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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
260/300

第260話 グランダース王国 王都決戦

 五日が経ち、クロトとティオはようやくグランダース王国王都まで到着していた。

 吹雪が治まったのは、三日前。

 故にクロトとティオは三日で王都まで辿り着いたのだ。

 白い息を吐くクロトは、フードの先を右手で掴むと顔を隠すようにそれを前へと引いた。

 一方、ティオも長めのマフラーを首に巻きつけ、口元完全に隠していた。

 王子であるにも関わらず、ティオは国民にさほど顔は知られていない。それでも、堂々と町を歩けば、気付く者がいるかもしれないと、顔の下半分を隠す事にしたのだ。

 マフラーは先日寄った村で貰ったものだ。

 黒と白の縞模様の手編みのマフラー。

 何故、その人がティオにこのマフラーを譲ってくれたのかは分からない。

 正直、クロトは何かあるんじゃないかと疑ったが、それでもティオは国民を信じられず、王となる器があるだろうか、と快くマフラーを受け取った。

 ガガリスの件以降、ティオにも王となる為の自覚が少しだけ芽生え始めていた。

 そして、グラドにこのまま王位を――、この国を――、託していけないと、思い始めていた。

 完全防寒のクロトは、皮の手袋をした右手を胸の前で握り、


「さて……いよいよ、本丸だな」


と、眉間にシワを寄せた。

 正直、ここまで何事もなく進んでいる事が、気持ち悪いとクロトは感じていた。

 ガガリスの事は恐らく知っているだろう。

 なのに、グラドが何もしてこないと言うのは、少々気がかりだった。

 まるでクロトとティオをココにおびき寄せているそんな気がしてならない。

 それでも、セラを救い出す為には、そのグラドの策に乗らなければならなかった。

 マフラーを右手で掴んだティオは、鼻から息を吐くと小さく頷く。


「えぇ。いよいよです。行きましょう」


 低く篭った声でそう言うティオに、クロトも小さく頷いた。

 ここからは、敵の本丸。

 一層、気を引き締めなければならない。

 何が待っているのか、分からないのだ。

 足並みを揃え、二人は歩みを進める。

 街は非常に静まり返っていた。

 早朝と言うのもあるのだろうが、この静けさはおかしい。

 そして、町中に不快な雰囲気が漂っていた。

 足元から冷気の様にゆっくりと。

 僅かにクロトの右目が赤く輝く。その眼にはその不快なオーラが霧状に浮かび上がっていた。

 ゆっくりと、二人の足は進む。

 だが、クロトの足が自然と止まった。


「どうしました?」


 クロトよりも数歩前へと進んだティオは足を止めると、振り返った。

 クロトとティオの視線が交錯する。

 その中で、クロトは静かに口を開く。


「先に行け」

「はい?」


 クロトの言葉に、ティオは訝しげな表情を浮かべる。

 その直後だ。クロトはティオの体を突き飛ばし、その手に雷の剣・轟雷を呼び出した。

 突き飛ばされたティオが尻餅を着くのと同時に、金属音が響き衝撃が広がる。


「くっ!」


 奥歯を噛むクロトは、受け止めた刃を弾き返し、自分に切りかかってきた男を右足で蹴り飛ばした。

 結った長い銀髪を揺らす和服姿の男は、草履を滑らし刀を構えなおす。

 物静かな顔立ちに、鋭い切れ長の眼差し。

 体付きは見た目よりもガッチリしているように思える。

 その和服の男は、薄紅色の唇を開くと白い息を吐き出す。

 すると、腰にぶら下げた脇差へと手を伸ばした。

 表情を歪めるクロトだが、すぐにティオへと視線を向ける。


「行け! お前は、自分の兄貴と決着をつけるんだろ!」


 クロトの言葉に、ティオは小さく頷くとすぐに立ち上がり、


