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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
281/300

第281話 密林地帯の戦い

 場所はルーガス奥地の古城から西南に当たる密林地帯へと移る。

 灰色の木々に覆われたその密林地帯に横たわる白き翼竜と黒き翼竜。

 息も絶え絶えで弱りきった二体の翼竜。全力を出した結果、体力が限界を突破したのだ。

 そんな翼竜の傍には、男女合わせて四人が倒れていた。黒き翼竜が穴から飛び出した時に背中から投げ出されたのだ。

 黒き翼竜も背に乗る四人を気にしている余裕がなかった。その為、四人は飛び出した風圧で吹き飛び、地面に叩きつけられる形となったのだ。

 ピクッピクッと頭の上の獣耳を動かすのは、紺色の長い髪で顔を覆う獣魔族のルーイット。その優れた聴力が意識を失っていたルーイットを目覚めさせる。


(あ、足音……)


 無音状態のこの淀んだ空気の中に響く足音が、ハッキリと耳に届いたのだ。

 しかも、複数だ。僅かに鉄の擦れる音も聞こえ、重量感のあるその足音から、ルーイットはすぐに体を起こし、頭を振った。

 体を打ち付けた衝撃で、まだ頭がもうろうとしていた。体の節々が痛んだ。

 それでも、ルーイットはゆっくりと膝を立て、右手を膝に置き、立ち上がる。

 早く他の皆を起こし、この状況の対策を練らなければとルーイットは考えていた。

 左手で頭を抱える。まだ、足元はふらついていた。ゆっくりと赤い瞳を動かし、周囲を見渡す。その間も獣耳を立て、周囲の音を拾い続けながら。

 足音から察するに、まだ距離はある。それでも、急がなければと、ルーイットは一歩踏み出した。

 その瞬間に異変は起こる。聞こえていた足音が一斉に止まったのだ。

 寒気を感じるルーイットの心臓は脈を速める。何か嫌な予感がする。何か大切な事を忘れている気がする。

 ルーイットは声を押し殺し、踏み込んだ足を止めたまま、思考だけをフル回転させる。

 そんな時、再び足音が耳に届く。


(な、何で!)


 耳に届いた足音に、ルーイットは驚愕する。

 何故なら、その足音は方向を変え、真っ直ぐにルーイット達のいる方へと動き出したのだ。

 わけが分からず困惑するルーイットは、唇を噛み右手で頭を一発叩いた。そして、ルーイットは走り出す。早く三人を見つけてなければと、焦りを募らせながら。

 数分後、ルーイットは何とかティオ、パル、ライの三人を見つけ出し、起こした。だが、最悪な事に、対策を練る時間はなく――


「完全に囲まれたな」


 少しだけ段になった場所に身を隠す四人は、完全に囲まれていた。淀んだ空気の所為で相手が誰なのかはハッキリと分からないが、一つの軍隊だと言う事は分かる。

 段から顔を覗かせ様子を窺うライは、オレンジの髪を右手で撫で、ふっと息を吐いた。


「さて、俺達は四人。内二人は女性と来た。ハッキリ言って、戦力的には圧倒的に不利だな」


 肩を竦めるライのコメカミに冷たいモノが押し付けられる。


「それは、私が戦力にはならない。そう言いたいのか?」


 銀色のオートマチック式のハンドガンの銃口をパルはライのコメカミに押し付けていた。

 指はいつでも引き金が引けるようにされていた。

 表情を引きつらせるライは、両手を顔の横まで上げ、


「いやいや。そうは言ってないって。普通に考えた結果の戦力差だろ?」


と、ため息混じりにライは答えた。

 ライの言うとおり、戦力差はハッキリとしている。姿は見えないし、どれ位の兵がいるのかも分かっていない。

 それでも、四人以上いる事は分かりきっていた。

 息を殺すティオは、壁に背を預け深く息を吐く。


「とりあえず、囲まれた以上、相手を把握しないといけないのですが……」


 ティオはルーイットへと目を向ける。聞き耳を立てるルーイットは険しい表情を浮かべ、首を振った。


「ごめん。正確には分からない。けど、部隊ではあると思う。数十から百人近くいると思うんだけど……」


 ルーイットの曖昧な言葉に、ライは腕を組み首を傾げる。


「数十から百……なぁ、一部隊にしては少なくないか?」

「そうだな……。ただ、部隊のメンバーにもよるだろ?」


 ハンドガンを下ろしたパルが、そう口にしティオへと目を向けた。

 メンバーにもよる。それは、魔族と人間とでは能力が違うからと言う意味と、ただの寄せ集めの軍団と精鋭部隊とでもやはり能力が違う。

 その為、少数のこの部隊に恐怖を感じる。

 そんな中、ルーイットは思い出す。先程、この部隊が足を止め真っ直ぐにコッチに向かってきた事を。

 頭の中で引っかかっていた何かが、ゆっくりとほぐれていく。そして、ルーイットは青ざめた顔で、


「皆! 逃げて!」


と、叫んだ。

 突然のルーイットの声に、ティオ・ライ・パルの三人は困惑する。だが、次の瞬間、三人も気付く。

 強力な精神力の波動と、複数の兵が自分達に向け拳を振り被っている事に。


「くっ!」


 瞬時に盾を出すティオ。


「チッ!」


 瞬時にハンドガンを抜くパル。


「ったく!」


 瞬時にナイフを手にするライ。

 三人は臨戦態勢へと入り、打ち合わせもなくバラバラに分かれた。

 ルーイットも三人とは別方向へと飛び退き、遅れて拳を振り被っていた兵士達が地面へと拳を叩きこんだ。

 地面が砕け、砕石が激しく散る。

 地面を転げ体勢を整えたルーイットは紺色の長い髪を揺らすと、頭の上の獣耳をピクリと動かし、振り返る。


「久しぶりですね」


 落ち着いた静かな声に、ルーイットは眉間にシワを寄せた。

 そこにいたのは赤い瞳に尖った耳の魔人族フリードだった。目を覆う程の長い黒髪の合間から覗く穏やかな眼差しを向けるフリードは、腰にぶら下げた漆黒の鞘に納まった剣を抜いた。

