゆっくりとディーマットが降り立つ。
短髪の黒髪を揺らすディーマットは、地面に足を着くと両手から噴出する炎を止め、軽く振った。相当の熱を帯びていたのだろう。両腕からは白煙が吹き上がり、熱気がディーマットを包んだ。
ディーマットの登場にガーディンは一瞬不快そうな表情を浮かべたが、すぐにその表情には笑みが浮かぶ。何故なら、ディーマットは両腕を魔導義手、両足を魔導義足となっていたからだ。
最もガーディンが得意とする相手だった。
もちろん、アースもディーマットもその事を知っていた。
ジェスも右腕を魔導義手にしており、それを操られ命を絶たれた。故に、ディーマットは眉間にシワを寄せ、アースを見据える。
「おい……。私では、アイツと戦えないぞ」
「後方からの支援でいい。この鬱陶しい刃をどうにかしてくれ」
「…………分かった。だが、期待はするな」
「ああ。一瞬で良い。隙を作ってくれ」
アースはそう言い、手に持った二本の剣を地面へと突き立て、瞼を閉じた。意識を集中し、気持ちを静める。私怨で戦う事はダメだと分かっていた。だからこそ、アースは自分の気持ちを静め、ゆっくりと瞼を開いた。
その目に宿すは純粋な闘争心のみ。私怨は捨て、ジェスの事は忘れ、アースはただ真っ直ぐにガーディンへと闘志に溢れた眼を向ける。
一方、肘に備え付けられた装填口を開いたディーマットは、そこに魔法石を装填する。右肘、左肘、両方へと魔法石を装填すると、ディーマットは肘を伸ばし、両手を開いた。
「さぁ! 行くぞ! アース!」
「ああ……任せるぞ。ディーマット!」
そう叫び、アースは剣を地面から抜き駆ける。アースが動き出すと、ガーディンも右腕を振り下ろし、空を滑空する刃を一斉に動かす。
右から左からアースへと刃が滑る様に襲い掛かる。一方は右足の足首を狙う様に地面すれすれを、一方は急所を的確に狙う様に首へと向かって。
だが、その刃を、炎の弾が次々と弾く。その炎の弾を放つのは、当然ディーマットだ。
「気にせず突っ込め!」
そう叫び、両手の平に開いた発射口から、炎の弾を撃ち出す。右、左と交互に撃ち出される炎の弾は、滑空する刃を的確に捉えていく。
破裂音を響かせ、次々と弾かれる刃。だが、それだけではすぐに軌道を修正し、すぐにアースへと向かって刃を滑らせる。
「チッ!」
小さい舌打ちをしたディーマットは再び、魔法石を肘へと装填する。今度は黄色の魔法石。
装填すると同時に、ディーマットの手の平に空いた発射口にバチィッと雷が弾けた。
黄色の魔法石は、雷。全てを打ち砕く破壊力を誇る。それを右手にのみ装填したディーマットは、その腕を左手で押さえた。
右目の眼光が開くと、その中に十字のスコープが現れる。これも、高度な技術で作られた魔導義眼だ。
そんな義眼のスコープで狙いを定めるディーマットは、息を吐き、
「上手くかわせよ! アース!」
と、叫び、
「ライジングショット!」
と、右手の発射口から細く長い雷が放たれ、ディーマットの右腕は反動で上へと弾かれた。
眩い雷撃は土煙を巻き上げ、直進する。アースはその軌道を予測し、右へと体を傾けた。その横をレーザー状になった雷が突き抜ける。
「ッ!」
流石にこれはマズイと判断したのか、ガーディンは小さく舌打ちをする。そして、瞬時に飛び交う刃を自らの正面に集め、刃の角を合わせ回転させる。組み合わさった刃は高速で回転し、巨大な盾をガーディンの正面に作り出した。
完全なる守りに入ったガーディン。そのガーディンが生み出した巨大な盾に、ディーマットの放った雷撃が衝突する。
衝撃が広がり、雷が弾けた。ガーディンの作り出した盾はその衝撃で押され、ガーディンの体の前まで戻されていた。
それでも、破壊力抜群の雷撃を抑えたのは大きい。
「ッ……すまん! アース! あとは……」
強大な破壊力を誇る雷属性の魔法石を使用したディーマットの右腕は、黒煙を噴かせ、漏電したのか電気が弾け、火花が散る。
コレでは、右腕はもう使い物にならない。
(たった一発でこの様とは……)
と、悔しそうな表情を窺わせるディーマットに、すでにガーディンの間合いへと踏み込んだアースは叫ぶ。
「十分だ。これで、終わらせる!」
足を滑らせ、ガーディンの背後に回る。膨張したガーディンの肉体では、小回りが利かない。その為、振り返り、防御をする事は不可能。
そう確信し、アースは右足を踏み込むと、
「疾風――」
と、両手に握る剣に精神力を注ぐ。
刃を包むのは暴風。これは、ジェスが最も得意とした技“疾風”の最終形態にして、必殺の一撃――
「――さみだ――!」
「……甘いな」
アースの剣が――腕が――振り抜かれるその刹那、回転する巨大な盾が、地面を削りながら走り、二人の間に入った。
瞬間的に、アースは直感する。
(防がれる!)
