表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
231/300

第231話 信じる者達

「この海域を離脱する!」


 海から上がったパルは、髪の毛先から雫を零しながらそう声を上げた。

 衣服は濡れ、重く、体は冷え切っていた。

 この辺りは現在、冬。海に入ろうものなら、凍えてしまう程の寒さだった。

 その為、パルの唇は青ざめ、吐き出される息は真っ白に染まる。

 髪の毛先が僅かに凍り付き、体は自然と震える。

 だが、その震えは寒さからの震えだけではなかった。あの巨大海賊船の船上で戦った男への恐怖からの震えでもある。

 右肩に銃弾を受けた。

 血は殆ど止まっているものの、それでもその手は赤く染まっていた。

 あの男はまるで遊んでいるかの様に弾丸を放ち、致命傷を与えないようにパルを狙っていた。

 同じ銃を使う者として、これほど畏怖した事は無い。

 まるで銃弾はそこに行くのが当然、そこに命中して当たり前と言うように、狙った場所へと着弾していたのだ。

 だからこそ、分かる。あの男は自分をいつでも殺せたと。

 呼吸を乱すパルは、ゆっくりと立ち上がる。


「船を旋回させ、帆を張れ! 全速力でこの場を離脱する!」


 パルの声に船員達は声を上げた。

 船はパルの指示通りに旋回を始め、帆が広げられる。

 帆が風を受け、船はゆっくりと動き出すが、それに合わせ、巨大海賊船も動き出す。

 出力では向こうの方が上で、動き出したパルの海賊船へと、その巨大海賊船は船体をぶつける。

 船体が軋み、大きく揺れる。

 そんな時だった。一人の船員が甲板へと飛び出し、声を上げる。


「船長! 伝令です!」

「で、伝令? こんな時に、一体誰だ!」


 パルが声を上げると、船員は首を振り、


「分かりません! ただ、このまま南東へと突っ込めと」

「はぁ? 南東って言ったら……ミラージュ王国の海軍のど真ん中だぞ!」


 パルが僅かに青筋を浮かべ、そう怒鳴ると、船員はビクッと肩を跳ね上げる。


「す、すみません! で、ですが、そう伝令が……」

「くっ……罠か? それとも……」


 眉間にシワを寄せるパルは決断を下す。

 そうしなければならない立場なのだ。


 時は少し遡り――ミラージュ城。

 激闘を終えたクロトとウォーレンの下へと、兵がようやく姿を見せた。


「ウォーレン様! 侵入者を捕らえました!」

「は、離すッス!」

「痛い! 痛いから!」


 数人の兵に拘束されるセラとミィの二人。

 しかし、兵達は謁見の間に入るなり、驚き目を丸くする。


「な、なんですか! この惨状は!」


 驚きの声を上げる兵に対し、右肩から血を流すウォーレンは、左手を軽く挙げ、


「あぁー……気にするな」


と、言い、笑った。

 そのウォーレンの言葉に、兵達は聊か不思議そうな表情を浮かべる。

 皆が顔を見合わせる中、廊下から一人の兵士が謁見の間へと慌ただしく入り声を上げる。


「ウォーレン様! 謎の巨大海賊船が! 海域内に侵入! 女帝海賊団と交戦中です!」

「なにっ! 女帝海賊団と交戦中だと!」


 兵の声に、ウォーレンは声を荒げる。

 一方で、クロトは、その兵の言葉に訝しげに目を細める。

 その巨大海賊船が一体、何者なのか、そう考えていた。

 現状、考えうる敵を思い浮かべるが、どれも当てはまらない。

 一体、誰が攻めてきたのだろうか、そう考えていた。

 そんな最中、ウォーレンは拳を震わせると、怒りの声を上げる。


「何処のどいつだ! 俺の愛しのパルちゃんを攻撃してんのは!」

「えっ?」

「うわっ……」


 セラとミィは各々微妙な表情を浮かべる。

 セラは驚きつつも頬を赤く染め、ミィは頭のイカレタ者を見るような冷めた眼差しを向けていた。

 しかし、クロトと、周囲の兵だけは呆れた様な目を向けながらも同じ事を思う。


(いつもの、ウォーレンだ)


