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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
242/300

第242話 神のお告げ?

「どういう事だ!」


 ひび割れ、窪んだ地面を見据えグラードは声を上げた。

 そこに居るべき人物がの姿が、なかったのだ。


「確かに、ここに落ちたはずです!」


 慌てて、クラリスは周囲を見回す。

 だが、間違いなく、ここに落ちたはずだった。

 その証拠に地面には大きく何かが減り込んだ跡が残る。


「だが、いねぇ! アイツ! 何処に消えた!」


 乱暴にそう言うグラードは、手にしていた大剣を地面へと叩きつける様に突き刺した。

 二人が驚くのは無理は無い。

 上空から物凄い勢いで落下し、地面に叩きつけられたはずのクロトは、姿を消していた。

 あの勢いで地面に叩きつけられたのなら、まず無事では済まない。

 地面の割れ具合、凹み具合からいっても、その衝撃は凄まじいものだっただろう。

 背中から思い切り落ち、呼吸も一瞬止まってしまっただろう。意識だって、失った可能性もある。

 しかも、体力的にもクロトは限界に近い状態だった。

 そんな男がこの短時間でその場から逃げられるはずはなかった。

 疑念を抱くグラードとクラリスは、周囲を警戒する。

 絶対にこの近くにクロトが居るはずだと、考えたのだ。

 しかし、何処からもクロトの気配は感じない。


「どうなってんだ! あの体で何処に逃げたって言うんだ!」


 荒々しくそう声を上げるグラードは、地面に突き刺した大剣を抜くとその刃に精神力を注ぎ、それを魔力に変換する。


「何をする気ですか!」


 思わずクラリスが怒鳴る。

 すると、額に青筋を浮かべるグラードは、大剣を振り上げた。


「決まっているだろ! この辺りを全て吹き飛ばせば出てくんだろ!」


 グラードはそう言い、大剣を地面へと突き立てる。


「何をバカな事を――」

「エクスプロージョン!」


 グラードの声に鼓動するように、大剣が赤く輝き、地面へと広がった魔力もまた赤く輝きを放つ。

 グラグラと揺れる大地に、クラリスは険しい表情を浮かべると、瞬時にその場を離れる。

 それに遅れて、光が更に強さを増し、やがて――地面は弾けた。

 紅蓮の炎が爆音と共に、爆風と黒煙を空へと広げる。

 中庭一帯が全て砕け、地面は大きく抉れていた。

 疲弊していたリュードは、何とか、壁際まで逃げていた。長い付き合いだからこそグラードが次にどんな行動に移るのか容易に想像がついたのだ。

 ただ、広場に集まっていた兵達は完全に逃げ遅れた。

 皆、爆発に巻き込まれ、その体を吹き飛ばされていた。

 一方、完全に逃げ遅れる形になったクラリスは、その身を守るように球体状に水の膜を張り、爆発を凌いでいた。

 パラパラと土が降り注ぐ中で、ゆっくりとその水の膜を解いたクラリスは、静かに抉れた大地へと足を下ろす。


「全く……一体、何を考えているんですか! あなたは!」


 怒りの声を上げるクラリスは、抉れた地面の中心で、黒煙を全身から噴かせるグラードを睨んだ。

 深々と息を吐き出すグラードは、天を仰ぐ。

 一仕事終えたようなグラードは、瞼を閉じる。

 これだけの爆発を起こしたのだ。

 それなりに精神力は消費し、体は疲労感で一杯だった。

 そんな折だった。抉れた地面が盛り上がり、拳が地面を突き破る。

 瓦礫が崩れる音が聞こえ、三人の視線がそこへと向いた。


「ぷはっ! あぶねぇ……」


 土の中から姿を見せたのは、クロトだった。

 土に塗れ、汚れた顔を右手の甲で拭きながら、地面から這い出るクロトは、深々と息を吐き出し頭を左右に振った。

