表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
270/300

第270話 演説

 睨み合うクロトと漆黒のローブをまとう男。

 二人の赤い瞳が交錯し、数秒の時が流れる。左腕を未だ鎖で壁に繋がれるクロトは、深く息を吐いた。と、同時に左手に力を込め、鎖を引きちぎった。

 脆くなっていたのだろう。壁はその力に耐え切れず、金具ごと崩れ落ちた。

 血溜まりの上へと着地すると、足に血が跳ね、付着する。だが、クロトは気にした様子はなく、掴んだ男の腕を引きその顔を睨んだ。


「一体、我に何の用だ」


 クロトとは違う低く威圧的な声。鋭い眼光もその身にまとう殺気も、全てがクロトとは別のモノだった。

 フードを深々と被る男は、一端瞼を閉じると、静かに深呼吸を一つする。そして、再び瞼を開くと真っ直ぐにクロトの目を見据え答えた。


「私は、あなたの復活を待ち望んでいた。ずっと……この時を!」

「我の復活?」


 不快そうにクロトが眉を顰めると、フードを被った男は肩を揺らす。

 笑っていた。その口元に不敵な笑みを浮かべて。


「えぇ……長かった。あなたが、闇へと葬られてから……長い年月が……」

「…………」


 男の言葉に、無言で耳を傾けるクロトは、手首を回し周囲を見回す。

 聞いているのか、聞いていないのか分からぬ態度にフードを被った男は僅かに表情を引きつらせる。


「私の話を聞いていますか?」

「ああ……。ご苦労な事だな。しかし、何故、今更、我を復活させる? 我の肉体は焼かれ、以前の力は封じられた。我の意識はこの者の中だ。肉体も無い我を復活させる理由などないだろ」