「すみません! ここはお任せします!」


と、叫び走り出す。

 しかし、脇差を抜いた和服の男は、鋭い眼差しをティオへと向けると僅かに雪の積もった石畳の道を駆ける。


「行かせるか!」


 そんな和服の男へと、クロトのとび蹴りが決まる。

 横からの一撃を肩に受けた和服の男は地面を転げた。

 ティオはそんな和服の男へとチラリと目を向け、怪訝そうな表情を浮かべながらも城へと向かって駆けた。最短距離は知っている。

 故に、ティオはすぐに路地へと入った。

 脇差と刀の二本を構える和服の男は、薄紅がかった刃の脇差を逆手に持つ。


「拙者の邪魔をするな」

「悪いが、お前の相手は俺がする事になってる。今回の件は、アイツら家族の問題なんでな。下手に横槍を入れられると、困るんだ」


 クロトがそう言うと、和服の男は不快そうに眉間にシワを寄せる。

 何を考えているのか、感情が読めない。それほど、男の表情の変化は分かり難い。

 その為、クロトも少々戸惑っていた。

 そもそも、人間であるこの男が、何故龍魔族のグラドの側についているのか、分からなかった。


「拙者の目的は、侵入者の排除」

「なら、残念だが、その目的は達成されている」

「…………?」


 わけが分からないと眉を顰める和服の男に対し、短刀である轟雷を構えるクロトは、


「アイツはこの国の人間だ。侵入者じゃない。ただ、戻ってきただけだ」

「…………そうか。だが、関係ない。奴は、主の敵。ならば、排除すべき対象だ」


 そう言い、和服の男は草履で石畳の地面を蹴り、右手に持った刀を振り抜く。

 初撃をクロトは身を仰け反らせかわし、次の脇差での一撃を轟雷で受け止める。

 二本の刃が衝突し、火花が散る。

 激しい衝撃にクロトの体が大きく弾かれた。


「くっ!」


 表情を歪めるクロトだが、その視線は真っ直ぐに和服の男を見据える。

 薄紅色の刃をした脇差を、和服の男は引くと、


「――一点突き」


 静かにそう口にすると、和服の男はクロトの心臓に目掛け、脇差を突き出す。

 その一撃に対し、クロトは体を捻り上半身をそのまま後ろに倒し、左手を地面に着く。そして、右足を振り抜いた。

 右足が突き出される和服の男の左手を内側へと蹴り、男の体を右へと流す。

 一瞬、不快そうな表情を浮かべた和服の男だったが、すぐに左足を踏み込む。

 その足を軸にし、右に体を回した和服の男は、そのまま右足の踵でクロトの左足を払った。


「ッ!」


 軸足が払われた為、クロトは地面へと仰向けに倒れる。

 すると、和服の男は追撃の為に右手に持った刀を振り上げる。


「一刀両断!」


 振り上げた刀が真っ直ぐにクロトの首を狙う。

 しかし、刃は地面を叩く。

 クロトは地面を転げ、刃を回避したのだ。

 地面が砕け、砕石が散る。

 基本技である一刀両断だが、とても恐ろしい切れ味だった。

 体を起こすクロトは、肩を上下に揺らすと、目を細める。

 ますます分からない。

 これほどの男がグラドの側についている理由が。

 そんな迷いを窺わせるクロトに、和服の男は何も言わずただ刀と脇差を構える。

 そんな折だった。クロトの背後に強い波動が上空より降り立った。

 轟々しい衝撃音と激しい衝撃波が周囲一帯へと広がる。

 舞い上がる土煙へと、顔を向けるクロトは、険しい表情を浮かべた。

 この和服の男だけでも厄介だと言うのに、このタイミングで最悪の敵がそこに居た。


「久しいな……。バレリア以来か……」


 静かな声と共に、舞い上がる土煙の中から、漆黒の鎧を纏った男が姿を見せた。

 その男をクロトは知っている。

 以前、バレリアで惨敗を喫した全ての技を跳ね返す鎧をまとう男だった。

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