と。
だが、もう止まらない。
「――れ!」
声と共にアースは両腕を振るう。二本の剣が、交互に振り抜かれ、嵐の如く刃が巨大な盾を連続で叩く。
甲高い金属音が幾重にも重なり、火花が散る。先程の雷撃を受けた衝撃で、ガーディンの巨大な盾も相当のダメージを負っていたのだろう。
高速で撃ち出される幾重もの斬撃に亀裂が生じる。
(くっ! もう少し! もう少し粘ってくれ!)
アースはそう祈る。だが、その願いは虚しく、アースの振るう剣の刃が、ガーディンの刃の盾と共に粉砕する。
砕けた刃が二人の間に散る。アースの剣の刃は、切れ味重視。薄く軽量化された刃だった。故に、耐え切れなかった。疾風・五月雨の威力と、盾にぶつかる衝撃に。
奥歯を噛むアースは、俯き、その手に握った柄を手放す。刃の無い剣が――、柄だけの剣が、ゆっくりと引力に逆らう事なく、地面に落ちる。
――勝った!
確信するガーディンが不敵に笑みを浮かべる。武器を失い、絶好のチャンスをフイにした。完全にアースの戦意は失われている――はずだった。
だが、ガーディンは目にする。俯くアースから滲み出る闘志が。
武器を失ったこの状況で、何故、戦意を失わない。と、疑念を抱くガーディンは、眉間にシワを寄せる。
その時だった。それは、まるでアースの意思に引き寄せられる様に、空より飛来する。淡い緑色の刀身の細い二本の剣。
風の剣――嵐丸。
アースの足元に刃を交差させ突き刺さる嵐丸は、鼓動を広げるように魔力の波動を放つ。アースの気持ちに鼓舞するように、呼びかけるように魔力を放出する。
「な、何で……それが!」
驚愕するガーディン。その剣を知っていた。その威力も。以前、この剣を持ったアースに完膚なきまでに叩きのめされた。
故に、ガーディンは鼻筋にシワを寄せると、唇を噛み、体を反転させ拳を振り上げる。
「それは、使わせねぇ!」
そう叫び、ガーディンが右拳を振り下ろす。
その瞬間、アースも動く。二本の剣を地面から抜いたアースは、そのまま前進。迫る大きな拳を体を左に傾けかわし、一歩踏み込む。
ガーディンの拳が僅かにアースの頬を掠め、皮膚が裂け血が弾ける。激痛が頬を伝う。表情を歪めながらも、アースは奥歯を噛み痛みに耐える。踏み込んだ右足を外に回すように回転させ、同時に嵐丸を左腰の位置に構える。
精神力を魔力へと変換。そして、その魔力は嵐丸の刃を包み、暴風と化す。先程の比ではない激しい風が、渦巻き高音の鋭い風の音を響かせた。
その音に、その強大な力に、ガーディンも直感したのだろう。
「や、やめ――」
そう叫ぶ。だが、それを遮る様にアースは、
「疾風!」
と、叫び、二本の剣を一気に下から上へと振り抜いた。
疾風と言うには強烈な一陣の風が吹き抜け、ガーディンの肉体に二本の赤い線が走った。
「こふっ……」
ガーディンの口から血が吐き出され、直後にその肉体は鮮血を噴かせ崩れ落ちた。
肩を揺らし、息を乱すアースは、振り抜いた嵐丸を下ろすと、その目から涙を零す。下唇を噛み、声を殺し、アースは泣いた。ジェスの――、義兄の仇を討つこと出来た、と。
場所はルーガス奥地の古城前広場へ移る。
轟音が広がり、地面が砕け散る。爆風が吹き荒れ、土煙が舞う。
その土煙の中から飛び出すのは、黒刀・黒桜を手にする天童。
漆黒の刀身に散りばめられた桜の花びらは薄らと輝きを放っていた。竜胆に頼み打って貰った桜一門・十代目のオリジナル。
――魔剣・魔桜。
――聖剣・桜妃。
この二本にも負けない竜胆の自信作。そして、初代が打ちし名刀・桜一刀と同じく、クレリンスの国宝と成り得る剣だ。
石畳の上に草履を滑らせ、動きを止める天童は、顔を挙げ汗を散らす。
「よく、動きますね」
若返ったラズの若々しい声が響き、空より雷が降り注ぐ。その一撃一撃が石畳の地面を砕き、砕石と土煙を巻き上げる。
最小限の動きで、それらをかわす天童は体勢を崩しながらも、ラズとの距離を縮めていた。
魔力耐性がほぼほぼないに等しい天童にとって、その一撃は致命傷となる。それでも、最小限の動きでこれらをかわすのは、自信の表れだった。
いや、自信と言うよりも、覚悟の表れだ。ラズに辿り着くには、それほどまでギリギリでかわさなければいけないと、言う事だった。
口を開き、荒々しい呼吸を繰り返す天童は、激しく逃げ回りながらも確りとその目はラズを捉えていた。