と。



 傷の手当てもそこそこに、ウォーレンは司令室へと急いだ。

 クロトの説明もあり、解放されたセラとミィも一緒に、司令室へと来ていた。


「いいのか? 俺達も一緒で?」


 ウォーレンへと、クロトは不安そうにそう尋ねる。

 すると、ウォーレンはニッと笑う。


「ああ。お前なら信頼出来るしな。それに、見られて困るものなんてないからな」


 そう言い、大らかな笑い声を上げるウォーレンに、クロトは苦笑した。

 司令室では、兵達が慌ただしく動き回っていた。

 司令室へと入ると、ウォーレンはすぐに声を張る。


「魔導砲を充填しろ!」

「ま、魔導砲ですか!」


 ウォーレンの言葉に、その場に居た兵達は驚きの眼差しを向ける。


「しかし、魔導砲は、二度目……」

「関係ない! 俺のパルちゃんを虐める奴は、俺が許さない!」


 ウォーレンの血走った目に、兵士達はクスリと笑う。

 それは、いつものウォーレンだと言う事を悟ったのだ。

 一方、セラとミィは表情を引きつらせていた。


「な、なんスか? アレは?」


 思わずミィはクロトへとそう尋ねる。

 そんなミィの言葉に、クロトは苦笑し肩を竦める。


「ああ言う奴なんだよ」

「ああ言う奴って……」


 信じられないと言いたげな眼差しをウォーレンの背に向け、ミィは肩を落とした。

 ミィの態度に苦笑するクロトは、右手で頭を掻いた。

 すると、セラは不満げな表情を浮かべる。


「ちょっと待ってよ! 魔導砲なんて撃ったら、パル達まで巻き込まれちゃうんじゃないの!」


 セラのその言葉に、ウォーレンは「うっ」と声を発し、表情を強張らせる。

 セラの言う通りだ。このまま魔導砲を撃とうものなら、パルの海賊船まで巻き込まれてしまう。

 それを考えると、魔導砲を撃つのは得策ではなかった。

 しかし、クロトは進言する。


「いや。撃とう!」

「く、クロト!」


 セラが驚きの声をあげ、クロトへと目を向ける。

 そして、ミィも眉間にシワを寄せクロトへと掴み掛かる。


「な、何考えてるんスか! そんな事したら、パルが――」

「誰も、船を狙うとは言ってないだろ?」


 クロトがそう言うと、セラとミィは呆気に取られる。

 コイツは何を言っているんだ、そう言いたげな眼差しを向け、セラもミィも息を吐く。


「じゃあ、何を狙うって言うんスか?」

「巨大海賊船のやや右を狙ってくれ」


 クロトがウォーレンへとそう進言すると、ウォーレンは眉間にシワを寄せる。


「それじゃあ、意味が無いだろ? 魔導砲は何度も撃てる代物じゃないんだぞ?」

「分かってる。大丈夫だ。俺達には勝利の女神が付いてる」


 クロトはそう言い、ニシシと笑った。

 納得は出来なかったが、ウォーレンは渋々と照準をクロトに言われた通りに移動する。


「それから、パルには、コッチに船を向かわせてくれ。相手を引きつける意味もあるから」

「分かった。伝令を送ってくれ」


 ウォーレンはそう言い、ミィへと目を向ける。

 ミィなら、パルの船の通信の仕方を分かると考えたのだ。

 ウォーレンに言われ、ミィは深く息を吐く。


「分かったッス。とりあえず、クロトを信じるッスよ」

「ああ。任せろ! と、言っても、俺も信じるしかないんだが……」


 クロトはそう言い、苦笑する。全てをセルフィーユへと託した。



 海上を浮遊するセルフィーユは、ミラージュ城の方へと目を向ける。

 金色の髪を僅かに揺らすセルフィーユは、すぐに魔導砲の発射口があらぬ方に向いていると気付く。


『アレ? 何処……狙ってるんだろう?』


 訝しげな表情を浮かべるセルフィーユだが、すぐにクロトの言葉を思い出す。


『そうでした。魔導砲は、左側面から受けて、南に受け流さないと……』


 そう呟き、セルフィーユは移動する。そして、


『南へ……』


と、チラリと右に目を向ける。

 そこにあるのは巨大海賊船。それを見て、セルフィーユは困った表情を浮かべる。


『うーん……』


 狙うべきかを考えるセルフィーユだったが、そんな考えをしている余裕など無く、魔導砲が発射された。

 閃光が海を割り、直進してくるのを目撃し、セルフィーユは慌てて両手をかざす。


『み、ミラーシールド!』


 そう声を上げると、セルフィーユの正面に半透明のシールドが現れ、それが、魔導砲を南へと弾いた。

 凄まじい衝撃と共に、右へと曲がる魔導砲はそのまま巨大海賊船へと直撃し、大きく海面は波立った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