 どうにも否定的なクロト――いや、クロトの肉体を借りるもう一つの人格。

 そんな彼に、フードを被った男は小さく首を振る。


「肉体は無くとも、あなたの力は健在です。それに、復讐したいと思いませんか? あなたをこんな風にした、この世界の者達へ」


 大手を広げ、そう宣言するフードを被った男に、クロトの肉体を借りるもう一つの人格は、深く息を吐く。

 呆れた様子だったが、すぐに口元に笑みを浮かべたクロトは、肩の力を抜いた。

 鋭い眼差しをフードの男へと向ける。


「この世界の者達? それは、お前も当てはまるがいいのか?」

「ふふっ……私の命でいいのなら、差し上げますが」


 右手を胸へとあて、そう告げるフードの男に、クロトは小さく首を振った。


「よい。お前の命なのいらぬ。まぁ……いいだろう」

「ならば、早速演説の準備を」


 深く頭を下げたフードの男はそう言い、歩き出す。

 その男の後にクロトは続く。いつの間にか傷ついた肉体は再生し、衣服も元に戻っていた。


「久方振りの肉体か……まだ、馴染まぬな……」


 右手を握ったり開いたりするクロトは、その手を真っ直ぐに見据えていた。



 古城の広場には、多くの人が集まっていた。

 人間から魔族まで、多くの人が。

 皆、完全武装し、隊列を組んでいた。右翼には、龍魔族。左翼には獣魔族。中央には人間。その後方には魔人族。

 総勢、数十万の人が集まっていた。

 その光景を古城の窓から見据えるのは、真紅のローブをまとう魔術師と、ひび割れた漆黒の鎧をまとう男の二人。

 魔術師の方は不快そうに眉間にシワを寄せ、袖口から覗く義手の右手で頭を抱えた。


「どう言う事だ? こいつはいったい……」


 群青の髪をフードから揺らす魔術師は、幼さの残る顔で隊列を組む兵を見据える。こんなにも不快な事はない。そう言いたげな冷めた目を向けていた。

 一方、ひび割れた漆黒の鎧を着た男は、黒髪を揺らすと腰に手を当てる。


「いよいよ。黒き破壊者の復活。盛大に祝うべきだろ」


 重々しい鉄のぶつかり合う音を響かせる鎧の男に、魔術師は相変わらず不快そうに眉を顰める。


「お前はバカなのか? この状況だ。見てみろ。獣王の息子に、番犬、仕舞いにゃ竜王の第二王子。いつから、ウチはこんな大所帯になったんだ?」


 両手の平を上へと向け、魔術師は肩を竦めた。そもそも、この城にはごく少数のメンバーしか居なかったはずなのだが、ここ一週間でこの大所帯になっていた。

 しかし、不満そうな魔術師に対し、鎧の男はジト目を向ける。


「お前……自分が作った薬品の影響だろ」

「ああ? 薬品? あぁ……アレか。まぁ、作った俺が言うのもなんだが……ここまでになるとは思ってなかったな」


 呆れた様な眼差しで、魔術師は窓の外を眺めた。

 そこに、ゲタを鳴らす音が響き、和服に長い黒髪を結った男がやってきた。

 腰にぶら下げた刀に左肘を乗せる和服の男は、不機嫌そうに眉間にシワを寄せる。


「なんだ? やけに不機嫌そうだな」


 姿を見せた和服の男に対し、魔術師が軽い口調でそう告げた。その瞬間に、和服の男は鋭い眼差しを魔術師へと向け、腰にぶら下げた刀の柄を握った。


「おい! ここでの戦闘はご法度だぞ」


 和服の男の突然の行動に、鎧の男がそう告げ、右手で指差す。

 眉間にシワを寄せる和服の男は、奥歯を噛むと柄から手を離し、深く息を吐き出し告げる。


「黒き破壊者が目覚めたそうだ。奴の演説が始まる。全員、屋上に来いとの事だ」

「おうおう。黒き破壊者が……いよいよか」


 嬉しそうに微笑する魔術師は、胸の前で右手を左袖に左手を右袖に突っ込み肩を揺らす。


「早速、向かうとするか……」


 重々しい鉄のぶつかり合う音を響かせ、鎧の男は歩き出す。そのうるさい足音に、魔術師は目を細め、和服の男は不快そうに瞼を閉じた。



 数十分後。

 古城の屋上に、鎧の男、魔術師、和服の男の三人と、漆黒のローブをまとう男に、黒き破壊者――クロトの五人が集まっていた。

 右から、和服の男、魔術師、クロト、漆黒のローブの男、鎧の男の順に壇上に佇み、広場に集まった兵団を見下ろす。

 広場に集まった種族の異なる兵士達も、皆壇上にいる五人を見据える。

 静寂が周囲を包む。重々しい空気が場を支配していた。

 緊張感が高まる中で、クロトがゆっくりと前へ出ると、首の骨を鳴らした。


「我は、かつて最悪の魔王と呼ばれた者。汝らは何だ? 何の為にここにいる?」


 クロトの問いかけに、広場に集まった兵士達がざわめく。

 一方、クロトの背後に佇む四人も訝しげな表情を浮かべる。


「我は、かつて、この世界を滅ぼそうとした。だが、結果は、三大魔王と人間たちの手により、封じられた」


 静かにそう告げたクロトは、小さく息を吐き出すと集まった兵を見渡す。


「我は間違った事をしたとは思っていない。あの時、我の行動は真っ当だった。腐りきったこの世界を正すには、それが正しいと思っていた」


 クロトの発言に、魔術師は眉を顰める。


「一体、何の話だ?」

「さぁな」


 隣に並ぶ和服の男は、興味がないと腕を組み空を見上げていた。

 そんな折、漆黒のローブをまとう男は深く息を吐いた。


「やはり…………か」


 そう呟き、俯いた。

 そして――


「我は、この者の目を通し、世界を見た。さまざまな光景を。人間も魔族も、同じように過ちを犯し、同じように傷ついていると知った。今はもう、あの時とは違う。人間と魔族が――ぐふっ!」


 クロトは、吐血する。

 腹部から漆黒の刃を突き出して。背後から突き刺された。魔剣・魔桜で。

 魔力が奪われ、クロトの膝が落ちる。


「やはり、感情は不要だな。まさか、貴様が、ここまで腑抜けになっているとはな。残念だ」


 フードを被った男がそう呟くと、魔剣・魔桜から禍々しい魔力がクロトの中へと流れ込む。


「ぐっ……きさ……ま……」

「私が欲しいのは、お前の力だ。これは、解放したテメェの魔力と、フィンクで集めた魔力だ。テメェの自我を奪うには十分過ぎる魔力だろ? 肉体の再生が終わるまでは、ソイツの肉体で暴れまわってくれ」


 フードを被った男はそう言い、不敵に笑みを浮かべると、


“黒き破壊者よ”


と、クロトの耳元で囁いた。

 直後、クロトの意識は完全に消え、恐ろしい程の膨大な魔力が周囲一帯へと広がった。

 それにより、この大陸を覆い隠していた雲が一瞬にして消滅した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