表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
262/300

第262話 漆黒の鎧の男と剣豪・蒼玄

「ッ!」


 激しい金属音と共に火花が散り、クロトは後方へと弾かれた。

 短刀・轟雷で、蒼玄の振り抜いた刀・月下夜桜を受け止めたのだ。

 だが、蒼玄のその体からは想像出来ぬ程の力で、クロトは弾き飛ばされていた。

 和服は肉体を隠すのにはいい具合にぶかぶかだった。

 故に、気付きにくいが、蒼玄の体は鍛え上げられた筋肉で引き締まっていた。

 それに、クロトが気付いたのは、弾き飛ばされた瞬間だった。

 今までは手を抜いていたのだろうと思える程、その一撃は凄まじく弾かれたクロトは何度も何度も地面を転げる。

 すぐさま体勢を整えるクロトだが、刹那――


「うおらっ!」


と、クロトの背後でハンマーを振り上げた鎧の男が、真っ直ぐにそれを振り下ろす。


「ッ!」


 瞬時にその場を飛び退くクロト。

 遅れて、鉄球が石畳の地面を砕く。

 石畳の地面には亀裂が走り、僅かな砕石が跳ぶ。

 地面に両手を着き前転したクロトは、すぐに反転し鎧の男へと目を向ける。

 石畳の地面に減り込んだ鉄球をゆっくりと持ち上げる鎧の男は、顔を覆う兜の中に薄らと笑みを浮かべた。


「ふっ……どうした? 逃げ回ってばかりだな」


 不敵な声でそう言う鎧の男に、険しい表情を浮かべるクロトは、チラリと蒼玄へと目を向けた。

 悠長に話している余裕は無い。

 蒼玄と鎧の男、二人を相手に、そんな余裕などあるわけがなかった。

 轟雷を握りなおし、白い息を吐く。

 一方、鎧の男と違い、不快そうな表情を浮かべる蒼玄は、月下夜桜と脇差・桜嵐をゆっくりと構え、身を低くする。

 すでに動き出す準備の出来た蒼玄へと体を向けるクロトは、更にチラリと鎧の男に目を向けた後に、轟雷を胸の前で横に構えた。

 今の所、クロトが轟雷で使える技は、雷迅のみ。

 あれは、光速の突き。正直、短刀で突きと言うのは、非常に相性が悪い。

 本来、短刀であるならば、突きよりも、斬り付ける技が相性がいい。

 属性であるならば、小回りも利き、速度もある風属性の方が最も短刀にはピッタリの属性だった。

 正直、これは、竜胆のミスだと、クロトは考えていた。

 しかし、ここで、クロトは思う。武器作りに対して絶対の自信を持つ竜胆が、こんなミスをするわけが無い。

 きっと、轟雷を短刀にしたのには訳があるはずだと、クロトは咄嗟に考えた。

 しかし、この状況で悠長に考えているだけの時間は無い。

 石畳の床を蹴り、蒼玄が無音でクロトへと迫る。

 音はなくとも、その気配で蒼玄が近付いている事に気付いたクロトは、考えながらも体を動かす。


(何で、竜胆は、轟雷を短刀に……)

「――フンッ!」


 切れよく息を吐き、蒼玄は脇差・桜嵐を振り抜く。

 刹那、桜嵐は刃に風をまとう。

 それを、轟雷で受けようとしたクロトだったが、瞬時にそれが危険だと直感する。


「ッ!」


 身を仰け反らせるクロトの前髪を桜嵐の刃が掠める。

 風が、クロトの右頬を撫で、その瞬間にクロトの右頬が裂け、鮮血が噴出す。

 奥歯を噛み、表情を歪めるクロトは、後方へと飛び退き、左手の甲で右頬を押さえる。


(な、何だ……。何が起きた?)


 風が頬を撫でただけ。

 それなのに、何故かクロトの頬には斬られたような傷が付けられ、血がドクドクと溢れていた。

 傷事態はそれ程深くない。だが、出血が止まらない。

 故に、クロトは悟る。


「妖刀……か」


 その性質は、妖刀血桜と桜千の二本と同じ。

 血の凝血を鈍らせる力。

 まさしく血を吸う妖刀の力だった。

 しかし、蒼玄はそのクロトの発言に不快そうに眉を顰める。


「妖刀では無い。これは、先代が打った妖刀・血桜と桜一刀を組み合わせて作られた最高傑作だ」

「桜一刀と?」


 クロトはそう呟き、怪訝そうな表情を浮かべた。


(て、事は、刃に触れてもいないのに頬に傷が出来たのは、桜一文字の特性?)


