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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
233/300

第233話 魔剣の行方

 晴天の中、航海は続き一週間。

 ようやく、クロト達の視界に、バレリア大陸が見え始めていた。

 まだ体が痛むクロトだったが、ゆっくりと休んでいる時間も惜しいと、常に基礎鍛錬は怠らない。

 もちろん、基礎鍛錬と言うのは魔力の制御と属性の強化だ。流石のクロトも、バカではない。

 無理に痛む体を動かして、傷を悪化させるような事はしない。

 船室で一人胡坐を掻きクロトは魔力を指先へと集める。

 そんな中、船内を飛び回っていたセルフィーユが右の壁から顔を出し、集中するクロトを眺める。


『相変わらず、安定した魔力制御ですね……属性も安定してますし……』


 壁に口元を埋めるセルフィーユの声は流石にクロトにも聞こえない。

 セルフィーユもクロトの邪魔をしてはいけないと配慮したのだ。


『邪魔してはいけないのです。私はもう暫く散歩してきますね』


 セルフィーユはそう言うと壁の中へと消えていく。

 セルフィーユが消えると、クロトはふっと息を吐き、指先に集めた魔力を散布した。


「はぁ……」


 深く息を吐き、両手を後ろに着く。

 流石に体中が悲鳴を上げるように軋み、その苦痛にクロトは表情を歪める。

 実は、クロトはセルフィーユが部屋を覗いている事を知っていた。

 知っていた上で、気付かないフリをし、魔力を集中していた。

 それには理由があった。まだ全快ではないクロトの状態を気にして、セルフィーユは何度も回復しようとしたが、クロトはそれを拒んだ。

 前回の戦いで、すでにセルフィーユは大量の聖力を使用している。アレほどの魔導砲を二度も弾いたのだ。それなりに聖力を失って当然だった。

 それで、何故、クロトがセルフィーユの力での回復を拒んだのか。それは――彼女の聖力が全く回復していなかったからだ。

 聖霊と言う存在が、どのようなモノなのか、クロトには分からない。

 分からないが、これだけ日が経っても聖力の自然回復が見られないと言う事を考えた結果、クロトが出した答えは――


“聖霊とは、聖力の集合体”


 所謂、聖力のみで構成された存在――だと言う事だった。

 すなわち、セルフィーユは、聖力を使い果たすと消えてしまう存在。

 聖力が回復していない所を見ると、聖霊とは空中に漂う聖力が集まり凝縮されて作られた存在で、魔法石と同じような存在だと言う事だった。

 渋い表情を浮かべるクロトは床に寝転がると、天井を見上げる。

 正直、もう誰かが死んでしまう所を見たくはなかった。

 今も尚その目に焼きつく北のフィンク大陸でのシャルルの死。それを思い出すと、やはり救える命は救いたい。そう思ってしまう。


「こんな事ならあんな強引な作戦はしなかったのに……」


 クロトは一人、ボソッと呟いた。

 あんな強引な作戦とは、やはりミラージュ王国へと攻め入った際の魔導砲を弾くと言う事だった。

 右腕を目の上に置き、深く息を吐くクロトは、ただただ後悔していた。



 壁をすり抜ける半透明なセルフィーユは、セラが使用している船室を壁から顔を出し覗いた。

 セラは上半身を下着姿で丸椅子に胡坐を掻き、魔力を集めた両手を胸の前にかざしていた。

 健康的な褐色の肌には汗が滲み、茶色の髪が何処からともなく吹き抜ける風で揺れる。

 その原因は、現在セラが胸の前にかざす両手の中にあった。

 魔力は風の属性へと変化し、風が球体に留まり激しく渦巻いていた。

 ふっくらとした胸の合間に流れる汗が、妙に色っぽく、セルフィーユは壁の中へと顔を引っ込めると、自分の小さな胸を見て、『はうぅっ……』と、今にも泣き出しそうな声をあげた。

