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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
ルーガス大陸・ゼバーリック大陸編
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第24話 錆びれた魔剣

 澄んだ金属音が響き、火花が激しく散る。

 砕けた刃の破片がクロトの目の前を通過し、白銀の髪を揺らす女の刃はクロトの頬を僅かに掠めた。咄嗟に出したフレイムブレードは、刃の真ん中から真っ二つに折れ、切っ先は宙を舞い赤黒い炎の壁を越え、向こう側の地面へと突き刺さった。

 すぐにその場を飛び退いたクロトの頬から赤い筋が浮かび上がり血が静かにあふれ出す。一方、銀髪の女は突き出した剣を戻しクロトに視線を向け、もう一度構え直した。

 威圧感のあるその女性の目に、クロトは苦笑し小さく肩を落とす。


「マジか……。ミィおすすめの剣を一突きで……」


 表情を引きつらせ、真ん中から折られたフレイムブレードを見据える。その刃の強度は火属性の魔石が混入している事から、普通の剣よりも丈夫だと聞かされていた為、クロトは改めて彼女の強さを認識した。

 その光景を見据える男達からは静かな笑い声が聞こえ始める。確信していた。クロトの敗北を。ざわめくその声を聞き流しながら、クロトは折れたフレイムブレードを地面へと落とし、最後に残った剣の柄に右手を添えた。それが、錆びれた使い物にならない剣だと分かっていながら。

 息を吐き、鞘を握った左手に力を込め、鍔を親指で弾く。薄気味悪い不気味な音が僅かに聞こえ、錆びれた刃の粉が合間から零れ落ちる。


(頼むぞ……魔剣と呼ばれてたんなら、力を貸せよ……)


 奥歯を噛み締め、右手で柄を握り締め力一杯に剣を引く。女の悲鳴の様な甲高い音が周囲に響き渡り、周りに居た男達は耳を押さえ表情を歪めた。間近でその気味の悪い音を聞くクロトは奥歯を噛み締め、その音に耐えながらゆっくりと少しずつ刃を鞘から抜く。

 零れ落ちる錆びれた刃の欠片。それが風で宙を漂いクロトと女の目の前を舞う。表情を変える事無く冷たい視線を向ける銀髪の女性に、クロトは僅かに表情を歪めた。

 だが、すぐにその手に力を込め、剣を一気に鞘から抜いた。金属が擦れ大量の錆びれた破片を飛ばし青白い火花が散る。勢いを付けすぎクロトの手から鞘が飛び、地面に激しく転がった。澄んだ乾いた音が周囲に聞こえ、ようやく悲鳴の様な音が消えた事に気付く。

 突如として訪れた静寂。聞こえるのはクロトの荒い息遣いと、街から届く賑わう人々の声。そして、クロトの背後の赤黒い炎が燃え上がる音。

 クロトの右手に握られた錆びれた剣。鞘から抜いたその摩擦で刃が砕け買った時よりも一層ボロボロになったその剣を見据え、女の表情に怒気が浮かぶ。


「私を馬鹿にしているのか?」

「馬鹿にしているつもりは無いんだけどね……」


 苦しそうに右目を閉じ、一層呼吸を荒げるクロト。この剣を抜いた直後から右目のうずきが激しくなり、開いている事が出来なかった。

 右目に走るその激痛を気付かれない様にと、クロトはゆっくりと瞼を開く。その瞬間、目の前に居た女の表情が驚きに変わる。一体、何に驚いたのか分からず、クロトは眉間にシワを寄せ小首をかしげた。

 その瞬間、周囲を囲んでいた一人の男の叫び声が耳に届く。


「ひぃぃっ! な、なな、何だよ! あ、あの眼!」

「眼?」


 その男の声に他の男達の視線がクロトの右目へと集まる。右目を覆う半透明の赤黒い炎。クロト自身はその事に全く気付いていなかった。特に右目が熱いと言う事も無く、今まで以上に激痛が走ると言う事以外。