 蒼玄の発言から、その答えにクロトは行き着いた。

 だが、疑問は浮かぶ。一体、桜一刀の特性とは何なのか、と言う事だった。

 もちろん、クロトが考えているだけの時間は無い。

 すぐに、蒼玄が間合いを詰め、月下夜桜を右下から振り抜いた。


「くっ!」


 声を漏らすクロトは、それを防ぐ為に轟雷を振り抜く。

 二つの刃が衝突し、衝撃が広がる。

 火花が散り、クロトの体が大きく弾かれた。


「ッ!」


 宙へと舞うクロトは漏らす。

 刹那――


「お前の骨を打ち砕くぜ」


と、背後で鎧の男の声が響く。

 クロトはチラッと視線を後方へと向ける。

 その視線の先にはハンマーを振り被る鎧の男の姿があった。

 完全に待ち受けている。クロトが落ちてくるのを。

 しかし、この状況で、クロトに出来る事は限られていた。


(属性硬化! 土!)


 全身を土属性で硬化する。

 それと同時に、鎧の男はハンマーへと魔力を込めた。


「爆撃弾!」


 左足を踏み込んだ鎧の男は、目の前へと落ちてくるクロトへと、ハンマーを振り抜いた。

 鈍く風を切る赤く輝く鉄球が、クロトの背中へと減り込んだ。


「うぐっ!」


 奥歯を噛むクロト。

 硬化した背中が軋む。

 硬化されたはずのその皮膚に亀裂が走る。


「ぐっ!」


 クロトの表情が歪み、次の瞬間鉄球が激しい爆発を起こす。

 爆風が広がり、黒煙が周囲を包んだ。

 その中から弾かれたクロトは地面を転げ、やがて動きを止めた。


「うっ……ガハッ!」


 石畳の上に蹲るクロトは、血を吐く。

 そして、丁度硬化の効果が切れると、クロトの亀裂の走ったその体から血が噴出した。

 硬化しても尚、ダメージを与える程の一撃に、クロトの表情は歪む。

 これほどまでとは、思ってもいなかった。


「ゲホッ! ゲホッ!」


 咳き込みもう一度血を吐いたクロトは、左手の甲で口を拭いた。

 状況は最悪だった。

 やはり、一人でこの二人を相手にするのは分が悪い。

 ゆっくりと体を起こすクロトは、苦しそうに瞼を閉じ真っ白な息を荒々しく吐き出す。


「あれをくらってまだ立つか」


 振り抜いたハンマーを石畳へと下ろした鎧の男は、静かに肩から力を抜いた。

 すでに勝敗は決している。

 背中をやられたクロトに、一撃一撃を防ぐ程の耐久度はない。

 背中から溢れる血がクロトの衣服を赤く染める。

 それでも、クロトは立ち上がると、轟雷を構えた。

 そんな折だった。

 何かが風を切る音が上空から響く。

 その音に、クロトも、蒼玄も、鎧の男も空を見上げる。

 直後だ。


「部分獣化! 右腕! 虎王!」


 と、聞き覚えのある声が響くと共に、鎧の男を太く強靭な拳が地面へと叩きつぶした。

 地面が砕け、衝撃が広がり、砕石が土煙と共に舞う。

 轟音に、クロトは思わず身を屈める。

 一方で、蒼玄は視線をまだ上空へと向けていた。


「超電磁砲!」


 高らかに響く声と共に、上空から地上に居る蒼玄目掛け、凄まじい衝撃が閃光と共に飛来した。

 一直線状に圧縮された雷が地面を抉り、石畳を荒々しく砕く。

 黒煙が土煙と混ざり合い、一帯は、酷い惨状となっていた。

 石畳は完全に捲れ上がり、地表があらわとなり、深い穴が開いていた。

 何が起こったのか分からず、ただただ呆然と立ち尽くすクロトは、肩の力を抜き白い息を吐く。


「やっほーっ。助けにきたよー」


 強靭な拳を地面に突き立てた少女が、ピョンと跳躍し、体勢を整えて、そう口にする。

 満面の笑顔に、紺色の髪の合間にピョコンと立った二つの獣耳をひく付かせる。


「えっ? えっ!」


 驚くクロトは、目をパチクリとさせる。

 そこに居たのはルーイットだった。


「な、な、何で?」


 久しぶりに会うルーイットへと、クロトは驚きの声を上げる。

 正直、現状を理解できるほど、クロトは冷静ではなかった。

 そんなクロトの後方に静かに何かが降り立った。


「ったく……無謀な事を」


 聞き覚えのあるもう一つの女性の声が、後方で響く。

 振り返るとそこには、女帝パルの姿あった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