 落ち込みながら、セルフィーユは次の部屋へと移る。

 今度は、ミィの部屋を壁から顔を出し眺める。

 ミィは床にリュックに入れていた道具を全て出し、商品のチェックをしていた。

 あんな小さなリュックの何処にこれだけの商品が入っていたのか、と疑問に思うほど、床には商品が散乱していた。

 その商品の多くは薬品で、傷薬から痛み止めまで多くの品が並ぶ。いや、これは商品ではなく、ミィなりにクロトの力になる為に集めた品物だった。

 戦闘では役に立てない為、怪我をした時に治療できるようにと、ここまでの薬品を集めたのだ。


「ふぅ……こんなもんスか?」


 独り言を呟くミィは、右手の甲で額の汗を拭う。

 商品を部類わけしていたのだろう。

 そんなミィの事を覗くセルフィーユは壁から出てくると、ゆっくりとミィの傍へと寄る。

 朱色の髪を揺らすミィは立ち上がると腰に手をあて、ムフンと息を吐く。

 一人で居るからだろう。ドヤッとした顔をするミィは、二度、三度と頷いた。

 そんなミィの顔を見て、クスクスと笑うセルフィーユは、ゆらゆらとまた壁の中へと消えていった。

 それから、セルフィーユは甲板へと出た。波も穏やかな為、船員達も緩い空気を漂わせ、皆、談笑をする。

 セルフィーユはそれを盗み聞きし、クスクスと笑いながら時を過ごしていた。



 陽が傾く頃、クロトは腹部の痛みに表情を歪めながら、ベッドに腰掛けていた。

 ウォーレンとの戦いで負った傷はよほど体の芯まで響いていたのだろう。


「イッ……」


 思わず声を漏らすクロトは、そのままベッドへと倒れ込んだ。

 そんな時だ。部屋のドアがノックされ、パルの声が響く。


「ちょっといいか?」


 パルの声に、クロトは、ベッドに横たわったまま、


「ああ……」


と、答え、その声にパルはドアを開いた。

 そして、横たわるクロトに、呆れた目を向け右手を腰に当てる。


「はぁ……やっぱり、そう言う状態だったのか……」

「はは……悪い……」


 苦笑するクロトに、パルはミィから預かった痛み止めを投げ渡す。

 それを受け取ったクロトはキャップを開け、それを呑んだ。

 流石に即効性があるわけではなく、痛みはあるものの、気は楽になった。

 呆れた眼差しを向けるパルに、体を起こしたクロトは苦笑する。


「ホント、悪いな……」

「いいさ、別に。ミィの奴に言われて持ってきただけだからな」

「そっか……助かったよ」


 クロトがそう言うとパルは鼻から息を吐き腕を組む。


「それより、これからどうする気だ? 武器もなしで?」

「うーん……とりあえず、武器は現地調達かな?」

「ったく……何でワザワザ魔剣を分けて別々の人に預けるようなマネをしたんだ?」


 パルが不思議そうに尋ねると、クロトは渋い表情を浮かべる。

 そして、深々と息を吐いた。


「アレは、強力で危険過ぎるんだよ。だから、俺も極力使いたくはないし……敵に奪われたら大変だと思って……」

「奪われたらって……一体、誰が奪うんだよ?」

「俺達の戦うべき相手だよ」

「私達が戦うべき相手?」


 パルが不思議そうな眼差しでクロトを見据える。

 クロトの目には見えているのだろう。自分が戦うべき敵が。

 そんなパルにクロトはもう一度深く息を吐くと、背筋を伸ばす。

 腹部の痛みは大分良くなった。


「それで、五つの剣は誰に渡したの? まぁ、パルの信頼出来るって認めた人なら、俺も文句は言わないけど……」

「ああ……焔狐えんこは“紅蓮の剣”と呼ばれるクリスと言う女剣士に」


 パルの言葉に、クロトは首をかしげる。


(……クリス? 何処かで聞いたような……)


 クロトが眉間にシワを寄せるが、パルは言葉を続ける。


「最初は龍馬に渡そうとしたんだが、龍馬の意向もあってな。彼女に渡す事にしたんだ」

「そっか……」

「それから、嵐丸は、アースと言う少年に渡した」


 軽く肩を竦めたパルは、小さく首を振る。


「クリスに焔狐を渡す際に、ジェスと言うギルドマスターにあってな。一応、私も名前は知っていたし、風属性と言えば奴だろうと、奴に渡したんだが……。片腕を失ってるし、双剣は使えないって事で、奴の部下で、右腕だって言う彼に渡す事になったんだ」

(ジェス? ……そんなに有名な奴なのか?)


 クロトは小さく頷く。


「それから、轟雷は“連盟の犬”アオに渡した」

「アオなら、安心だな」

「なんだ? アオを知ってるのか?」

「まぁ、一応ね」


 クロトがそう言うと、パルは意外そうに眉をひそめる。


「まぁいい。それから、黒天は竜王の息子ティオに渡してある」

「ティオに? そのティオは、今どうしてるんだ?」

「さぁな? ただ、アオに頼んで渡してもらったからな。恐らく、アオなら知ってるはずだ」

「そっか……」


 腕を組んだクロトはそう言い、鼻から息を吐いた。


「で、最後に、水月だが、一応、秋雨に渡してある。ただ、彼は嫌そうだったがな」


 パルの言葉に、クロトは「そっか」と小さく頷いた。

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