 驚きを見せた女は、そんなクロトの視線にすぐに表情を引き締める。その表情にクロトもすぐに真剣な表情をし、左足を退き切っ先を地面に向けたまま左腰の位置に構えた。

 錆びれた刃は時間と共に少しずつ崩れ、錆びれた破片だけが地面へと零れ落ちていく。そんな剣を構えるクロトに対し、女性の目は一層冷ややかに変わり、その体から放たれる黒い煙は一層濃くクロトの右目には映る。

 どれ程魔族を憎んでいるのだろうか、と疑問を抱くクロトだったが、そんな余裕が無いと言う事をすぐに気付かされる。唐突にして間合いへと踏み込んできた白銀の髪の女によって。


「くっ!」


 クロトは後方へと飛び退きながら刃を振り切る。自己防衛策として行った反射的なモノだったが、その一太刀に女は上体を起こし右足を横にして地面に着きブレーキをかけると、一気に上体を後方へと仰け反らせる。

 柔らかくしなやかに逸らせたその体の上を刃が過ぎ、それと同時に上体を起こすと、ブレーキをかけた右足をすり足で半歩前へと出し、上体を起こした勢いを利用する様に腰を回転させ右手に握った剣を外から内へと振り抜く。剣を振り抜き無防備となったクロトの左脇腹へとその刃が襲い掛かる。

 奥歯を噛み締めたクロトは左足で地を蹴ると、そのまま右回りに体を回転させ、上半身を前方へと曲げる。背中に僅かに太刀風を感じるとほぼ同時に後ろ髪が切り裂かれ宙へと舞った。


「うぐっ……」


 息を呑み前方へと低い体勢で飛び、地面へと両手を着き一転し体を起こす。綺麗に着地しすぐに女の方へと体を向け呼吸を整える。

 間一髪だった。刃が通過するその瞬間、あと少しでも顔を上げていれば、今頃クロトの頭は真っ二つにされていただろう。そんな事を考えると恐ろしくなり、膝が僅かながら震えた。だが、その震えを奥歯を噛み締め押し殺し、周りに気付かれない様に静かに錆びれた剣を構え直す。

 その時だった。突如として胸を打つ激しい動悸。自分のモノではない不気味な鼓動が体中を伝わり、脳へと声が届く。寂びれた男の声が。


(誰だ……この私の……眠りを妨げるのは……)

「な、何だこの声……」


 突然響いた声にクロトは呟き周囲を見回す。だが、声の主の姿は無く、また頭の中に直接声が流れる。


(この感覚は……お前はジンか?)

「ジン? 誰だそれ?」

(クロガネ・ジンじゃないのか?)

「俺は、クロトだ。ジンじゃない」


 クロトがそう呟くと、そうか、と声の主は小さく呟くと、突如として錆びれた剣が輝きを放つ。


「えっ?」


 突然の事に驚くクロト。もちろん、驚いたのはクロトだけではない。周囲に居た武装した男達も、対峙する白銀の髪の女もその輝きに驚いていた。


「何だ! 何をした!」

「ジェス! 皆を下がらせろ!」

「分かった。クリス、気をつけろよ!」


 ジェスと呼ばれた真紅の髪の男が、白銀の髪の女クリスにそう叫び右手を振り上げる。それが、下がれと言う合図だったのだろう。その指示に従う様に周りに居た男はゾロゾロと後退しローグスタウンの門を潜り、クロトとクリスの二人を見据える。

 輝く錆びれた剣にクロトは眼を細め、クリスは持っていた剣に炎を灯し腰を落とす。二人の間に流れる異様な空気に、静かに冷たい風が吹き抜け、道を塞ぐ赤黒い炎が揺らめく。


(クロト……とか言ったな。私の力を貸そう……。ジンと同じ、せ――)

「えっ? な、何を――」


 クロトが聞き返そうと声を上げたが、それを遮る様に甲高いキュィィィィンと言う超音波の様な音が響き渡った。その音にクロトは表情を引きつらせ、対峙するクリスも表情を僅かに歪める。それでも、鋭い眼差しは変えず、真っ直ぐにクロトを見据えた。

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