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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
250/300

第250話 狡猾な敵

「あんな小娘一人でこんだけの金がもらえるなんてよー」


 大型の犬ソリに乗った五人の男のうち、手綱を握る男がそう声を上げた。

 その後ろでは残った四人の男が、大袋に入った大量の金貨をばら撒き、カップの酒を酌み交わしていた。

 そんな折だった。

 前方へと何かが飛来し、衝撃が広がる。

 ソリを引く犬達は、その衝撃に脚を止めると逃げようとバラバラに走り出す。

 それにより、ソリはコントロールを失い動きを止めた。

 ソリは計五台。

 すべてのソリが動きを止めた。

 積もっていた雪が舞い上がり、霧状にその場を包み込む。

 何が起こったのか分からぬ男達は、慌てて外へと飛び出し武器を手にする。


「な、何だ……一体!」


 一人の男がそう声を上げる。

 ソリに繋がった犬達はキャンキャンと吠え、威嚇する様に喉を鳴らした。

 男たちは警戒心を強め、白い霧の中を見据える。

 その中で、ゲホッゲホッと咳き込む声が一つ聞こえ、


「全く……ホントに無茶をするんですから……」


 若々しい男の声に、男達の中で、最もふけ顔の男がしゃがれた声を張る。


「だ、誰だ! テメェ! 一体、何のマネだ!」


 得体も知れない存在に、男の声が僅かに震える。

 その声に対し、霧の中からゆっくりと姿を見せたのは、オレンジブラウンの髪を揺らすティオだった。

 耳の付け根に見え隠れする小さな角を見て、彼らはティオが同じ龍魔族だと気付き安堵したように息を吐く。


「何だ……龍魔族じゃねぇか……。驚かせてんじゃねぇよ」


 安堵し真っ白な息をふけ顔の男が吐いた直後だった。

 一台のソリが破裂する。

 何かが飛来したのだ。


「今度は何だ!」


 ふけ顔の男がそう声をあげ、振り返る。

 散る木片の中に、煌く大量の金貨。

 積もった雪が舞い上がり、周囲を真っ白に染める。


「残念ですけど、彼は龍魔族じゃありませんよ?」


 にこやかな笑みを浮かべるティオは、ふけ顔の男へとそう囁いた。

 その言葉にふけ顔の男は眉間にシワを寄せ、奥歯を噛む。


「何だ! 一体! 何が起きてる!」


 ふけ顔の男が怒鳴る。

 その最中、真っ白に染まるその中で瞬く青白い光。

 それが、何なのか、男達は分からない。

 だが、ティオは一瞬にしてその瞬きの理由を悟り、表情を歪める。


「ちょ……本気ですか! クロト!」


 ティオはそう叫び背を向けると飛び込む。

 刹那――青白い光が弾けると、凄まじい爆発が起き、稲妻が周囲へと衝撃波となり広がった。

 その場に居た男達を広がった稲妻が呑み込んだ。

 全身へと広がる微量な電撃に男達は次々と悲鳴をあげ、倒れていった。


「な、な、何だ……こ、これは……」


 ふけ顔の男は膝を着き右手を雪原へと落とした。

 体の動きを封じる程度の痺れを伴い、男の眉間にはシワがよる。

 他にも動ける者は居るが、殆どの者が口から泡を噴出し意識を失っていた。

 そして、その雷撃を放った本人であるクロトは、全身から湯気を噴かせながらゆっくりと雪原を歩む。

 キュッキュッと足音が響き、薄らと開かれた唇から漏れる真っ白な息。

 威圧的な空気がその場を支配する。


「全く……何を考えてるんですか!」


 雪に塗れるティオは、立ち上がり振り返るとそう声を荒げた。

 かわしたからよかったものの、一歩間違えればティオも今頃そこら辺に転がっている男達のように泡を噴いている所だった。

 深く吐息を漏らすティオは、呆れた眼差しをクロトへと向け、衣服についた雪を払う。


「き、貴様ら……一体……」


 ふけ顔の男が渋い表情でそう言う中、クロトは周囲を見回す。

 赤く輝く右目が忙しなく動く。

 だが、目的となる者を発見出来なかったのか、クロトの目はふけ顔の男の方へと向けられた。

 それから、ゆっくりとクロトは歩みを進め、ふけ顔の男の前で足を止める。


「セラは何処だ?」


 静かな声でクロトは尋ねる。

 右目で魔力を感知しながら周囲を見回したが、セラの魔力は感じなかった。

 その為、ここにはセラは居ないと判断したのだ。

