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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
257/300

第257話  あの日の真実

 クロトとガガリスの視線は交錯する。

 静かな時が過ぎる。

 そして、ガガリスはゆっくりと口を開く。


「ふっ……。だとしたらなんだ? 俺があの人を殺したのは、事実だ」


 開き直った様にそう言うガガリスに、クロトは目を細める。

 明らかにガガリスの瞳が揺らいだ。

 まだ何かを隠しているのは容易に理解できる。

 故に、クロトは眉間にシワを寄せる。


「それが事実なら、何でティオを助けたんだ」

「それは……それが、あの人の最後の願いだったからだ」

「嫌いな人の願いを聞くのか?」


 クロトがそう言うと、ガガリスは苦笑し肩を竦める。


「俺は、一度した約束は守る」

「それが、たとえ、憎む相手でもか?」


 クロトがそう言うと、ガガリスは小さく頷く。


「そう言っているだろ」


 苛立った様子でガガリスは声を張り上げる。

 すると、クロトは首を左右に振った。


「納得出来ないな。君の言っている事には。そもそも、俺はキミがティオの母を殺したとは思っていない」

「どういう……事ですか?」


 虚ろな眼差しで鼻からも口からも血を流すティオが、眉間にシワを寄せる。

 一方、ガガリスは不愉快そうな表情を浮かべ、クロトを睨んだ。

 黒髪を揺らすガガリスは、これ以上何も語らせない。そう言う様にその拳に魔力を込める。

 このガガリスの行動で、クロトは自分の考えはおおよそ的を得ているのだろうと確信し、口を開く。


「キミは、ティオの母を――」

「黙れ!」


 ガガリスが走り出す。

 その拳は龍の爪を化し、鋭い切っ先をクロトへと向ける。

 しかし、今のクロトにコレを防ぐだけの力は無い。

 右腕は震え、力が入らない。

 それでも、真っ直ぐにガガリスを見据え続ける。

 そんな時、ガガリスの動きが止まった。

 何故なら、その目の前に、ティオが立ち塞がったからだ。

 フラフラになりながら、血を流しながらも、クロトが語ろうとする真実を聞く為に。

 強い眼差しを向けるティオに、ガガリスは眉を顰める。


「邪魔をするな!」


 低く殺気立ったガガリスの言葉に対し、ティオは白い息を吐きながら、


「私には……知る、権利がある。母が、どうして……死んだのか。あなたが、殺したと言うのなら、聞かせてもらいたい。何故、殺したのか。どうして、母の最期の言葉を聞き遂げたのか。願いを聞き入れたのかを」


と、強く言い放つ。

 奥歯を噛むガガリスに、続けて、クロトが口を開く。


「ここからは、あくまで俺の想像だが、お前はティオの母に対し、好意を持っていた。もちろん、それは、母親としてだ」

「ッ! ふざけるな! そんなはずが――」

「何があったのかは分からない。だが、その人はお前の目の前で死んだ。恐らく、お前を庇って……」

「黙れ! そんなのは貴様は想像に過ぎん!」


 ガガリスがそう言うと、クロトは目を細める。


「なら、何で必死に否定する? 少なからず、お前がティオの母に好意を持っていたのは確かだろ。でなきゃ、最後の言葉を聞いたりしない。願いを聞いたりするわけが無い」

「そうなんですか……ガガリス兄さん……」


 ティオの訴えかけるような眼差しに、ガガリスは奥歯を噛むと、


「そんなわけが……あるものか!」


と、声を荒げた。

 ガガリスの反応に対し、クロトは鼻から息を吐き、首を傾げる。


「何で、そんなに頑なに否定するんだ? 自分の所為で、ティオの母を殺した負い目か? それとも、ティオに自分を殺してもらう為か?」


 クロトがそう尋ねると、ガガリスは眉間にシワを寄せる。

 そして、小さく舌打ちをすると、諦めたように深く息を吐いた。


「そうだと言ったらどうする? 今更、そうだとして何が変わる? 俺が奴の母を殺したのは事実だ。俺のこの手が……」


 ガガリスは自らの右手を見据え、唇を噛み締めた。


「あの日。俺は、城内で襲われた。当然、俺の力ならば、何の問題も無い連中だった。だが、奴らは人質を取った」

「それが……私の……」


 ティオがそう呟き、目を伏せた。

 だが、ガガリスは首を振った。


「違う。人質となったのは、貴様だ。まだ産まれて間もない。当然だろう。龍魔族の子を出産すると言う事は、相当の体力を消費する。それにより、母の傍には父が付きっ切りだった。それに、まさか、自分が信頼している者が、自分の産まれたばかりの息子を人質になどするわけが無いと思っていた」