 ビクリと肩を跳ねさせるルーイットは、拳を握ると左足をゆっくりと退く。

 まさか、ここで、再会するとは思ってもいなかった。


「どうして……フリードがここにいるのかしら?」


 表情を引きつらせ、そう口にするルーイットにフリードは困ったように笑みを浮かべ、


「獣王であるシオの命ですよ」


と、答えた。



 西の方へと飛んだパルは、海賊ハットを左手で押さえながら体勢を整える。

 ハンドガンを構えた。そんなパルの前に佇むのは、多くの兵を引き連れる獣魔族の青年ガーディン。

 根元が黒く毛先は白い変わった髪の色をしたガーディンはピクピクと獣耳を動かすと、右目を覆う前髪を左手で外へと払った。


「海賊“女帝”のパルか……。まぁ、あんたに僕の相手が務まるのか、疑問だけど」


 肩を竦めのこぎり状の刃をした剣を構える。

 獣魔族にしては妙に華奢で身体能力が高そうに見えないガーディンに、パルは眉間にシワを寄せた。


「あんた、本当に獣魔族かい? 見た感じ、身体能力が高いとは思えないけどね」


 パルのその発言に、ガーディンは大人しげな顔を引きつらせ、額に青筋を浮かべ、


「人を見かけで判断すると、痛い目見るよ!」


と、ガーディンは剣を力いっぱいに振り抜いた。



 東方向へと転げるティオは、盾の先を地面へと突き立て勢いを止めると、すぐに振り返る。

 直後、殺気の篭った拳がティオへと向かって放たれた。


「ッ!」


 反射的に盾を体の前へと出した。ガーディアンとしての本能で、自分に迫る危機に防御姿勢に入ってしまった。

 重々しい打撃音が響き、ティオの盾が吹き飛んだ。吹き飛ばされた盾はやがて、地上へと落ちる。二度、三度とバウンドし、盾は地面に横たわる。その盾にはくっきりと拳の跡が深く刻まれていた。


「ッ……」


 表情を歪めるティオの手は痺れていた。その一撃はとても重いものだった。

 そんなティオの前に立ちはだかるのは、瑠璃色の長い髪を頭の後ろで束ねた男、バロンだった。

 歳は三十代から四十代程の中年だろうが、その体は筋肉質で今も尚現役の戦士だ。無精ヒゲを生やした顎を左手で擦るバロンは、パイプタバコを取り出すと、鼻から息を吐いた。


「竜王の息子だな。お前は」


 低く威圧的なその声に、ティオは額から一筋の汗を流した。

 貫禄が違いすぎる。今まで、どれ程の死線を潜ってきたのか、と思いたくなる程、圧倒的な貫禄だった。

 今の自分で果たして相手が務まるのか、そう考えてしまう程、ティオは萎縮する。


「竜王プルートの息子がどれ程のものか、見せてもらおうか」


 バロンはそう言い、ゆっくりと指の骨を鳴らしながら拳を握り締めた。



 段になった地面を飛び越え北の方角へと移動したライは、密林を疾走する。

 木の幹を蹴り方向を変えたり、木の枝を掴み跳躍したりと、最大限に自分の特徴を全面に出すライだが、流石は獣魔族。

 どれだけ素早い動きをしても、どれだけ奇をてらう行動を取ろうとも、全く効果はなかった。

 当然だろう。優秀なハンターと言えど、ライは人間。絶対的な身体能力の高さを持つ獣魔族の前では、ただの人に過ぎないのだ。

 密林の中心で足を止めたライは、大きく口を開き肩を上下に揺らす。

 ここまで全力で駆け抜けてきた。なるべく、獣魔族との戦闘は――いや、この少年とは戦いたくなかった。

 奥歯を噛むライの目の前に太い木の枝から金色の髪を揺らす少年が飛び降りた。小柄で、ほぼライと同じ背丈。赤い瞳に獣耳。幼さの残るその顔は、ライの見知った顔だった。


「シオ……お前と戦う事になるとは……思わなかった」


 金色の髪を揺らすシオに、ライはそう告げ唇を噛み締める。

 ナイフの柄を握り締めたライは、すり足で右足を前へと出し、重心を落とす。これ以上、逃げるのは無意味。もう戦うしかないのだと、ライは覚悟を決めたのだ。


「オイラも、お前と戦う事になるとは思っていなかった」


 静かにそう告げたシオは右足をゆっくりと踏み出し、拳を握った。

 静寂が辺りを包み、淀んだ空気が二人の体へとまとわりつく。スピード重視の二人。勝負を決めるのは、一瞬だった。

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