 すでに、体にまとっていた魔力は解いていた。

 嵐王のお陰で体が冷めたとは言え、あれを長時間使用するのは危険だと、クロトも考えたのだ。

 腰を右手で叩くクロトは、もう一度大きく息を吐くと、髪についた土を左手で叩き、首の骨を鳴らした。


「流石に、今のは死ぬかと思った……」

「き、貴様!」


 クロトを睨むグラードがそう怒鳴る。

 だが、その瞬間、右膝から力が抜け、グラードは地面へと膝を着いた。

 眉間にシワを寄せるグラードに対し、クロトは落ち着いた面持ちで微笑する。


「悪いな。まだ、死ねないんだ」


 クロトはそう言い、胸の前で右拳を左手にぶつけた。

 剣は失った。それでも、戦う術はある。精神力を消費し、疲弊した三人を相手にするならば、全然肉弾戦で戦える。

 クロトも消費はしているものの、精神力を魔力へと変換する彼らよりは、まだまだ魔力は残っていた。

 怪訝そうな眼差しを向けるクラリスは、奥歯を噛むと、クロトへと尋ねる。


「どう言う事ですか? 何故、あなたが、生きている」

「んんっ? そうだなぁー……神様が、まだ死ぬな。お前は生きろって言ってるんじゃないか?」


 肩を竦め、冗談っぽくそう言うクロトは、鼻から息を吐いた。

 暴風雨を放ったクロトは、地面に叩きつけられる際に、自己防衛本能から背中に魔力を込めた。

 同時にその魔力を土属性へと変化させ、それで背中を硬化したのだ。

 それにより、地面に叩きつけられると、そのままの勢いで地中へとクロトの体は埋まった。

 どれ位の深さまで到達したのかは不明だが、その時に更にクロトは不自然に見えぬようにその穴を自ら作り出した土を出し塞いだのだ。

 一瞬の判断と、自己防衛本能に助けられたのだ。

 それから、ゆっくりと地面を掘り進み、機を窺おうとしたが、まさかこんな大きな爆発で地面を抉ってくるとは思ってもいなかった。

 

「くっそ……てめぇ……」


 膝を着くグラードは、怒りを宿した眼差しでクロトを見据える。

 だが、クロトは飄々とした様子で二歩、三歩と足を進めた。

 そんな時だった。

 どこからともなく、静かな大人びた女性の声が響く。


「まさか、あなた方お三方までこのような有様とは……」


 その声に、グラード、クラリス、リュードの三人は表情を険しくする。

 空気が一変した事を感じ取ったクロトは瞬時に身構え、周囲を見回す。

 だが、何処を見回しても、誰の姿も無い。

 その為、クロトは顔をあげ、視線を空へと向けた。

 すると、そこには一人の女性が浮かんでいた。

 純白のヒーラーがまとう衣服を着たその女性は、羽衣のようなものを揺らし、ゆっくりと地上へと降り立つ。

 その姿に、クロトは眉を顰める。

 とても、彼らが表情を険しくする程、彼女に強さを感じなかったのだ。


「聊か、あなた方を過信していたようですね。よもや、一対三で、この有様……」


 大人びた美しい顔立ちに似合わず、厳しい口調で、彼女はそう言った。

 声質的にはとても優しい印象だが、何故だか寒気を感じる程の威圧感があった。

 金色の長い髪が一本一本が美しく揺れ、透き通るような白い肌は、見るものを釘付けにする。


「な、何であんたがここに!」


 グラードが、額から大粒の汗を流し、そう口にする。

 疲労から出ている汗ではなく、間違いなく彼女に対する恐怖からの汗だった。


「どうして? ……答えは簡単です。あなた方が不甲斐ないから。それ以外に他に答えが必要ですか?」


 穏やかな表情とは打って変わり、冷めた眼差しが三人を順に見据える。

 そして、深々と息を吐き、


「これ以上の失態は無いと思ってください」


と、言い、手をかざす。

 その手が聖力を帯び輝きを放った。

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