 ガガリスの言葉に、クロトは眉間にシワを寄せると、左手で頬を掻き、


「もしかして、その信頼している者って……」


 複雑そうにそう呟くクロトに、ガガリスは不快そうに眉間にシワを寄せる。


「ああ。ティオの母の父親だ」

「ッ!」


 ガガリスの言葉に、ティオは息を呑んだ。

 それは、自分の祖父が命を奪おうとしたと言う真実を聞かされたからだった。

 絶句するティオに対し、クロトは静かに尋ねる。


「それで? どうして、お前がティオの母を殺める事になったんだ?」


 クロトの言葉に、ガガリスは不愉快そうに繭を顰めると、


「貴様はズケズケと人の心の奥にまで入り込んでくるな」


と、クロトを睨んだ。

 しかし、クロトは気にした様子は無く、肩を竦める。


「事実を知りたい。そして、お前はティオに殺されたい。そう思うなら、聞くべきだろ。ティオの母が死んだ理由も、お前がティオに殺して欲しいと思う理由も」


 クロトの言葉に、ガガリスは、奥歯を噛むと、一歩、二歩と下がる。


「良いだろう。だが、時間が無い。ティオ。いいな。この話の後、必ず、お前の手で俺を殺せ。必ずだ」


 念を伸したガガリスに、ティオは小さく頷いた。

 それを見て、ガガリスは深く息を吐き、


「あの日。ティオを人質にとられた俺は、囚われ、拷問を受けた。奴らの目的は、定かではなかったが、次期竜王の名を継ぐ俺を人質にして、父を殺す事が目的だったんだと思う」


 そう言い、ガガリスは目を伏せる。

 あの日の事を思い出していた。正直、拷問など、当時のガガリスにとっては痛くも痒くもなかった。

 龍魔族はそれだけ丈夫な種族だった。

 故に何をされても耐えられる自信もあった。

 それは、父プルートも同じ考えだったのだろう。

 交渉になど応じず、彼らの呼び出した場所には姿を見せなかった。

 だが、ティオの母は違った。出産して体力が落ちている中で、自分の息子達を助ける為に、その取引場所に姿を見せたのだ。


「その時、彼女は口にした。息子達を返してください。と。ティオだけではなく、彼女は、俺を助ける為にそこに来た。そして……俺を庇って体を貫かれた」


 ガガリスはそう言い、唇を噛んだ。


「そして、俺は、怒りに呑まれた。その場に居る者を片っ端から殺してしまおうとした。だが、それを、お前の母は命を賭して止めた。あなたが手を汚す必要は無いと。その手は人と人とを繋ぐ為の手だと……」


 クロトは、その話を聞き納得する。

 ティオの母が残した言葉の意味を。

 唇を噛み締めるティオは、拳を握り締めた。


「じゃあ……祖父は……」

「死んだよ。口を封じられたのか、誰かに無残に殺された。仲間と一緒にな。俺は、全てを仕組んだのは、グラドだと思っている。俺とお前が消えて喜ぶのは、奴だけだ。そして、父もそれを悟っていたからこそ、グラドではなく、お前の母の父親にお前の事を預けた」

「まさか、それが裏目にでるとは思わなかっただろうな……」


 クロトがそう呟くと、ガガリスは複雑そうに眉を顰め、


「その事が原因で、父は、また人間を憎んだ。最愛の人を殺した人間達を……」


と、唇を噛んだ。

 その言葉の後、ガガリスは静かに息を吐き出すと、ティオを真っ直ぐに見据える。


「分かっただろ。お前の母を殺したのは……俺だ。だから、お前の手で、俺を殺せ……」


 ガガリスの言葉に、ティオは激しく首を振る。


「そんな事出来るわけない! あなたは何も悪く無いじゃないですか!」


 荒々しくそう言うティオに、ガガリスは呆れた様にため息を吐いた。


「約束したはずだ。この話を聞いたら、俺を殺すと」

「私は了承していない! そんな事……」

「…………ティオ」


 クロトは、ティオの方へ顔を向けると、その目を真っ直ぐに見据えた。


「ティオ。彼はすでに死んでいるんだ。時間が無いって言ってたのを忘れたのか?」

「分かってます! でも、私には……」

「時期に……俺は、自我を失う」

「ッ!」


 ガガリスの言葉に、ティオは顔を伏せ息を呑んだ。

 その言葉の意味は分かっていた。自我を失い、殺戮マシンへと変わるという事だ。


「俺は……奴にいい様に使われるのも、奴の手で死ぬのはごめんだ」

「ティオ。分かってやれよ。彼が、自我を失って多くの人を殺めるより先に……」

「で、でも……私には……」


 唇を噛み締めるティオに対し、ガガリスは深く息を吐く。


「お前は優しい……だが、それは、優しさではない……覚悟を決めろ! お前は、何れ王となる男だ! 決断しろ。この国の為に!」


 ガガリスのその言葉に、ティオは雪原に転がる黒天を握り締めると、その目から涙を溢れさせながら、


「ガガリス兄さん…………ごめん……」


と、呟き、ティオは黒天を振り抜いた。

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