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ゲート ~黒き真実~  作者: 閃天
最終章 不透明な未来編
227/300

第227話 勝利の女神

 ミラージュ王国王都にある城内で、兵達の慌ただしい足音が響いていた。

 その理由は――。


「北西十キロ圏内。海賊女帝の大型船が侵入」


 そう。ミラージュ王国領海十キロ圏内に女帝パルの海賊船が侵入したのだ。

 すでに周辺海域を巡回していたミラージュ王国の巡視船がパルの海賊船へと交戦を繰り広げていた。

 巡視船の為、海軍の船とは武装も違い、パルたち一隻の海賊船だけでも何とか対応する事が出来ていた。

 轟々しい砲撃が轟き、砲弾が放たれる。水柱が幾つも上がり、海は波立つ。

 その光景を王室から眺めるウォーレンは、黄色い瞳を輝かせ報告に来た兵へと伝える。


「魔導砲の充填を開始しろ」

「はっ! 魔導砲の充填ですね。しかし、充填するのに、少々時間が……」


 跪く兵がそう言うと、ウォーレンはグレーの髪を揺らし静かにその手に愛用のハンマーを握る。


「構わん。その間に、海軍を出撃させろ」

「はっ! では、そのように手はずを」

「ああ」


 ウォーレンはそう言い、黄色い瞳で真っ直ぐに海賊船を見据えていた。



 海上で砲撃戦を繰り広げるパル達の船では、船員たちは忙しなく走り回り、怒号を広げる。

 そんな中で、パルも声をあげ、指揮をとっていた。

 砲弾が海へと着水し、激しい水柱を上げ、船は大きく揺れる。

 甲板に海水が降り注ぎ、パルも船員たちもずぶ濡れになりながら、海上戦を繰り広げていた。


「時間を稼ぐぞ! クロト達が、城に着くまで!」


 パルの声が響き、船員たちの威勢の良い声が轟く。

 全てはクロトの作戦だった。

 いや、作戦と言うには穴だらけで、強引なもので、これは一種の賭けだった。

 船首をミラージュ城へと向ける海賊船。その先に半透明のセルフィーユが浮遊していた。

 その眼が見据えるのは、コチラへと向けられる大型魔導砲の発射口。

 そして、セルフィーユは静かに息を吐き出し、全身へと聖力をまとう。

 薄らと光り輝くセルフィーユだが、その姿は誰の目にも映らない。

 その為、船内では、不安の声が上がっていた。


「おい……このままでいいのか?」

「魔導砲の発射口がコッチを狙ってるぞ……」


 船員達の弱気な声に、奥歯を噛み締め、パルは一発の銃弾を空へと放った。

 轟く銃声に、一瞬、場は静まり返る。

 船員達の眼差しはパルへと注がれ、銃口から硝煙を噴かせるパルは、静かにそれを下ろす。


「信じろ! クロトを!」


 パルは鼓舞する様に声をあげ、その視線を真っ直ぐにミラージュ城の方へと向けた。

 現在、クロトは船に居ない。セラとミィの二人と一緒に、ミラージュ城へ向け、別行動を取っていた。

 その方法とは――。



 海面からおよそ十メートル付近の海中に、小型船が浮遊していた。

 小型船にはエンジン付きのスクリューがつけられ、それが、泡を噴かせながら回転していた。

 そして、水の膜が小型船の上半分を大きく半球体の形で多い、空気を溜め込んでいた。そこにクロトとセラ、ミィの姿があった。

 小型船は比重を重くする為の土の魔法石と、空気を生み出す為の風の魔法石を混合して作られた船で、エンジンは火の魔法石を使い回転させ、水の膜は雷の魔法石を使い安定させていた。

 その為、ルーガス大陸を出たときよりも、セラの負担は大幅に軽減されていた。

 魔法石を用意したのは商人であるミィで、以前に買い込んでいた粗悪な魔法石を使用していた。

 それでも、十分過ぎる効果を発揮しており、快適な航海をしていた。


「まさか、こんな方法で侵入してくるとは思わないッスよね」


 腕を組み海面を見上げるミィは苦笑する。

 簡単にやっている様に見えるが、今、クロト達が行っている事は、とても高度な事で、誰もが出来るわけではなかった。

 それをクロトもセラも分かっていない為、不思議そうに顔を見合わせる。


「そうか? 案外、誰でも思いつくんじゃないか?」

「そうだよー。魔法石と、ちょっと魔力があれば、簡単だよ」


 肩を竦めるクロトに、えへへと笑うセラ。

 二人のそのあどけない表情に、ミィは引きつった笑みを浮かべる。

 そんな中、クロトは水の膜から手を出し、その手に魔力を込めた。セラ程ではないにしろ、全ての魔力を扱えるクロトは、その手に集めた魔力を風属性へと変化させ、それを水中へと放つ。