 クロトの言葉に、ふけ顔の男は目をそむける。

 男の行動に、クロトは一瞬不快そうな表情を見せたが、すぐに息を吐き「そうか」と呟いた。

 恐ろしく穏やかなクロトの声に、ふけ顔の男は恐怖を感じる。

 とてもじゃないが、表情とその声が合っていない。

 明らかにその顔には、その目には怒りが滲んでいた。

 凍傷でボロボロになったその手に魔力を込めるクロトは、その口から静かに息を吐き出す。


「答える気は無い……か」


 クロトはそう呟き、両拳に赤黒い炎を灯す。

 炎は揺らぎ、冷たい空気に触れ、大量の湯気を噴かせる。

 直後だ。クロトの耳にセルフィーユの声が届く。


『クロトさん!』


 その瞬間にクロトも察知する。

 周囲に突如現れた謎の魔力を。

 右目にはっきりと映る赤い蒸気のような魔力の波動。

 それが、何を狙っているのかも瞬時に理解したクロトは、右手の炎を消すとその場に膝を着くふけ顔の男の襟首を掴んだ。


「ぐへっ! な、何を――」

「ティオ! その人を――」


 クロトがそう叫び、ふけ顔の男を投げた瞬間だった。

 突如、雪原を突き破り鋭利な氷柱が地面がから突き出す。

 それは、一帯に散り散りに倒れる男達を狙い済ましたように地面を貫き、そのまま男達の息の根を止めるかの様に的確に心臓を一突きした。

 悲鳴など上げる間もなく、ただの一突きで絶命する男達。

 その体はまるで処刑され晒されるように、地面から生えた氷柱に吊るされていた。

 鋭利に尖っていた先端は暖かい男達の体を貫いた事により、熱で溶け丸みを帯び、氷柱の根元の方へと流れる血は、地面に辿り着く前に冷たい外気により凍りついていた。


「クロト!」


 ふけ顔の男を受け止めたティオは、轟音と共に地面を突き破った複数の氷柱を見据えた後にそう声を上げた。

 何故なら、クロトの立っていたその場所にも巨大な氷柱が突き出していたのだ。

 だが、すぐにティオは安堵の息を吐き、脱力する。

 その氷柱の先端にクロトはいた。赤黒い炎を灯した左手で確りと、鋭利なその氷柱を溶かし、受け止めていたのだ。


「はぁ……はぁ……」


 激しく白い息を吐くクロトは、息を呑む。

 正直、今回は危なかった。

 セルフィーユの声がなければ、間違いなく反応が遅れ、この氷柱の餌食となる所だった。

 氷柱に掴まるクロトの下へと急ぎやってきたセルフィーユは、申し訳なさそうに声を上げる。


『す、すみません! わ、私の所為で!』

「いや……。セルフィーユのお陰で助かった……」


 氷柱から飛び降りたクロトは、雪原へと軽快に着地する。

 そして、絶命する男達の姿を見据え、唇を噛んだ。


「くっそっ!」


 思わずそう声を漏らすクロトへと、歩み寄ったティオも不快そうに眉間にシワを寄せた。


「どうやら……はめられたようですね」

「ああ……」

『す、すみません。私が、もっと正確にセラさんの魔力を感知できたら……』


 申し訳なさそうにセルフィーユが頭を下げると、クロトは小さく首を振った。


「いや……俺が悪い。頭に血が上って、もっと冷静に考えるべきだった……もっと状況を広い目で見るべきだった」

「仕方ない事ですよ。それに……どうやら、敵は相当狡猾な奴のようですし」

「狡猾?」


 クロトがそう言うと、ティオは腕を組み頷く。


「えぇ。私達が追って来る事も、ここで追いつく事も分かった上での今の攻撃でしょうし……。見ての通り、彼らは心臓を一突き。我々の感知能力の届かないギリギリの所で様子を見ているんでしょうね」


 ティオのその言葉に、クロトは小さく頷いた。

 そして、もう一つの事実を口にする。


「そうだな……。凄い切れ者らしい……。ティオがあの町で俺と合流する事すら、計算の上だったらしい……」


 クロトのその言葉に、ティオもハッとする。

 そう。

 ここで、追いつく事を分かっていたと言う事は、クロトがこの国の出身で道をよく知る人物であるティオと一緒になると分かっていたと言う事になる。

 でなければ、この国の地理に詳しくないクロトがこの場所で追いつくなどと計算は出来ないだろう。

 それを考えた時、クロトとティオは、自分達が相手にする者が、自分達の想像するよりも切れる人物だと言う事だけを理解した。

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