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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
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第26話 逃げろ

 二つの炎がぶつかり合う。

 激しい衝突の末、周囲を眩い光が包み込み激しい爆発が起きる。周囲へと一気に広がる衝撃。それが、外壁を――赤黒い炎の壁を――吹き飛ばし消し去った。その衝撃に、クロトもクリスも吹き飛ばされ、それを観戦していた男達もその衝撃に耐え切れず地を転がっていた。

 眩い光が消え、衝撃が弱まる。瓦礫が散乱し、二人の放った炎がぶつかり合ったその場所は大きく抉れていた。そこから少し離れた場所に地面を抉り横たわるクロトの姿があった。僅かながらだが、クロトは力を抑えた。クリスが女だと言う事もあったが、それ以上にクロトは誰も傷付けたくなかった。その結果、クリスの放った炎の方が威力で勝り、クロトの方に強い衝撃が流れてきたのだ。

 抉れた地面に蹲るクロト。体中傷だらけで、血が滲む。意識はまだ残っていた。ただし、それもすでに途切れてしまいそうな程弱々しく、瞼は何度も閉じそうになっていた。


「うっ……くぅ……」


 左手を地に着き、右肘を立てる。ゆっくりと上半身を持ち上げ、地を見据えたまま苦しそうに両肩を揺らす。右手に握った魔剣ベル。その切っ先を地面へと突き立て、それを支えにして膝を立てる。


「はぁはぁ……」


 ようやく顔を上げ、周囲を確認する。大きく抉られた地面と破壊された外壁を見据え、クロトは息を呑む。まさか、ここまで被害が及ぶと思っていなかった。その為、ゆっくりと怪我人がいないかどうかを確かめる様に視線を動かす。

 幸い、その辺一帯に一般人はいなかったらしく、怪我をしているのはその場に居た武装集団のみ。それを確認したクロトは、安心した様に肩の力を抜くと、空を見上げ静かに瞼を閉じた。


「よかった……」


 静かに呟く。誰にも聞き取れない程小さな声で。

 ダメージと初めて行った強力な術の反動で、体は重くダルかった。それは、クロトが余分に大量の魔力を消費した証拠だった。

 過去にあの業火を何日も両手に灯して続けた事から、クロトの魔力量はこの世界でも群を抜くほど大きく、多少の無理を行っても魔力が尽きる事など無いが、今のクロトには殆ど魔力は残されていなかった。

 道を塞ぐために出した業火の壁と、今しがた使った術に無駄に魔力を使いすぎたのだ。

 そして、もう一つ。魔剣ベルの存在だった。錆びれていた魔剣ベルは、クロトの魔力を吸い元の姿を取り戻し、今も尚クロトの魔力を吸い続け現状を保っているのだ。


「はぁ……はぁ……」

(魔力が尽きかけてる……。このままでは、私の状態も保てなくなるぞ)

「んな事……言われても……」


 瞼を開き視線を正面へと向ける。霞む視界の向こうに映るクリスの姿に、クロトは膝に力を込め立ち上がり、ベルを地面から抜く。


(おい。正気か? 魔力も尽きかけてる状況で、まだ戦う気か?)

「ああ……あの人、逃がす……つもりは、無い……みたいだし……」


 霞む視界に映るクリスに、クロトは薄らと笑みを浮かべた。体の力を抜き、赤く輝く右目はその光を弱め、クロトの視界にもうあの煙は見えていなかった。クリスの怒りがどうなったのか、憎悪はどうなったのか。そんな事を考えながら、クロトはベルを構える。

 そんなクロトに対し、ベルは異様な空気を感じ取った。柄を握るクロトの手から伝わる魔力。すでに底を尽き掛けていたその魔力が、増幅し体中から染み出ていた。この感覚にベルは驚き思う。


(この力は……ジン以上か……。しかし、この力……)


 その魔力の波長に、ベルは妙な違和感を感じた。それは、以前にも感じた事のある魔力だったが、それを思い出す事は出来ない。何か記憶にモヤが掛かっている様だった。

 一方で、クロトもその魔力の波長を感じていた。そして、その感覚を以前にも感じた事を思い出し、表情を歪める。体内をジジッと電流が駆け、クロトは叫ぶ。


「ここから離れろ!」


 その声に、ベルは驚く。今まで剣を交えていた相手だと言うのに、その相手に対してその様な言葉を吐くなどとは。このまま何も言わずにいれば、間違いなくこの場にいる全てを者を消し去る事が出来るはずなのに。

 だが、今まで剣を交えていた男の忠告に耳を貸す者はいない。ただ、失笑が生まれ、男達はクロトを指差しあざ笑う。そんな中で、異変を感じとったのがクリスとジェスの二人だった。突如としてクロトの体内からあふれ出す膨大な魔力に、直感的に危険な波動を感じたのだ。


「ジェス! 早く――」

「くっ……もう、もた……」

「おい! ここから退避し――!」


 クリスが叫び、クロトが苦しそうに俯く。そして、再びジェスの叫び声が聞こえる。だが、その声をかき消す程の漆黒の稲光が周囲を闇へと包むと、遅れて轟く大地を揺るがす程の雷鳴が。

 クリス、ジェスの二人はその瞬間にその場から飛び退くが、それでもその衝撃は凄まじく、二人の体を容易く弾き吹き飛ばした。そして、逃げ遅れた十数名の武装した兵士達は、そのクロトの体から発せられた漆黒の稲妻によりその肉体を焼かれその場に灰だけが残された。


「ぐぅ……あぁ……」


 体内から雷撃を放出したクロトは、体から僅かに黒煙を上げながら、その場に膝を着き俯く。膨大な魔力に、その肉体がもたなかった。未だに体に走る黒き雷撃。それが、クロトの皮膚裂き血を滲ませる。

 完全に魔力を使い果たし、その手に握る魔剣ベルは元の錆びれた剣に戻り、クロトの意識は霞んでいた。二度目となる黒い稲妻。その威力は前回の比ではなく、クロトの気力まで吸い出す程だった。

 周囲一帯を黒焦げにし、木々は燃え上がる。抉れていた地面はより一層抉れ、周囲から黒煙を漂わせていた。


「うっ……ふぐっ……」


 大きく肩を揺らし、ゆっくりと顔を上げる。霞む視界で周囲を確認する様に顔を動かす。ゆっくりと、ゆっくりと。そして、確認する。灰となった人達を。自分の発した稲妻によって失われた命に、クロトは硬く瞼を閉じ、拳を握った。


「くっ……そぅ……」


 そして、そのまま意識を失った。魔力を使い果たし、体力も全て出し切って。

 衝撃で弾かれたクリスは、腕に擦り傷を負い血を滲ませながら横たわるクロトの元へとゆっくりと足を進めた。クロトが叫んだ事により何とか助かったクリスだが、その手に握った剣を静かに振り上げ、クロトを見据える。

 静かに息を吐き瞼を閉じると、クリスは目を見開き一直線にその刃を振り下ろした。鈍い単音がその場に聞こえ、鮮血が空へと舞い散った。

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