 球体となった風は、ゆらゆらと水中を漂いながら、ゆっくりと海面へと上昇していく。

 クロトは、これを幾つも水中に漂わせ、進んでいた。


「さっきから、何してるんスか?」


 クロトの行動に、ミィが不思議そうに尋ねる。

 すると、クロトは困った様な笑みを浮かべた。


「いやー。機雷って奴だよ。効果があるかは分からないけど……一応ね」


 クロトがそう言うと、ミィは不思議そうに「機雷?」と呟き首を傾げる。

 この世界には機雷と言うモノが存在していないようだった。

 そんなクロトのマネをして、セラもチョクチョク別の属性の魔力を気泡に包み海中へと放っていた。


「まぁ……いいッスけど、そろそろ、速度を上げないと」

「だな。時間的に言っても、そろそろころあいだろうし」


 クロトはそう言い、スクリューの付いたエンジンへと右手を重ねた。

 そして、魔力を注ぐと、スクリューは高速で回転し、船は速度をあげた。



 場面は戻り、パルサイド。

 海賊船は、相変わらず巡視船との激しい海上戦が続いていた。

 そんな最中にも、ミラージュ王国の港からは海軍の軍艦が数隻出航し、海賊船へ向けて進軍していた。


「くっ! 海軍が動きだしたか……」

「船長! どうします? このままじゃ……魔導砲が放たれる前にやられてしまいます」

「くっ! 分かってる!」


 険しい表情を浮かべ、パルはそう答える。

 状況は最悪だった。

 だが、その時だ。激しい爆音と共に、水柱が高々と噴き上がり、海軍の軍艦が大きく揺れる。


「な、なんだ!」


 突然の爆音に、驚くパルは、軍艦の方へと目を向けた。

 先頭に居た軍艦は船底を破損したのか、動きを停止し、船体が傾いていた。

 何かが船底に当たったのだ。

 それが、なんなのかパル達には分からず、暫し目を丸くしていた。

 だが、すぐに船員の声が轟く。


「魔導砲、発射口に高熱反応! 魔力の充填が終わった模様です!」

「くっ! 今度は、魔導砲か!」


 我に返ったパルはそう声を発し、その視線を光の凝縮される発射口へと向けた。

 十キロ近く離れているのに、その発射口に凝縮される光は眩く輝いていた。

 それだけで、どれ程の威力を誇っているのかが、窺えた。

 それを真っ直ぐに見据えるパルは息を呑む。


(信じるぞ! クロト……)


 パルはそう念じ、拳を握った。

 一方で、船首よりも少し前に位置取るセルフィーユは、深く息を吐き出し、その発射口を真っ直ぐに見据える。


『今度は、私の番ですね!』


 誰にも聞こえないのに、セルフィーユはそう言葉を発する。

 気合を入れるのと同時に、自分は一人じゃないと言う事を自らに言い聞かせていた。

 守るべきものがその背にはあるのだと。

 凝縮された光が、一瞬消えた。そして――轟音。

 それは、衝撃を広げ、空に散っていた雲を一瞬にして吹き飛ばす。


「魔導砲! 来ます!」


 船員の一人が声を上げる。


「衝撃に備えろ!」


 パルはそう言い、手すりを握った。

 放たれた魔導砲は、金色の光の線を描き、海を真っ二つに裂きながら海賊船へと直進する。

 その砲撃に対し、セルフィーユはやや左側へと移動し、両手をかざす。


『ミラーシールド!』


 そう声を上げる。

 これも、クロトの作戦の一つだった。


“正面から受け止めるんじゃなくて、右方向へとはじき返すんだ”


 それが、クロトの指示だった。

 それに従い、セルフィーユは全力で、その砲撃をミラーシールドで弾く。

 砲撃がミラーシールドに衝突し、激しく衝撃を広げる。眩い光が周囲を包み衝撃より、波が大きくうねりを上げ、船は激しく上下左右に揺れた。

 船にしがみつく船員とパルは、ただ、その不思議な光景に驚愕していた。

 自分達の船の前で、魔導砲の閃光が大きく右へと向きを変え、激しい爆音と共に水柱を吹き上げていた。


「な、何が……起こってる」


 驚きのあまり、パルはそう口にする。

 そして、思い出していた。この作戦を実行する前に、クロトが言った、


“大丈夫だ。俺達には勝利の女神がついている”


と、言う言葉を。

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