(距離は大分近付いた。あとは、タイミング……)
天童は呼吸を整えながら、仕掛けるタイミングを考えていた。
正直、天童の間合いは狭い。半径一メートルから二メートル弱。黒刀・黒桜の刀身の長さと限界まで腕を伸ばして届く距離。
出来るならば、懐まで踏み込み確実に刃を当てたいが、相手は魔術師。魔術による遠距離からの攻撃が主流。故に、懐まで踏み込むのは至難の業だった。
「さて……どうするべきか……」
一呼吸置き、天童はゆっくりと右足をすり足で前に出す。
「いつまでも逃げられると思ってるんですか?」
ラズはそう言い、右手を振り上げる。すると、その手に集まっていた魔力が空へと打ち出される。
「これは……」
空に打ち上げられた魔力を見上げる天童は目を細めた。何か嫌な予感がし、天道は黒刀・黒桜を腰の位置に構える。
「さぁ、落ちろ! 流星群!」
ラズがそう言い右手を振り下ろすと、空へと打ち上げられた魔力は弾け、地上へと降り注ぐ。
それは一発一発が強大な威力を秘めた一撃。それを見上げる天童は、表情を引きつらせる。
「ここまでするか……」
呆れた様に息を吐き、天童は黒刀・黒桜を鞘へと納めた。こんな混戦状態の場所にあんな強力なモノが降り注げは被害が甚大だと天童は考えたのだ。
故に、天童はそれが地上に降り注ぐのを防がなければならない。
「抜刀――」
重心を落とし、鞘を握る左手の親指で鍔を弾いた。
「――空!」
それは一瞬。鯉口が火花を散らせ、カチンと黒桜が鞘へと納められた。と、同時に、空から降り注ぐ魔力の塊が次々と空中で破裂する。膨大な魔力の波動を広げながら。
抜刀・空。空を滑空する真空の刃を飛ばす抜刀術。それを、何故今まで使用しなかったのか。それは、肉体に負担が掛かるからだ。
節々が軋み、痛みが電気の様に体中をめぐる。
一発放つだけでも、体を酷使する。故に、確実な決定機以外では使用したくなかったのだが、この場合致し方なかった。
「ほーっ……。そんな飛び道具があったとはな。まぁ、何故、我に使用しなかったのかは不明だがな」
ラズは肩を竦め、首を左右に振った。
「はぁ……奥の手を見られたか……。まぁ、仕方ないか……」
そう呟く天童は、冷や汗を流していた。痛みに必死に耐え、それをラズに気付かれまいと、ゆっくりと足を動かす。
そして、地を蹴る。力強く。
当然、痛みは残っていた。それでも、強く一歩、また一歩と足を進め、ラズとの距離を縮める。
ラズも先程の一発で消耗したのか、険しい表情を浮かべた。
「くっ……スラッシュ!」
ラズが両手を振り抜くと、二つの水の刃が天童へと向かって地面を突き進む。
だが、それを天童は居合い切りで切り捨てる。飛沫が上がり、天童の体を濡らした。
抜刀した黒桜の柄を両手で握り締める天童は、真っ直ぐにラズを見据える。いや、もう天童の眼に映るのはラズの姿だけだった。
迫る天童に、ラズは距離を取るように後退する。すでに、黒桜は抜刀されている。故に、先程の抜刀・空は使えない。
それを分かっているからこそ、ラズは距離を取り、魔力を練っていた。
そんなラズに対し、天童は右足を踏み込むと手にしていた黒桜を手放した。
突然の天童の行動に、ラズの動きが僅かに止まる。思考が巡る。何故、黒桜を手放したのか、その答えを導き出す為に。
しかし、天童は待たない。
「抜刀――」
そう静かな声がラズの耳に届く。
すでに黒桜は抜刀した。しかも、それは今しがた手放した。なら、一体、何を抜刀するのか――。
そこまで考えた後、ラズは思い出す。天童は腰にもう一本、刀を差していた事を――。
「魔導――」
ラズは両手を正面へとかざす。
だが、もう遅い。
「――空!」
天童の左手の親指が鍔を弾き、鯉口で火花が散ると、真空の刃が放たれ――ラズの体を通過した。
一瞬の後に刀は鞘へと納められ、同時に天童は膝から崩れ落ちる。流石に二度目となると、体が耐え切れなかった。
一方、ラズはその場に佇んでいた。だが、次の瞬間、腹部から鮮血を噴かせると、下半身と上半身が別々の方向へと折りたたまれる様に倒れていった。
うつ伏せに倒れる天童は、ゆっくりと体を回転させ、仰向けになると胸を上下に揺らす。
「か、体が……痛い……」
そう呟き、天童は手放した黒桜に目を向けた。
黒桜は地面に突き刺さり、その美しい刃を煌かせていた。